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〈第十一話 出発は波乱と共に〉

 


 街道から少しそれた森の中。



 突如、地面に魔方陣が浮かび上がる。浮かび上がると同時に、現れる複数の人影。



 人影は、黒い髪をした小柄な少女と、百九十センチはあろう大柄な青年。青年の面影によく似た、百六十センチぐらいの小柄な少年の三人だ。少女の足下には、一匹の子犬と黒猫が寄り添うように立っている。そして、少女が胸に抱いているのは、なんと、赤い子竜だった。



「よかった~~。ちゃんと使えたよ」



 私は心から安堵する。この場所には見覚えがあった。二日前、ジュンさんが転移魔法を使った時に出た場所だ。



「よかったですね。睦月さん」

「無事着いてよかったよ。ほんと……」

「……そうだな」

「「「…………」」」



(サス君以外、その反応は何!? はっきり聞こえてるんですけど、ため息をついてるのが。それって、安堵のため息だよね。シュリナなんて、緊張で体が強張ってたし。私はいいんだよ。初めて使う魔法だったし。緊張するなとは言わないけど、そんなに大きなため息をつかなくてもいいんじゃないかな)



 私はシュリナから手を放すと、代わりにサス君を抱き上げた。



「サス君、行こうか。小腹すいたよね。温泉卵や温泉饅頭食べる?」



『『主様、主様。私も』』



「そうだね。皆で食べよっか」



 ホムロ村は確か、あっちの方角だったよね。私はサス君を抱いたまま、村に向かって歩きだした。



「おい!! 何故、犬っころを抱いておる。抱くなら、我を抱かぬか!」



 耳元でシュリナが文句を言っているが、私は当然無視する。そんな私の様子にガミガミと、文句をいうシュリナ。当事者同士はじゃれてるだけなのだが……



 そう思っていない人物がここにいた。



 彼らは少し距離をおいて、後ろからついてくる。ココと青年、それと少年が歩きながら、じゃれてる私たちを見ていた。



「いつもああなのか?」

 眉をしかめ、少年はココに尋ねる。



「そうだね。いつも、あんな感じだよ」



「……不敬じゃないか?」



「スザク様に対して。だと思ってるのなら、その考え自体が不敬だよ。ムツキに対して」



 少年はココを射るように睨み付ける。言われている意味が分からないようだ。



「今言ったこと、スザク様に言ってごらん。リク、君は間違いなく殺されるからね。最悪殺されなくても、半殺しの上、眷族抹消されるだろうね」



 その視線に動じることなくら、ココは平然と言ってのける。



「どういう意味だ!! まるで、我が主が〈護りて〉様より下のような言い方だな!」



 少年は殺気をはらんだ視線でココを睨み付けながら、低い声で言い放つ。



 実際、下なんだけどね。ココは心の中で答えるが、口には出さない。



「もう辞めないか! これ以上は、俺が許さん!!」



 青年がリクという名の少年を、厳しく叱りつける。リクの怒りの矛先が、青年に向かう。



「兄上! 兄上は悔しくはないのですか!! 我が主を馬鹿にされたのですよ、妖精猫ごときに!!」



「ーー君は、ムツキを何者だと思ってるんだい?」



 ココはリクに問いかける。その声の冷たさに、リクは気付いていない。



 しかし、青年は気付いていた。と同時に、異様な迫力に怯む。次代の長老を引き継ぐ自分が、妖精猫とはいえ、小さな猫に怯まされることに、青年は驚く。



「我が主を助ける存在だ」

「それだけ?」

「他に何がある?」

「君は、シュリ様や長老様たちに何も言われなかったの?」

「…………」



 無言が答えだった。



 言われたのだと、ココは判断する。ムツキの正体を聞いたかどうかは分からないが、少なくとも、スザク様と同様に仕えるよう言われたはずだ。彼らは、〈神獣森羅の化身〉の恐ろしさを身に染みている。そしてその〈神獣森羅の化身〉が、今まで自分たちを守る結界を張ってくれていたことも、重々承知していたはずだ。なのにーー



「リク。君はこのまま里に帰った方がいい。君の存在自体が、ムツキやスザク様に対して不敬そのものだ」



「それは、お前が〈護りて〉の眷族だからか?」

 明らかに馬鹿にしたような言い方だ。



 ココはこう言った。「ムツキやスザク様」と。聖獣より先にムツキの名前を先にだした。その意味をリクは気付いていなかった。気付かないどころか、スザク様に張り合おうとしているのだと勘違いし、馬鹿にし、様をつけることすら止めていた。



 ココは唖然とする。アウトだ。完全に積んだ。そもそも、何でこんな奴をよこしたんだと、心の中で毒づく。



 その様子を見たリクは、またしても勘違いした。図星だったのだと。



「フン!! 愚かにも程がある。人間風情がーーーー」

 リクは最後まで言うことが出来なかった。



 殴って止めようとした青年よりも早く、リクの体が軽々と後ろに吹き飛んだからだ。大木に背中を激しく打ちつける。痛みで起き上がれない体に、更に責め苦を与えた。見えない何かが、リクの体に攻撃を加える。何度もバウンドする体。そして最後に、赤い刃が、リクの四肢を貫く。しかし、リクの口から悲鳴が上がらなかった。声を封じられていたのだ。



 ーー赤い刃。



 それを見て、ココと青年は瞬時に分かった。今、リクに責め苦を与えているのが何者かを。



『何をしている! 早く来ぬか!! ココ、リード』



 シュリナは念話で、ココと青年に厳しい声で命令する。そこに、リクの名前はなかった。それが答えだ。



 ココは動きを封じられ、声も封じられているリクに歩み寄る。



「だから言ったのに。……リク、君は知らなかったんだね。ムツキが何者かを。それとも聞こうとしなかったのか、今となってはどうでもいいことだけど。だからといって、許されるものではないよ。君は素直に聞くべきだった。そして考えるべきだった。シュリ様と長老様の言葉の真相をね。動けるようになたら、彼女らに訊いたらいい。里に入れるのならね」



 そう言い残すと、ココは主である少女の元に向かう。途中、リードの側で立ち止まると顔をしかめる。



「何て顔をしてるんだい。リード。気持ちは分かるけどね。あれでも、君の弟だし。でもね、そんな顔をしてムツキの前に立つことは、僕は許さないよ。もし、一緒に旅をするなら、その顔を何とかしてきなよ。……それじゃ、先に行くね」



 ココは厳しい口調でそう言い残すと、ムツキの元へ走って戻った。





 お待たせしました。


 ホムロ村編の始まりです!!

 今回はココがメインで。リードは第一章に出てきた魔獣さんです。


 最後まで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m


 それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪

 

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