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第十二話 石碑に刻み込まれた血塗られた過去(4)

 


 畜生にも劣る屑の中の屑が、卑劣にも里の女性を騙し、眷族が棲む里を仲間と共に襲撃した。


 屑男が神殿の方向に消えた後、映像はまた切り替わる。


 丘の麓に私たちはいた。


 それからも、何度も何度も切り替わる映像。


 それら全ては、断片的な記憶の切れ端の数々だった。


 一見、繋がりがないように見えたそれには、明らかに繋がりがあった。それが一本に繋がりつつある。


 今見ている映像が、私の問いに対する答えと直接関わらないかもしれない。でも、何かしらの関わりがあると思う。


 スザク様は最低限なことしか話さないから。自分で考えろってことなのだと思う。話せば、どうしても主観が混じるからね。ましてや、スザク様は当事者でしょ。それを避けたかったのかもしれない。


 色々な考えが頭を過る。でもそのおかげで、少し落ち着いてきた。


 いつまでも座ったままじゃ駄目だよね。この地で不幸にも惨殺された人たちに失礼だ。私はふらつきながらも立ち上がる。どんな結末を迎えても、目を逸らせずに見届けよう。それが、今私がすべき事で、唯一出来る事だから。


『ここがどこか分かっていての訪問かしら?』


 おそらく、今から最終局面が始まる。


 まず、そう切りだしたのは伊織さんだった。穏やかな口調だが、まとっている空気は全く違う。


 映像を見ているだけなのに、ピリピリした空気が容赦なく肌を突き刺す。緊張のせいか、軽い吐き気がする。我慢しながら、私は周囲を見渡す。


 巫女長様はこの場にはいないみたいね。神殿で別の兵士に止められ、守られているのだろう。長老の一人と一緒に。


 たぶん、今見ているのは最初の映像の続きだ。


 伊織さんと長老の一人が屑男と対峙していた。


『存じていますよ。五聖獣の一角、スザク様の神殿だと』


 屑男は動じない。


『あら、知ってて来られたのね。……ところで、神殿の立ち入り許可はあるの? なければ、通すことは出来ないわ』


『許可は持っている。いずれ、僕がスザク様の加護を得て、()()()()()()にでる。勇者の血筋の僕がね。まぁ、少し乱暴だったとは思うけど』


 悪びれずに屑男は告げる。


 はぁ~~。女性をたらし込んで入って来たのを、許可って……屑はどこまで行っても屑ってことね。それで、その屑がスザク様の加護を得て世界を救う旅に出るって……。ほとほと呆れる。


 ましてや、屑男は意気揚々とそう宣言してるんだから尚更だ。まるで、自分が正しい、選ばれた人間だと信じているような言い種だった。


 屑の身勝手な言い分を聞いて、ふと、思い出す。


 乱暴でかなり強引な真似をしてまで、眷族の青年が私を神殿に連れて来た、その理由を。


 それは、スザク様を目覚めさせるためだった。


 だとしたら、あの自称勇者の血筋君(屑男)がいう旅っていうのは、英雄(後の魔王)が仲間たちと旅をし異界の穴を閉じた、あの旅のこと? ……ん? ええっ!? 穴が開きそうなの!? 嘘!! マジで!? 結構、ヤバイんじゃないの?


「……()()まだ大丈夫だ」


 今は? 


 突っ込みたいが、取り合えず一旦脇に置いとこう。


 それにしても、目の前の屑男が勇者の血筋って。ということは、王家の人間になるわけね。あんなのが王家の人間なら、王家の質はたかが知れてるよね。それとも、誰にも相手にされないから、こんな暴挙に出たわけ?


 どっちにせよ、一番腹立たしいのは、スザク様を道具に考えていることだ。


 不敬にもほどがあるよね。あの屑男にとって、自分以外の全てのものは、スザク様でさえ、自分のために存在するものだと思っている。自己中の極みだ!! マジ、虫酸が走る。


『貴方がスザク様から加護を得るの? それで、勇者になって世界を救う旅に出るの? クックック。おかしい……お腹がよじれそう!!』


 伊織さんは涙を浮かべながら、お腹を抱えて笑っている。


『何がおかしい!!!!』


 さっきまで、飄々としていた男が、ここではじめて表情を変え怒鳴る。明らかに不快な表情で、笑っている伊織さんを睨み付けている。


『おかしいに決まってるでしょ。スザク様の眷族を惨殺した者に、加護!? 頭は大丈夫?』


『無礼な!! あれがスザク様の眷族だと!? あんな無能が!! スザク様の力にすがって生きている能無しがか!?』


 その言葉に、長老のこめかみがピクリと動いた。


『確かに、彼らは戦う術を持たない者たちだけどね……』


 伊織さんは不敵に笑う。


 唇の端が上がるのが見えた。見えた瞬間、ゾクッと背筋に冷たいのが走った。この時、私は伊織さんをはじめて怖いと思った。


『グエッ!!』


 屑男の口からカエルが潰れたような声がもれた。声だけじゃない。その姿も、まるで本物のカエルのようだった。男の周りの地面だけがポッカリ穴が開いている。


「重力魔法だよ」


 ココが解説してくれる。


『へぇ~~。貴方、以外に優秀なのね。詐欺師以外にも、魔法の耐性があるんだ。でもね。ーー動くな!!』


 目線は、屑男改めカエル男に向けながら、抑揚のない冷たい声で短く命ずる。


 その一声で、誰も動けなくなった。完全に動きを封じられた。カエル男を陰から守護していた騎士も、カエル男が雇ったハンターもだ。その中には、太刀を持った大男はいなかった。


(まだ里で狩りをしているの!?)


 知らないうちに唇を強く噛み締めていた。口中に鉄の味がする。


「睦月さん!!」

「ムツキ!!」


 サス君とココが驚いて私の名を呼ぶが、私は無視し、カエルのように押し潰された屑男を睨み付ける。


 伊織さんはクスッと笑うと、パチンと指を鳴らした。


 次の瞬間。


 何もない空間から五人の男女が現われ、地面に乱暴に放りだされた。そしてカエル男と同じ様に、地面に突っ伏す。その中には、親子を殺した大男もいた。


「今度は、空間魔法です」


 次はサス君だ。


『お前たちは、この世界を守る聖獣スザクの眷族を殺し、スザクが眠るこの地を血でけがした。それも、スザクの眷族の血で。その罪は計り知れない。お前たちの命ではあがなえきれぬ。……どうやって、償うつもりだ?』


 そこにいるのは、さっきまでいた女とは同一人物ではなかった。話し方もさっきまでとは全然違う。


 誰もがその変容に、声を失った。屑男たちはカエルになった時から出ていないが。長老でさえ、言葉を失った。息をするのも辛いほどの威圧感。立っているのもやっとだ。


 これが、伊織さんの本当の姿ーー。


(彼らは気付いているの?)


 伊織さんがスザク様の呼び方を変えたのを。そしてそれが、許されているのを。


『……まぁ、いい。代わりに、我がお前たちに加護を与えてやろう。〈呪〉という名の加護をな』


 その言葉で、殺戮者たちは顔色を変えた。気付いたようだ。その顔色は憐れにも、真っ青ではなく、真っ白になる者もいた。詠唱もなしで同時に二種類の最高難度の魔法を使い、十人以上いる人間をひれ伏せ、自由を奪う。そして、五聖獣を呼び捨てにし、許されている。


 つまりーー。


 目の前の女は、五聖獣様よりも、上位に位置する者だってことだ。


 気付いた時点で、もう遅い。


 屑男たちは何を敵にまわしたか、気付こうが、気付かなかろうが、もはや関係ない。


 さいは振られたのだ。


「この世界で加護を与えることが出来るのは、神族に属するものだけだ」


 静かな声で、スザク様が教えてくれてた。


(私も出来るの……?)


 一応、これでも亜神だからね。


 そんな事を考えていると、伊織さんは魔法を解いていた。


 だが、殺戮者たちは動けない。完全に戦意喪失していた。


 パチン。伊織さんはまた指を鳴らす。すると、殺戮者たちはその場から完全に消えた。


『……あいつらには、死よりも辛い〈呪〉を掛けてやったわ。()()()()のまま償い続けなさい。その呪いが解けるまで。()()()掛かるか分からないけどね』


 伊織さんは黒い笑みを浮かべながら、冷たく低い声で呟いた。







 お待たせしました。

 最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m


 加筆修正しました。


 それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪

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