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第十四話 魔王と護りて

 


 目を開けると、目の前には朱色の鱗に覆われた、赤竜レッドドラゴンが金色の瞳を潤ませ、私を見詰めていた。


 大きさは猫を少し大きくしたぐらい。光沢のある朱色の鱗で、お腹の部分は白に近い薄ピンク色。角は生えてなかった。つぶらな瞳で私を見詰めながら、小さな翼をパタパタと動かしている。どこから見ても、鳥ではなかった。


「…………シュリナって、鳥じゃなくてドラゴンなんだ」


 思わずそう呟いた私に、シュリナは呆れた声を上げた。


「ムツキもか。アキラといい……何故、我を鳥だと思う」


 ーーアキラ。


 それが、おそらく私の前世の名前なんだね。少しだけ思い出した。私と同じ日本の出身。日本じゃあ、スザク様って不死鳥だもん、鳥と間違えても仕方ないよ。


「それで、シュリナ。分からないことがあるんだけど。異空間の穴を塞いだのは、勇者じゃなくて英雄だよね。五聖獣の力を借りて。だったらおかしくない? あの屑男は、自分が世界を救う勇者になるって言ってたよね」


 シュリナの名前を思い出してから、やけに砕けた話し方をしてる。自然とそうなった。まぁ、怒られてないからいいかな。


 勉強のために読んだ歴史書の中には、世界を救ったのは勇者ではなく、一人の英雄だと書かれていた。勇者は英雄と共に旅をした仲間の一人だと記されている。


「この世界を救ったのは勇者ではなく、英雄だ。しかし、中には英雄その者に批判的な説もある。更には、英雄など存在しなかったという、許しがたい説もある程だ」


 自分に都合がいいように解釈したわけね。


「えっ!? でも、英雄の存在を告げたのは初代勇者だよね」


「そうだ。アキラの遺言を無視してな」


「遺言?」


「アキラは己の死の予感を感じ取っていたのだろう。仲間に遺言を遺していたのだ。『自分を悪者、魔王として世界に公表しろ』とな」


「どうして、そんな事を!?」


「生き残った者のためだ。……それ程、世界は疲弊していた。誰かを悪者にし、怒りの感情を生きる力に変えようとしたのだ」


 人はそれを愚かというかもしれない。只の自己犠牲だっていうかもしれない。でも私は、愚かとは思えなかった。そんな判断をしなければならない程、世界は疲弊していんだろう。悲しい選択だ。


 でも……私は思う。アキラにとって、その選択は悲しいものではなかったんじゃないかなって。


「…………器が変わっても、魂は変わらぬか。……仲間たちは必死で国を、世界を立て直した。だが、その心中は苦しかった筈だ。英雄を慕っていたからな。そして、仲間たちは決断した。真実を語る事をな」


 なるほど……それが、歴史書に記された真実なんだね。だから、物語のように描かれているわけか。……ん? ってことは、私はその英雄の生まれ変わりで、魔王ってこと!? 


「そうなるな。ムツキ、お前は英雄であり魔王だ」


 魔王って、ラノベじゃ討伐対象だよね。この世界じゃ、魔王って受け入れられてるけど。


「討伐? 何故、ムツキが討伐されるのだ?」


 当然のように、シュリナが突っ込んでくる。


 シュリナ、さっきから、サス君とココが若干引き気味なの気付いてない? 勿論、私も引いてるよ。引いて当然だよね。サス君とココは、私が何を考えているか分からない。傍で見てたら、シュリナが一人で話しているように見えてるよね。


「……シュリナ。この際はっきりと言うけど、【魂の契約】で心の声が聞こえるからって、筒抜けなのはさすがに嫌」


「嫌だと。ムツキ、我に隠し事があるのか!」


 不機嫌そうに言う口元から、牙を覗かせる。


 それ、わざとでしょ。全然怖くないから。


「アキラがどう思っていたかは知らないけど、私は嫌なの! これでも、女の子なの。プライバシーは絶対に必要!!」


「我とムツキの間に、プライバシーなど「嫌いになるよ。口きかないよ。それでもいいなら、いいけど」


 私が本気だと分かったのだろう。シュリナは黙り込む。


「…………分かった。出来る限り努力しよう」


 本当に? 一応、シュリナの言葉を信じることにした。


「で、話を元に戻すけど。何で、結界に穴が開くの?」


「それは、我にも分からぬ。ただ……数百年に一回の割合で起きるな。徐々に結界の層が薄くなり、次第に穴が開きはじめ、異空間から様々な魔物がこの世界に入り込む」


 私たちは黙って、シュリナの話を聞く。


「六百年前、アキラと仲間たちが死闘の末に多くの魔物を退治し、穴を塞いだ。世界は平和になったが、後に残された民は、もはや瀕死寸前だった。そこで、アキラが言ったのだ。旅人である自分が悪者になるとな。自分は旅人だ。いづれは、この世界を出て行く。だから適任だと。そして、世界を一緒に旅をした仲間に託した」


 この世界に住む民が瀕死寸前だったから、自ら悪者になった。瀕死寸前だったからーー。


「……怒りと憎しみを生きるバネにした? 旅人である自分が憎しみの象徴となることで、民の心を一つにしたのね」


 私は一つの答えを導きだす。


「その通りだ」


 シュリナは頷く。


 なるほど。私はこの時のアキラの気持ちが、何となくだが理解出来た。出来たが、自分だったらまず行動に移せない。絶対に。そんな勇気はない。でも、そこまで大切に思えるものがあって、少し羨ましいかな。


「……なんか、複雑」


 どうやら、私は前世も現世も【魔王】のようだし。……亜神で魔王ね。ほんと、複雑。新米魔法使いなのに。この世界の【魔王】は要討伐対象ではないから良かったけど。隠していた方が無難だよね。厄介事に巻き込まれたくないし。後は気持ちの問題かな。それが一番大事。


「で、シュリナは私に何を望むの?」


 つい訊いてしまった。


「【護りて】となりて、我と共に旅をし、他の五聖獣を目覚めさせて欲しい」


 早速、厄介事が来たよ。訊かなきゃよかった~~。他の五聖獣を目覚めさせるって、全大陸を巡れって事だよね。無理無理。ハンターになったばかりなんだよ。


「無理ではない」


 あっ、また読んだ。そんなつぶらな瞳で見詰めても、無理なものは無理なんだからね。出来ないって……はっきり言わないと……ちゃんと断らないと……。


「………………わ……どうして?」


 意志の弱い私を責めないで。完敗です。つぶらな瞳に負けました。


「薄くなった結界を再度張り直すためだ。このまま放置すると、約一年で、また結界に穴が開き、異空間から魔物が押し寄せてくる」


 シュリナは私の目を見据え、そう静かに告げた。






 お待たせしました。

 最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m


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