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第七話 うみねこ亭の看板猫(二)

 書き直しました。



「……あれ? ムツキ、面白そうな冊子貰ってきたね」



 無造作に置いた時に革袋の口が開いたのか、ギルドで貰った数種類の冊子が数冊飛び出ている。その一冊を、ココは前足で踏みながら、おかしそうに訊いてきた。

 ココが踏んでるのは、私が希望した職種、冒険者の冊子だった。



 面白そうな職種かな? 係員の人は渡したがらなかったし、そんなに人気がない職種なの?



「まさかと思うけど、ギルドの人に薦められたんじゃないよね?」


「ううん。私が希望したの。全てのステータスを均等に上げれる職種だから」


「それが理由!?」



 意外な答えに驚くココ。

 そういえば、係員のお姉さんも同じ様な反応してたね。そんなに意外かな? 理想的な職種だと思ったんだけどな。



「私、そんなに変な事言ったかな?」


 取り合えず、ここは素直に訊いてみよう。


「ムツキは、どうしてそう思ったをだい?」


 質問したのに、質問で返ってきたよ。……改めて訊かれると、難しいな。


「……う~~ん、そうだね……例えば、戦士の職種に就いたとするよね。当然、体力やHPは伸びるのが早いけど、対極にある魔力などは伸びにくいでしょ。反対に、魔術師や僧侶でも同じ様なことが言えるし。そう考えたら、同じ様に経験値を積んでも、なんか勿体無いって思ったんだよね~」



 ちょっと考えてみても、戦士や魔術師が、同じ様に能力値がアップするとは、まず考えられない。ロールプレイングゲームでもそうだしね。



 全体的に平均値が上がれば、別に戦士にならなくても、十分剣やダガーを装備することが出来る筈。だったら、特化した職種に敢えて衝く必要ないよね。

 元々、始めから職種にこだわるつもりはなかったし……。職種は、あくまで自分の能力を上げるためのものだと考えていた。

 始めから自分が就きたい職種を決めている他の合格者たちは、呆れてるだろうなって思うけどね。

 それに、師匠曰く、魔術師や僧侶にならなければOKだし。



「ふーん、なるほど。ムツキはそう考えたんだ」


 ココは納得したように呟く。


「……サス君とココに訊きたいんだけど、もし戦士が、攻撃系や回復系の魔法を覚えようとしたら、どうなるの?」


 これ、結構大事だよね。

 私はギルドで出来なかった質問をぶつけてみる。


「覚えられない事はないけどね。ただ、通常よりも三倍近くの経験値が必要だけど」


「それに、覚えるのも限られてますよ。初級魔法しか覚えられません」


 なるほど……。経験値を消費していくタイプね。

 にしても、三倍近くの経験値を消費して初級魔法しか駄目って……だったら、尚更、戦士は却下だよね。それよりも、



「魔法にレベルがあるのは分かるけど、レベルアップの仕方がよく分かんない」


「二種類あるね。初級レベルをまず覚えて経験を重ねていくパターンと、いきなり中級レベルを覚えるパターン。まぁ、ムツキなら、いきなり中級レベルの魔法を覚えれると思うけど、お薦めは出来ないね」


「どうして?」


「さっきも言ったけど、覚えるのに経験値が必要だからだよ」


 あーなるほど。中級レベルの魔法を覚えるには、かなりの経験値が必要になるって事か。当然と言ったら、当然だよね。それまでは、魔法以外の攻撃しか出来ない。それって、駄目じゃん。それに覚えられる魔法も少ないし。これはコツコツ稼ぐしかないよね。


「初級、中級があるんなら、上級もあるの?」


「超級まであるよ。でも、人から習えるのは中級まで。後は自分の頑張り次第かな」


「そっかぁ~~。うん、分かった。頑張る。……冒険者でも魔法は覚えられるの?」



 これ一番大事。

 師匠がくれた冊子には、そこまで詳しくは載ってなかった。職種の説明は結構詳しく書かれてたけどね。


「覚えられるよ。別に、戦士みたいに経験値を消費しなくてもいいし。確か……中級レベルの魔法までは覚えられたと思うよ。それに、経験値もレベルも、他の職に比べて稼げるしね」


 前足で顔を洗いながら、ココは教えてくれた。



(それって、理想的な職種じゃない!!)



「だったら、攻撃系とか回復、サポート系の魔法も一緒なの!? 特別に経験値とか必要?」


 もし必要でも、覚えた方が良かったら躊躇ためらわずに覚えるけどね。こんな所でケチるのは馬鹿がする事だよ。

 でもまぁ、どの魔法を覚えても、必要になる経験値の差が然程なかったら最高だよね。


「そこまで詳しくは知らないけど、マイナーじゃないのは、基本、経験値の消費が多いと考えた方がいいね」


「そうですね。中でも、サポート系の魔法は消費が多いと聞いた事があります。ココも言ってましたが、一応冒険者は中級レベルまで覚えられますが……冒険者で覚えたって話は、聞いた事がありません」


 聞いた事がないって、どういう意味?

 首を傾げる私に、ココが補足する。


「冒険者っていうのは、どの職種にも就く事が出来ない人を対象にした職種なんだよ。……つまり、ハンター予備軍って言った方がいいかな。だから冒険者だけ、他の職種に比べて薄かったでしょ」



 あ~~確かに、薄かったわ。他の冊子と比べて、三分の一の厚さしかない。



(ハンター予備軍ね……)



 だから、他の職種と比べて経験値が稼ぎ易くて、全体的にレベルアップ出来るんだね。納得納得。そしてある程度、ステータスが向上したら、新しい職種へと変更し直す訳ね。

 元々、新しい職種に就くための前段階だから、サス君の言う通り、中級レベルの魔法はまず覚えない。覚える才能があったら、始めから魔術師か僧侶になってるよね。

 ギルドの係員が冒険者の冊子を渡すのを躊躇ったのも、ギルマスが渡すように指示をだした時、咎めるような言い方をしたのも合点がいく。ほんと、無知って怖い。



 でも……私の希望に一番近いんだよね……。

 多少経験値が多く消費しても、その分経験値は稼げるし、十分カバー出来るって思うんだよね。



「冒険者でも、ハンターの仕事は正式に出来るんだよね?」


 出来なかったら困る。


 一応、師匠から貰った、この世界の手引き書(冊子、インストール済み)では、冒険者は初級の職種に分類されていた。だから選んだんだけど。でも、ココとサス君の話を聞いて少し不安になる。


 もし仮免なら、師匠の課題をクリアー出来ないんじゃ……あっ! でも、魔術師と僧侶以外はOKだから大丈夫か。仮免は駄目だって言われてない。なら、OK? 少なくとも、報酬が貰えればいいんだよね。


「その点なら大丈夫だよ。ちゃんと報酬出るし、ハンターには間違いないから」


 ハンターに間違いないから、OKだよね。


「睦月さんは、トップ合格じゃないですか。そのような心配は無用です」


 ちょっと論点がずれてるような気がするけど、問題ないよね。



 ココとサス君の台詞にホッと胸を撫で下ろした時だった。



 カランカランとドアを開けるベルの音がした。

 恰幅のいい女性が、大きな紙袋を抱え店内に入って来る。



(彼女がジュンさん?)



 抱えていた紙袋をテーブルに置くと、ココに「ただいま」と声を掛けてから私たちに視線を移した。



「元気そうね、サスケ」


「ああ。ジュンも元気そうで何よりだ」


 サス君の頭を撫でながら、一人と一頭は挨拶を交わす。

 かなり親密そう。やっぱり、彼女がジュンさんのようだ。



 師匠と先代(伊織さん♀)以外に初めて見る魔法使いだった。



 第一印象は、魔法使いっていうよりは、どちらかというと肝っ玉母さんみたいな雰囲気を持った女性だ。ちょっと言い方が古臭いかな。でも、それ以外に言葉が浮かばない。

 何人も子供がいて育ててるような、どっしりと構えた感じ。優しそうで、情に厚く、包容力がある印象を受けた。

 同じ魔法使いでも、師匠や先代とは全く違った雰囲気だ。



 ジュンさんはサス君の頭を撫でながら私を見た。私は慌てて挨拶する。



「はじめまして。勝手に店内に入って済みません。ムツキ=チバと言います。これから、宜しくお願いします」


 私はこれからお世話になる人に頭を下げた。


「こちらこそ宜しくね、ムツキちゃん。私はジュン=ホグナと言います。色んな意味で、ムツキちゃんの先輩かな。これ、早速ムツキちゃんに買ってきたんだけど、どうかな?」


 次々と買ってきた紙袋の中身を取り出している。生活する上で最低限必要な日用品が並んでいた。歯磨きセットとか、着替えや下着とかだ。とても嬉しい。感謝してる。でも……。


「あの……ジュンさん。私、今お金を持っていなくて。ハンターの仕事をして必ず支払いますから、それまで待ってもらっていいですか?」


 初めて会った人間に、借金の申し込み。重々あつかましいお願いだと思うけど、ここは何度も頭を下げてお願いする。


「お代は要らないわ。これは、この世界に来てくれた貴女に、ささやかなプレゼントよ。遠慮せずに受け取ってくれると嬉しいかな」


 そう言ってくれるのは、とても助かる。喉から手が出るほど欲しい。なんせ、無一文だから。

 でも、その行為に素直に甘えていいのかな?

 どう答えるのが正解なのか分からなくて困っていた私に、ココが助け船を出してくれた。



「ムツキ。これ、なーんだ?」


 ココがテーブルの上に置いてあった革袋を鼻先で押す。


 そう言えば……係員さんが冊子と一緒に、重そうな革袋を二袋渡されたのを思い出した。中身は確認していないから分からない。

 何だったのかな? 私は革袋の口を広げてみた。


(これって、お金?)


 中には、銅貨や銀貨がぎっしりと入っていた。どうりで、重かった筈だよ。


「これ、お金?」


「そうよ。さすが、イオリの孫弟子ね」


「ギルドからこんだけ貰うのって、どんなステータスなのか、反対に興味が湧くよ」


 ジュンさんとココが手元を覗き込む。



 仕事してないのに、何でお金が貰えるの? 私は首を傾げる。


「ハンター試験に合格すると、ステータスに応じてお金が支給されるんです。準備金ですね。皆、そのお金で防具や武器を購入したり、回復薬を購入してます。魔法も買えますよ」


 サス君が疑問に答えてくれる。


 へぇ~~なるほど。ステータスに応じてお金が支給されるんだ。だから、サス君は無一文でも慌てなかった訳ね。知ってたなら、もっと早く教えてくれてもいいんじゃない。本気で野宿を考えたんだから!


 

 その事はちょっと横に置いといて、ステータスが低かった人は最低限のお金しか貰えないって事!? 

 ハンターが実力社会だって分かってるけど、そこから差がつくわけ? シビア過ぎない?


「結局、ハンター試験に合格しても、アルバイトで数年過ごす人はざらにいるしね。その人はまだマシな方だよ。長い旅をしてここまで辿り着いたのに、なれない人も大勢いるからね」


「…………」


 言葉が出ないよ。


「当然です。相手にするのは魔物ですよ。それぐらいの事乗り越えられないで、魔物と対峙出来ますか」


 そう言われたら、何も言い返せない。確かに、サス君の言う通りだけどさ……。



 取り合えず、お金が手に入った事だし、私はジュンさんに代金を支払おうとした。が、反対に怒られた。好意は素直に受け取るべきだと。

 一方的に与えられる好意に慣れていない私は、こういう時、どう対応していいのか分からない。


「素直に、ありがとうでいいんですよ」


 サス君が教えてくれた。


 本当に、それだけでいいの?

 私はジュンさんの顔を見る。ジュンさんは優しい笑みを浮かべていた。


「……ありがとうございます。大事に使わせてもらいます」


 再度、頭を下げた。



「どういたしまして。ここを自分の家のように思ってくれると嬉しいかな」


「はい!」


「(出来れば、敬語も止めて欲しいんだけど。それは、おいおいね)……それで、お金の種類分かる?」


 それなら、載ってるかも。


 ーーお金の種類。


【お金の種類を掲示します】


 あっ! 一覧が出てきた。大丈夫そう。


「ありがとうございます。師匠から貰った冊子に載ってます」


 冊子を広げて見てないのに、それだけでジュンさんは分かってくれた。さすが、魔法使い。


「……過保護のベクトルが、違う方向に向いてるわ」


 確かに、その通りだと思います。







 最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m


 長くなったので分けました。


 只今、大幅に加筆修正してます。少しでも、楽しんで頂けたら嬉しいです("⌒∇⌒")

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