第六話 初めてのポーション作り
本物の雑貨屋さんでガラスの小瓶を十五本買ってからうみねこ亭に戻った。
「おかえり! ムツキちゃん」
元気な声が店の奥からする。
「ただいま」
厨房を覗くと、ジュンさんたちが晩の仕込みをしている途中だった。
「何か手伝うことありますか?」
「大丈夫。いつもありがとう、ムツキちゃん。それより、疲れてない? 帰ってきたばっかりなんだから、ゆっくり休むのよ」
いつもジュンさんは、私のことを気遣ってくれる。素直にその厚意に甘えた。その方がジュンさんは喜ぶからね。
「はい」
そう返事してから階段を上る。
自然と顔がにやけた。傍から見たら、私とジュンさんって本当の親子のように見えるかな? だったら、嬉しいんだけど。
そんなことを思いながら部屋に戻ると、私は簡易テーブルにヒール草の紙袋と小瓶の袋を置いた。
「それじゃあ、始めようか。まずは……」
小瓶を洗わないとね。ポーションをいれるから、煮沸消毒も必要かな。ガラス製だけど割れたりしないよね。小瓶を手に取りながら考えていると、部屋をノックする音がした。持っていた小瓶をテーブルに置いてドアを開けた。
そこには、小柄な少女が立っていた。少女の顔は明らかに嫌そうだった。
「これ、ジュンさんから」
そう言って、私を睨みながら乱暴にトレイを渡す。中味がこぼれそうになるのもお構いなしだ。
「ありがとう」
ちょっとムッとしながらも礼を言うが、少女は無言のまま階段を下りて行く。
やっぱり、無視ですか。まぁ、いいけどね。
「あの娘は。……ムツキ、気にしなくていいからね」
ココが階段の方を見ながら言った。
「うん、別に気にしてないから大丈夫。……これ食べてから、始めようっか!」
気にしても仕方がない。気持ちを切り替えよう。明るい声で皆に呼び掛ける。
「賛成!」
足下で、ココが元気よく答える。
「そうですね」
そう答えながら、サス君は小瓶のはいった袋をくわえるとベットに運ぶ。
「我の分もあるのだろうな」
シュリナはそう確認しながら、ヒール草がはいった紙袋を小瓶の横に置く。皆お手伝いしてくれる。
空いたテーブルにトレイを置いた。ちゃんと、シュリナの分のお菓子も用意されているよ。よかったね。
犬、猫、竜が、仲良くブロッククッキーを食べている。カコア(チョコ)成分はいってるんだけどな……。今更だけどね。カコアを飲んでた時点で、普通の犬猫ならアウトでしょ。竜は分かんないけど。姿形は犬猫でも種族が違うから、大丈夫なんだと思うけど。いいのかな? いいんだよね?
「取り合えず、食べ終わったら、先に小瓶洗うね。煮沸に関しては、ジュンさんに尋ねてみるよ」
食べ物を扱ってるんだ。衛生関係にも詳しいと思う。
十分ほど休憩をとった後、私は小瓶を綺麗に洗った。トレイの上に並べる。光りを通さない方がいいと思って、私は緑色の小瓶にした。
「別に煮沸する必要はない。我に任しとけ」
シュリナは息を大きく吸い込み、小瓶に向かって吹き掛けた。
「これでよし!」
満足そうにシュリナは言い放つ。
(これだけ?)
私は小瓶の一本を手に取る。熱い。熱を感じる。何気に瓶の中を覗いてみると、さっき洗ったにも関わらず、綺麗に乾いていた。一瞬で乾くほどの熱が加わったってことだ。なるほど、煮沸しなくてもよさそうだ。にしても、頑丈な小瓶だよね。
「……シュリナ、すごい!」
「これぐらい、大したことではない」
誉められて満更なさそう。そんな様子のシュリナを見て、思わず抱え込んじゃった。慌てるシュリナが、超可愛い!! う~ん。初夏の暑さに、シュリナのヒヤッとした鱗は気持ちいいね。癖になりそう。
「全く。ムツキは淑女としての慎みに欠けているな」
ブツクサと文句を言いながらも、大人しく抱かれている。
(淑女の慎みって……。貴族じゃあるまいし)
「「確かに、欠けてる(ね)」」
サス君とココが同意を示す。我慢、我慢。
「………………シュリナ、ポーションの作り方教えてくれる?」
ここで下手に突っ込もうなら、くどくど説教してくるか、黙って何も言わないかのどちらかだ。だとしたら、話題を元に戻すのが無難だよね。
「…………はぁ~。作り方は至って簡単だ。綺麗なボールか深皿を用意して、その中にヒール草と水を入れる」
じとーと私の顔を見詰めた後、目線を横に逸らしわざとらしく軽くため息を吐くと、ローションの作り方を教えてくれた。
私は言われた通り、深皿にヒール草五枚とコップ一杯分位の水をいれると椅子に座った。
「後は、回復魔法を掛ける。ヒール草が完全に消えてなくなるまでだ。水に溶けてなくなれば完成だ。簡単であろう」
確かに簡単だ。材料全部一緒に入れて回復魔法を使う。試しにやってみますか。
いつの間にか、テーブルの上に上がったココは、シュリナの隣に腰を下ろし、ワクワクとした目で深皿を見詰めている。サス君は小さい体に戻すと、私の太股の上に飛び乗り、特等席から、私の手元を覗き込んでいた。
「じゃ、やってみるね!!」
私は皿の上に左手を翳すと、口に出さずに『ヒール!』と唱えた。橙色の魔方陣が深皿を覆う。
「完全に溶けたら言ってね」
まだ解けないな。二回目は、ポーショが半分ほど溶けた。三回ほど唱えた時、ヒール草が完全に溶けた。
(あれ? 透明なの?)
今までお世話になっていた、ポーションは鮮やかな緑色だったのに、私が作ったのは、透明だった。もしかしたら、失敗した?
「睦月さん。確か、【鑑定】のスキル持っていませんでしたか?」
サス君の台詞を聞いて思い出す。
「あーー! 持ってた!! 使ったことがなかったから、忘れてた。アハハ」
笑って誤魔化す。
「忘れてたって……」
「【鑑定】のスキルは、誰もが欲しがる、超レアスキルだぞ」
呆れ気味に、ココとシュリナが呟く。
そうなんだ……。まぁ、分からない訳でもないけどね。だって、【鑑定】のスキルがあれば、ハズレを引く回数はかなり減ると思うし。武器も防具も、ポーションとかの薬品も 【鑑定】を見れば効能とかも分かる筈だ。
「固定スキル【鑑定】発動!!」
【特上ポーション】
効能 HP1000回復
(特上ポーション……?)
HP1000回復?
「えっ……えーーーー!!!!」
急に大声を上げる私にビクつく、サス君とココ。
その横でシュリナが心を読んで、「特上ポーションか……。まずまずだな」と満足げに呟いている。
そしてその呟きを聞いたサス君とココが驚いて、「「特上ポーション!!!!」」と叫んだ。
騒がしい中、ふと、私は小瓶を持ちながら思う。
(……これ、ゼロに持っていってもいいの? 完全にアウトのやつじゃない?)
遅くなりましたm(__)m
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪




