解放された魂たち
それは昼前だった。
ショウたちがムツキの救護依頼のために、急ぎ村に戻って来た時にそれは起きた。
ドーンの森の遺跡付近から、朱色の光が一本の柱となって、天に向かって走ったのだ。
一体何が起きたのかーー。
ハンターたちは訳も分からず、茫然と光の柱を見上げている。
ただショウたちは、ムツキが何か関わっていると直感的に感じとっていた。反射的に森に戻ろうとした時だ。村の者たちの大半が、膝を地面に付き、その朱色の光の柱を見詰めているのに気付いた。
泣く者。崇める者。抱き合う者、様々だ。まさに、異様な雰囲気だった。
村人たちは知っていたのだ。
あの朱色の光の柱の意味を。
そしてその光を、村人たちは巫女長や長老たちと同様に、ずっとずっと待ち望んでいた。
光の柱が出現したのは数分ぐらいだった。
光の柱が消えたすぐ後だ。
今度は青白い光りの玉が、ポツポツと石畳や床から現れると、空中に浮かび、何かを捜すように眷族の里を飛び回る。捜していたものがそこにいないことに気付くと、捜している者の気配を求め、森の中から村に向かって飛んで来た。
ハンターたちは剣を抜き、魔法を唱えようとしたが、ゴールドカードを持つハンターの怒号によって、剣を収め詠唱を止めた。
特に怒号がなくても、彼らは止めただろう。
何故なら、青白い光の玉は目的の場所まで来ると、人間の姿に変わったのだから。
その姿を見て、村の者は涙を流す。嗚咽を漏らし、泣き崩れる。懐かしく、愛しき者に触ろうと手を伸ばすが、その手は虚しく空を切った。その中に、熊のぬいぐるみを持つ少女とその母親らしき女性がいたのを、ショウたちは確かに見た。
僅かな時間、人の姿に変化していたものは、徐々にその姿を崩していった。再び元の青白い光の玉に戻ると、村人たちの周囲を二、三周回った後、名残惜しそうに、天へと吸い込まれるように消えていった……。
朱色の光の柱の後、無数の青白い光りの玉が天に吸い込まれていくその光景は、何よりも神秘的で、とても悲しいものだった。
そして誰が言ったともなく、自然とハンターたちは頭を下げ、天に向かって哀悼の意思を示したのだった。
私がこの世界に来たのは、春の第3月(常世では4月)だった。
この世界にも季節があって、一年の長さも常世とほぼ同じ。ただ、暦の呼び名は少し違うけどね。春夏秋冬ごと、四つの月に分かれている。
今は夏の第一月(常世では5月)になっていた。ほんと、1か月はあっという間だったよ。
魔法使いの卵の私が、修行のためにこの世界に放り出されて、知らない間に、とんでもないことに巻き込まれていた。普通に修行してたはずなのにね。色んな人の思惑によって、特に伊織さんだけど、完全に逃げ道は封じられ、外堀は埋められ、そして目の前にはシュリナがいた。
そうなったら、もう頷くしかないよね。逃げても追いかけて来そうだし。
それにしても……もう、苦笑いしか出てこない。
〈一年しか猶予がない。このままだと異空間に穴が開き、魔物が押し寄せて来る〉
ーーまさかの世界滅亡宣言!!
驚愕を通り越して顎が外れそうになったよ、マジで。でもまぁ、この世界が滅びるのは嫌だし。この世界結構気に入ってるしね。しょうがないよね。時には、諦めも肝心だよ。でも正直、少しワクワクしてるんだよね。だって、これから色んな所に行って、色んな物を見たり聞いたり、食べたり出来るんだよ!! 観光気分? 違うよ。絶対に違うからね。
でもその前に、今はお風呂に入って早くベットに横になりたい。世界を救うのはそれからでもいいよね。
謎の少年と赤き竜【朱の大陸編】完結
最後まで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m
加筆修正しました。
「謎の少年と赤き竜【朱の大陸編】」終了しました。次は「束の間の休息(1)【朱の大陸編】」です。
【参考までに】
春の第1月~第3月(2月~4月)
夏の第1月~第3月(5月~7月)
秋の第1月~第3月(8月~10月)
冬の第1月~第3月(11月~1月)
となってます。
これからも、応援宜しくお願い致しますm(__)m
 




