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第二話 初めての白金貨

 


 デンさんの武器屋を出た私たちは、一旦、うみねこ亭に戻ることにした。


 早めの昼ご飯を食べてから、鞄を持って店を出る。


 ギルドによって、魔石やドロップアイテムなどを換金するためだ。それに、ゼロの依頼の代金と魔物の討伐代金も貰わなきゃいけないしね。長旅になるんだから。しっかり色々準備しとかないと、いつ何事が起きるか分からないんだし。ある程度の貯金も必要だよね。


「こんにちは」


 何度かギルドに来て顔見知りになったウサギ耳のお姉さんに声を掛けた。


「ムツキさん!! 聞いてますよ。大活躍したんですって。長年、誰もなし得なかったS級ランクの依頼をこなされるなんて、さすがとしか言えません!!」


 満面な笑みを浮かべたウサギのお姉さんは、男性の視線を気にせず大きな胸を揺らしながら駆け寄って来ると、いきなり私の手を握りそう捲し立てる。


「声大きいです。もうちょっと、ボリューム下げて下さい!」


 顔を寄せてそう言うと、ウサギのお姉さんは慌てて手と体を放した。あれ? 顔が赤い。


「……熱でもあるんですか? 顔、赤いですけど」


「いえ! 大丈夫です!! 仕事があるので、これで失礼します!!」


 ウサギのお姉さんは焦ったようにそう告げると、走り去ってしまった。


「体調悪くても仕事休めないなんて、大変だね」


 ウサギのお姉さんの後ろ姿を見送りながらポツリと呟く。


「……気付いてないのか?」


 耳元でシュリナの声がする。


 街中ではシュリナは姿を隠している。正確に言えば、私たち以外には認識されないような魔法を掛けていた。【認識阻害】っていう魔法らしい。幻視の魔法の一種だって。さすが、聖獣様だよね。


「気付いてないって?」


 小声で問う。


「…………あいつもそうだったが……ムツキもか」 


「だから、何が!?」


 一人で納得し完結するシュリナに再度訊く。


 シュリナは私の問いには答えずに小さく溜め息を吐く。それから「お前たちも苦労するな」と、サス君やココに労いの言葉を投げ掛ける。


「「まぁ……」」


 何故か疲れたような声で頷くサス君とココ。そして、シュリナ以上に大きな溜め息を吐いた。


(だから!! 何なの!?)


 一人取り残された私は、少しブスッとむくれた。そんな時だ。


「君、テイマーなの?」


 突然見知らぬ青年から話し掛けられた。人懐っこい笑顔で私たちを見下ろす。


「いえ、違います」


「そうなんだ。てっきり、彼らを連れているからそう思ったよ」


 青年はサス君とココを見ながらそう言った。


 まぁそう見られても仕方がないよね。一応、サス君は狛犬だけどフェンリルで登録されてるし、ココはケットシーだしね。隠してても分かるのかな?


「ギルドに一緒に連れて来るんだ。ペットじゃないだろ?」


 思っていたことが顔に出ていたのか、青年は重ねてそう言ってきた。


(まぁ、確かにそうだよね)


「それで、私に何か?」


「ギルドに報告に来たんだろ。終わったら、一緒に飯でも食わないか?」


 爽やかな笑みを浮かべながら誘ってくる。


(ん? これは俗にいう、ナンパですか? 私に? 物好きだよね、お兄さん)


「すみません。私ご飯食べて来たんで」


 キッパリと断った。そのまま換金ブースへと向かおうとした私の腕を青年は掴む。


「放してもらえませか?」


 やや低めの剣のある声で言うと、私は青年を軽く睨む。


「君がお茶に付き合ってくれたらね!」


 青年は爽やか青年風の笑みを浮かべている。


「付き合うつもりはありませんので、手を放して下さい」


「嫌だね」


「そうですか」


 青年は私が観念したと思ったのだろう。


 仕方ない。私はため息をつくと、掴まれていた左手を後ろにそらせる。自然と青年の上半身に隙が出来た。私は躊躇わずに、青年の股間に蹴りをいれた。青年は声にならない悲鳴を上げ、呻き、体を縮こませて痛みに耐えている。


「さて、皆行こうか」


 体を縮こませ小刻みに震えている青年に冷たい視線を送ってから、私はサス君、ココ、シュリナに声をかける。勿論シュリナにも。


 換金ブースに向かう私たちに、声を掛けてくる者は誰もいなかった。


 足下でココがおかしそうに笑いだし、サス君は「そんな方法、いつ教わったんですか?」と詰め寄る。シュリナは「今回は致し方ないが、あまりするな。品位を疑われるぞ」と軽く叱りつけた。


「出来れば、私もしたくなかったよ。手を放してくれなかった、あの人が悪い!」


 完全にブスッとむくれながら、私はシュリナに言い返す。


「はぁ……ムツキ、もっと自分を知らなければならないぞ」


「そうですよ、睦月さん。睦月さんは、とても綺麗で魅力的なんですから。そこを少し理解しないと」


 シュリナとサス君が、さも当然のように言ってくる。生憎、事実を知っている私は頷けない。


「何言ってるの!? もう、止めてよね。この話は、これでお仕舞い! 換金ブースに着いたよ」


 私は強引に話を打ち切った。


 換金ブースには二人ほど並んでいた。意外と少ない。順番は直

ぐに回ってきた。


「いらっしゃいませ。ムツキ様」


「こんにちは」


 この前と同じ人だ。ちょっとホッとした。


「今回は何用で?」


「魔石と討伐料の換金と依頼の報酬を受け取りに来ました」


 そう言いながら、私は鞄の中から魔石を取り出す。そして、ハンターカードも一緒に手渡した。


「お預かりします、ムツキ様。それにしても、こんな大きな魔石を!! さすがですね、ムツキ様」


 ハンターカードを受け取った係員のお姉さんは、目を輝かせながら声を弾ませる。


「では、まずは魔石の換金から。中サイズが三個と特大サイズが一個ですね。……金貨二十枚と銀貨六枚になります」


 え~~~~!! ブラッキッシュデビルの魔石が金貨二十枚!!!! 金貨二十枚って、二年近く何もせずに暮らせるお金だよね!! マジで!!


 想像もしていなかった金額を提示されて、完全に言葉を失い呆然と立ち尽くす。命を掛けたけどさ……。


 そんな私を見て、係員のお姉さんはクスッと笑う。


「次が討伐料ですね。……C級ランクの魔犬が三頭とS級ランクのブラッキッシュデビルですね。あの魔石はブラッキッシュデビルのだったんですね。……魔犬一頭が銀貨五枚なので、今回は銀貨十五枚になります。ブラッキッシュデビルはS級なので、金貨二十五枚ですね」


 もう何も言うまい。これだけで、四年以上楽に暮らせる金額だよ。前回の分も大分残ってるし。


「最後に依頼の報酬ですが、薬屋ゼロ=リトルの依頼報酬が金貨三枚。それと、S級ランク【ドーンの森、魂の解放】の依頼を達成しましたので、金貨三十枚の報酬が追加されます。……全部で、金貨七十五枚と銀貨二十一枚になります。白金貨七枚に交換なさいますか?」


「…………お願いします」


「畏まりました。直ぐにご用意致します。少々お待ち下さい」


 一旦係員のお姉さんは席を離れる。白金貨を用意するためだろう。戻って来たのは数分後だった。


「お待たせしました。お受け取り下さい。白金貨七枚と金貨七枚、銀貨一枚になります。お確かめ下さい」


「はい……」


 私は力なくそう答えると、差し出された報酬を受け取り急いで鞄にいれた。


「ムツキ様。帰りに、依頼を受けたブースに立ち寄ってもらえますか? レベル十五になりましたので、その手続きをしたいと思います。レベル十五おめでとうございます!」


 帰り際、係員のお姉さんがニッコリ微笑みながら祝いの言葉をくれた。


「ありがとうございます」


 何気ない言葉だけど嬉しい。微笑みながら答える。軽く会釈をすると換金ブースを後にした。


【銀行スキルオープン】


 依頼を承けたブースに行く途中、物影に隠れるとスキルを発動させる。


【使用しますか? YES/NO】


 目の前に浮かぶ文字。勿論YES。続いて表示される項目の中で、預け入れをタップする。皮袋のまま入れた。


【白金貨七枚と金貨七枚。全額/一部】


 勿論、全額。こんな大金持ち歩くことは出来ないからね。盗られる心配もないし。




〈只今の貯金額〉

 白金貨   七枚

 金貨    七枚

 銀貨  三十六枚

 銅貨  二十一枚

 青銅貨   九枚

(遊んで暮らせる月 約六年八か月)






◇◆◇◆◇






「超~可愛い!! 可愛さ、十倍増しね! まだまだ、初々しいし。ニコッと微笑みを浮かべてくれたわ!! 私によ。これだけで、ご飯何杯も食べれるわ! 後で、皆に自慢しちゃお!!」


 椅子に座りながら器用に小躍りしている、オヤジ化した係員に、誰もが声を掛けることは出来なかった。遠巻きに発作が治まるのを待つ。


 因みに、離れた場所にいる人間の耳には係員の声は聞こえることはなかったが、それ以外の生物にははっきりとその声が聞こえていた。





 最後まで読んで頂き、本当にありがとうございましたm(__)m

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