第九話 商業ギルドに誘われました
「商業ギルドですか……?」
やけに上機嫌なゼロさんに若干引き気味になりながらも、私は考えを巡らす。
ーー商業ギルド。
その実態に関して詳しいことは知らないが、名前なら何度か聞いたことがある。私が在籍しているハンターギルドと対になるギルドだ。商人が主に所属しているらしい。なんでも、ダンジョン内にある宝箱に入っていた宝石などは、商業ギルドで売った方がいいって話しているのを、耳にしたことがある。私が知っているのはこれくらいかな。
「そう。商業ギルド。知ってる?」
「……あんまり詳しいことは知らないけど。商人が主に所属しているギルドで、ダンジョン内の宝物や、魔物が落としたドロップアイテムとかも買い取りをしているぐらいしか……」
「うん。間違ってないよ。ただ、在籍しているのは商人だけじゃない。ハンターも多く在籍しているよ」
意外な答えが返ってきた。
「ハンターも!?」
(商売人じゃないのに?)
「売る側も、言い換えれば商売をしていることになるからね。別段、おかしいことじゃない。ここのギルマスも在籍しているよ」
(えっ!? ジェイが!? まぁ確かに、魔石やドロップアイテムを売った時点で利益を得ているわけだから、商売っていえると思うけど……)
自分の手で作って売るのが商売だと思っていた私にとって、命を奪って売るのが仕事ではなく、商売という点に少し違和感を感じてしまう。甘いって分かってるんだけどね。
「それで、私に……?」
「ムツキちゃん、商業ギルドに入らない?」
「私がですか!?」
「そう!」
「どうしてですか?」
突然の誘いに驚く。
「実は、前から誘おうかなって思っててね。ムツキちゃんが持ってくるドロップアイテムや魔石は、とても質が良くて、僕たちの間でも評判になっていたんだ。そして、今回の特上ポーションが決め手になったね」
ということは、ゼロさんは商業ギルドに在籍しているってことだ。それはおかしなことじゃない。だとしても、商業ギルドが私が売った物を把握してるのは何故? ハンターギルドが教えたとは到底思えない。ということは……。
「……ハンターギルドが商業ギルドの所に、買い取った商品を持って行った。もしくは逆。目的は、ハンターから買い取った商品を売るため。その差額がハンターギルドの収入の一つだから。……ゼロさんが私を商業ギルドに誘う理由は、直接買い取った方が余分なお金を払わなくてすむからですか?」
考えをまとめる様に、ぼそぼそと呟く。
それを黙って聞いていたゼロさんは満面な笑みを浮かべた。その笑みに、私は一瞬身を竦ませる。ゼロさんの底知れぬ何かを無意識に感じ取ったからだ。と同時に、私が呟いたことが、あながち間違いではなかったことを知る。
「流石、ムツキちゃん! 頭の回転速いね。ほぼ正解だよ。でもそれだけじゃない。ムツキちゃんの才能に惚れ込んだからだよ。正直に言うと、ムツキちゃんは金の卵を沢山生んでくれそうだからね」
「それは、私で儲けたいってことですか?」
ぶっちゃけ、そういうことよね。私のことをお金の生る木と思っているのだ。失礼にも程があるよね。だけど正直、怒りの感情は湧いてはこなかった。不快にも思っていなかった。
「気を悪くした?」
ゼロさんは訊いてくる。潔いっていうか。私は苦笑する。
「全然。商売ってそういうものだと思ってるから。ゼロさんのお店でも、優秀な【薬師】を多く雇うことは必須でしょ。直接、売り上げにも大きく左右することだし。優秀な【薬師】は金の卵を産む親鳥でしょ」
言ってる途中からゼロさんは目を見開き、私を凝視する。そんなに意外だったかな。
「ムツキちゃんって、本当に最高だね。ますます欲しくなるよ。で、どう? 商業ギルドに入らない?」
入るって言うまで、帰さない雰囲気だね。でも、判断するには、もう少し話を聞く必要がある。
「そうですね。……メリットとデメリットは?」
これだけは、絶対に訊いとかないといけないことだ。ゼロさんがいくら信用出来る人だったとしても。
「メリットは三点。まず一つ目が、ハンターギルドより高値で取引すること。二つ目が、商業ギルドに入れば、商人とのトラブルが回避出来ること。三つ目が、レアアイテムとかも優先的に買えるし、割引も受けれる。提携している店には並ばずに特別待遇で入れること。デメリットは、入会金と年会費が高いことかな」
聞いてると、ギルドって感じがしないよね。どっちかというと、特権階級のみが入ることが出来るような団体。そんな感じがはする。
「それって、この朱の大陸だけですか?」
「いいや。五大陸全てだよ。ただ……白の大陸は提携店が少ないけどね」
(ふ〜〜ん。なるほど)
「因みに、入会金と年会費は?」
「最低ランクで入会金が金貨十枚。年会費が金貨五枚かな」
(高っか~~!! 一年以上何もせずに暮らせるだけのお金が、最低ランクでもかかるなんて! 初年度だけのようだけど。正直悩むな~~)
よほどのメリットがないと無理だよ。
「ゼロさん。高値で買い取ってくれるって言ったけど、どれぐらいの価格ですか?」
「ハンターギルドの10パーセントから15パーセント上乗せかな。商品によるけど」
(10パーセントから15パーセントかぁ……)
それなら、そう掛からずに入会金も年会費も取り戻せると思う。十分に、回収可能だ。だけど、
『皆はどう思う?』
念話で皆に訊いてみた。
『我はどちらでもよい』
『僕は十分利益はあると思うよ。実際、商業ギルドが提携しているお店は多いしね。日常品も5パーセントほど安く買えるし。流石に、露店とかは無理だけど』
『私もココと同じですね。入ってても損はないと思います』
シュリナ以外は賛成かぁ。シュリナも反対はしていないから、実質OKってことだよね。でも、まだこれだけじゃ決められない。
「……最後に、一つだけ質問が」
「何かな?」
「途中で、ギルドを抜けることは出来ますか?」
「出来るよ。但し、払われた年会費と入会金は戻ってこないけどね」
それは構わない。だが……。
「他に払うお金とかありませんか? 例えば、抜けたら違約金が発生するとか?」
「それは大丈夫。ないよ」
ニコッと笑いながらゼロさんは断言する。
(違約金とかを払う必要がないのなら)
「……分かりました。商業ギルドに登録します。今からでも登録しに行って来ますね。それで場所は?」
「ありがとう!! ムツキちゃん! 早速、書類用意するね」
(えっ? 書類を用意する? 今ここで!?)
『商業ギルドの本部は王都にあるんだけど、ハンターギルドのような支部はなくてね、ギルマスがいる場所が支部の役割を果たしてるんだよ』
ココが丁寧に教えてくれる。
『じゃあ、ゼロさんはギルマスなの!?』
ココの説明じゃそうなるよね。ココは私の問に頷く。
『そうみたいだね。……まぁでも、ゼロがギルマスだったとしてもおかしくはないけどね。それだけの実力も実績もあるし。因みにギルマスって、大陸にそれぞれ四人いるそうだよ』
まだ若いのに凄いと思う。本当、前々から凄い人だとは思ってたけど、マジで凄かったよ。
「ムツキちゃん。これが契約書。よく読んでから、サインしてね」
ゼロさんはニコニコ顔で契約書を持ってくると、私に手渡す。
三枚にわたって詳しく契約内容が書かれている。私はそれを隅々まで目を通す。
「ゼロさん。同じのをもう一部貰えますか?」
私の言葉が意外だったのか、ゼロさんは目を見開く。
そんなに驚くようなこと言ったかな? もう一部控えとして貰うのって当たり前だと思うけど。違った?
「勿論、用意するよ! ムツキちゃん、将来商人にならない? 絶対、成功すると思うよ」
やけに、商人プッシュするなぁ。
「私に商人は無理だよ」
ペンを受け取り契約書にサインした。
書き終えてから、鞄に手をいれてから固定スキルを発動する。
『【銀行】スキル、オープン。引き落とし金貨10枚』
口に出さずに唱えた。唱えた途端、銀貨が数枚しか入っていない革袋の中で、複数の硬貨の感触を感じた。私は鞄の中から金貨10枚と、さっきゼロさんに貰った特上ポーションの代金、金貨5枚をテーブルの上に置いた。
ゼロさんはサインが書かれた契約書とお金を受け取る。そして私に、一枚のカードを手渡した。
その瞬間だった。
カードに私の名前と年齢、出身が表示され、備考欄にはゴールドランク 職種冒険者と明記されていた。勿論、写真のような似顔絵付きで。ほんと、魔法って凄いよね。
「おめでとう!! これからも宜しく頼むね。ムツキちゃん。あっ、それから、僕のことは内緒にしててね」
何で内緒にするのか分かんないけど、ゼロさんなりの理由があるんだろう。
「分かりました。ゼロさんのことは内緒ですね。これからも、色々宜しくお願いします」
満面な笑みを浮かべながら喜ぶゼロさんと握手する。
これが吉とでるか、凶とでるか、正直分からないけど、なんかワクワクしてきた。楽しくなりそうな予感がする。世界を救うなんて、重たい旅だけど、やるからには、出来る限り楽しみたいじゃない。不謹慎に映るかもしれないけどね。
お待たせしました。
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪
〈只今の貯金額〉
白金貨 七枚
金貨 〇枚
銀貨 二十六枚
銅貨 二十一枚
青銅貨 九枚
(遊んで暮らせる月 約六年)
 




