第八話 これって副業だよね
ゼロさんの所に持って行くポーションは追加効能が付いていない方にした。
持って行けないでしょ。だって、普通、ポーションに追加効能なんて付かないんだから。っていうか、付いてるのを店やギルド内で見たことがないし。毒とかでHPが減ってたら、ポーションと毒消しの両方をを使うしね。
あれから何回か色んな方法で作ってみたけど、結局最後まで、中級や上級のポーションは出来なかった。全部、特上だったよ……。偽物を用意することも考えたんだけど、そんなことをしても直ぐにバレるだろうし、何よりも、ゼロさんの信頼を失いたくなかった。だから、特上ポーションを持って行くことにした。
通されたのは事務所の奥の部屋。社長室ってとこかな、ソファーに座ってゼロさんを待つ。数分後、ゼロさんが戻って来た。
「ゼロさん、これ」
私は小瓶をゼロさんに渡した。
「もう出来たの!?」
ゼロさんは驚愕しながらも受け取る。
(まぁ、普通、驚くよね)
特上ポーションを持って訪れたのは、ヒール草を買った次の日だったからだ。
ゼロさんは窓際に移動すると、太陽の光りで瓶の中身を透かすように見た。少し振っている。底に不純物がないか確認しているようだった。
「【鑑定】」
小さい声だが、はっきりとした口調でスキルを発動させる。私の耳にもその声が届いた。
(スキルばれていいのかな?)
他の人に喋る気はないけど。それでも、私の前で発動させてよかったの? 固定スキルは隠してる方がいいって、ギルドのお姉さんたちから聞いていたから。なのに、躊躇もなく、ゼロさんは私の前で披露した。それは、私を信用してるからかな? だとしたら、すっごく嬉しいのに。
ゼロさんも私と同じレアスキルを持っていたことに吃驚した。しながらも、なるほどと納得したよ。若くして、何店舗も薬屋を経営している影には、このスキルがあってこそなんだろうね。
「こっ、これ、本当にムツキちゃんが作ったの!?」
(ち、近いです!! ゼロさん!!)
いきなり美形の男性に詰め寄られて焦ってしまう。
当のゼロさんは、とても慌てながらも確認をしっかりととってくる。流石です。さりげに、気持ちばかり後ろにお尻をずらした。すぐに背中にソファーの背が当たる。近いままだ。それでも、訊かれたから素直に答えたよ。
「うん」って。
勿論、自分が作ったからね。
「どうやって作ったか、訊いていい?」
王子様スマイルでゼロさんが尋ねてくる。
(言ってもいいのかな?)
もし、作り方が普通じゃなかったらと思うと躊躇してしまう。なので、ここは素直に並んで座っているシュリナに念話で尋ねてみた。
『言っても、大丈夫?』
『別に構わん。好きにしろ』
(いいんだね)
『うん。分かった』
念話で話ながら、器用にもシュリナはコップを両手に持ち紅茶を美味しそうに飲んでいた。
(超~~可愛い!!)
抱き締めたい衝動と戦いながら、何とかシュリナから視線を逸らすと、今度はココとサス君が並んで紅茶を飲んでいる。クーー!! これは何かの修行なの! ゼロさんがいなかったら、絶対にモフリ倒してたのに!!
心の叫びは、当然皆にも伝わってるので。シュリナたち従魔トリオは、またかと、大きな溜め息を吐いたのでした。
その様子を側で見ていたゼロさんが、耐え切れず声を出して笑い出した。もしかして顔に出てた!? 恥ずかしくなった私は、真っ赤な顔のまま慌てて話を本題に戻した。
「ポっ、ポーションの作り方ですよね。深皿に、ヒール草五枚とコップ一杯の水をいれてから、回復魔法を三回掛けて、ヒール草が溶けてなくなったら完成です」
「……それは、斬新な作り方だね」
ゼロさんは驚愕しながらも、どうにか笑いを堪えて感想を述べる。
(斬新な作り方? やっぱり、作り方が違うのかな?)
「普通はどうやって作るんですか?」
気になったので尋ねてみた。
「【薬師】がヒール草を聖水で煮出してから、濾過して作るんだけど……」
「【薬師】?」
初めて聞くスキルだ。字の如く、薬を作るスキルなんだろう。他にも何かあるのかな? 【薬師】について尋ねる私に、ゼロさんは不思議そう表情を浮かべながらも教えてくれた。
「薬を調合したり、製造したりする、特別スキルだよ。そのスキルを持たない者は、薬を調合することも、製造することも出来ない。例えば、僕が同じ様に作っても、ただの苦いお茶だってことだよ。ポーションじゃなくてね。ムツキちゃんは、【薬師】のスキルを持ってるんだね。それも【上級薬師】の」
ゼロさんの言葉に、思いっきり首を横に振る。
「そんなスキル持ってません!」
「持ってなくて、ポーションを作れるわけないよ」
ゼロさんは信じてくれない。ここで、ステータスを見せたいけど、私のステータスを見せるわけにはいかない。っていうか、ぶっちゃけ見せれない。特に種族は。
「何を言っておる、人間。出来るに決まっておろう」
口を挟んできたのはシュリナだ。呆れた口調だった。
反対に、ゼロさんはとても困惑しているようだ。そりゃあそうだよね。この業界の常識を一般常識を真っ向から否定されたんだから。とはいえ、頭からは否定はしない。そんなゼロさんに助け船を出したのは、ココだった。
「ゼロ、いいかい。【薬師】というスキルは、神聖魔法から生まれたスキルなんだ。分かる? 神聖魔法は魔物を浄化したり、呪いを解くものだと一般的に捉えられているけど、君たち人間が言う光魔法の回復魔法や蘇生魔法は元々、神聖魔法だったんだ。……そして、【薬師】の源流は回復魔法。つまり、派種なんだよ。ムツキは回復魔法の使い手としては上級クラス。この意味が分かるかい?」
妖精猫であるココがゼロさんの足元まで歩み寄ると、シュリナに代わって説明した。私にも分かり易く。
(ん? あれ? 私、回復魔法、上級クラスだったの?)
伝わってるはずなのに、完全にスルーされた。
「……つまり、上級クラスの回復魔法が使えるムツキちゃんにとって、回復魔法の系統である【薬師】のスキルは不要ってことか」
「そういうこと」
ココは前足を舐めながら答える。
「なるほど……勉強になったよ。ココ。ありがとう」
ゼロさんは素直にココに礼を口にする。
ーー妖精猫。
ケットシーは博識で有名だ。その知識欲しさに、王室や貴族、神官などが捕獲しようと躍起になった歴史がある。だが、捕獲することは出来なかった。地上から姿を消したのか。猫になりきったのか。今となっては分からない。ココも知らないんだって。
だが、その妖精猫と竜が言うのだ。まず間違いない。それに、スキルを持たないムツキが作ったのだ。それは疑いようのない事実だった。しかし、
「……ムツキちゃん。ポーションが作れることは黙っといた方がいい」
「どうして? って、訊いてもいいかな?」
元々誰にも話すつもりはなかったが、念のために理由を訊いておこうかな。
「ココが今言ったことは、一般には認識されていないんだよ。僕も初耳だったし。これ以上、下手に目立たない方がいい」
ゼロさんは真っ直ぐ私の顔を見下ろし、そう注意する。私は尤もだと思って、頷く。
「……でも、特上ポーションとはね」
ゼロさんの呟きに、私は苦笑いを浮かべる。
「ムツキちゃん。これからもポーションを作る予定ある?」
質問の意図が分からないけど素直に答える。
「うん。なくなったら、作るつもりです」
「だったら、その時、少し多めに作ってもらえるかな? 出来れば、それを買い取らせてもらいたいんだけど」
(買い取る? 何で?)
「それはいいけど。……でも、どうして?」
「……深くは言えないけど、近いうちに、大量に必要になるかもしれないからね」
(大量にポーションが必要になる? まさか!?)
『ゼロさんは知ってるの!? 結界のこと』
『知らないはずだ。ただ、魔物が多くなってきていることには気付いているかもしれないが……』
どことなく、シュリナの歯切れが悪い気がする。気になるけど、たぶんシュリナは教えてくれないよね。それとなく訊くような器用さはないし。ここはスルーかな。
改めて姿勢を正しゼロさんに返答する。
「分かりました。そんなに作らないと思うけど。それでよければ」と。
「それで全然構わないよ。ありがとう、ムツキちゃん」
ゼロさんはニコッと微笑む。王子様の笑み頂きました。
「早速だけど、この特上ポーション、金貨五枚でどうかな?」
(金貨五枚!! マジで!? 原価の百倍以上の買い取り額だよね!!)
「そんなに!! 貰い過ぎです」
私は断固拒否する。貰い過ぎは絶対いけない。これから先、対等な付き合いが出来なくなるからね。
「いや、これが妥当な取引額だと思うけど」
買い取り価格があまりにも高くて拒否する私を、ゼロさんは優しい目で見詰めクスッと笑う。
「ムツキ、僕も妥当な額だと思うよ」
ココはゼロさんが提示した額に同意する。
「う~~ん。……それじゃ、その額でお願いします」
渋々同意したよ。渋々ね。
ココも妥当な値と言ってたし。それに、ゼロさんの商売人の気持ちを無下には出来ない。常識に疎い子供の足下を見ないで、対等の取引を提示してきたんだよ。無下になんて出来ないでしょ。
また、クックックと笑いながら、ゼロさんは金貨五枚を私の前に置いた。そのお金を受け取り鞄にしまう。
「ところで、ムツキちゃん。商業ギルドって知ってる?」
ニコニコと微笑みながら、ゼロさんがそんな事を尋ねてきた。
まだ、何かあるようです。
お待たせしました。
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




