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第八話 スザク

 


 朱色の髪をした少年は、「話す前に見せたいものがある」と私たちに告げながら、壁にそっと手を添えた。


 その体温に反応するかのように、今まで壁だった場所にいきなり扉が現れた。


 サス君は低い唸り声を上げ警戒する。ココは毛を逆立てる事はなかったが、私の足下から離れない。


(えっ! 何これ!!!!)


 私はというど、扉に驚いて、思わず出そうになった声を必死に我慢した。代わりに、胸の内で驚嘆の声を上げた。すると、


「ムツキ、声がでかいぞ!」


 直後に、少年が顔をしかめ怒る。


 どうやら、思いの強さや感情の起伏が激しい時に発せられた叫びや言葉は、大声として少年に届くらしい。


 少年の言う所の、魂が繋がってるからなのか……? よく分からないけど、いきなり、それも耳元で叫ばれたらさすがに嫌だろうなと私は思った。


「耳元じゃない。直接、頭に響くのだ」


 頭、耳元。どちらでも構わない。訂正してくるってことは、やっぱり聞こえているのか……。今更だけど。これってどうなの? プライベート完全無視だよね。


 ムスッとする私を無視して、少年は扉を開ける。そして、躊躇ためらうことなく中に入った。


 後に残された私たちも、少し躊躇ちゅうちょしたが、意を決して中に入る。私たちが入った瞬間扉が閉まり、スーと音もなく消えた。またしても驚く。


 そこは室内というよりは、空間だった。伊織さんが造った空間に少し似てる。


 天井も高く、広い空間に私たちと少年が立っている。


 天井の中央には、三メートルぐらいの水晶の塊が、台座の上に固定されていた。水晶の中央には、朱色した小さな生き物が丸まったまま封印されている。その脇に、五メートル程の高さの石碑が建っていた。


 石碑の上部には、何か文字のようなものが彫られているのが見える。高い位置に彫られてるせいか、文字がかすれているせいなのか、何が書かれているか読めない。


「……ここは?」


 空間を見渡しながら少年に尋ねる。


「ここは、あの巨大な扉の内側だ」


「……それで、貴方は何者なの?」


 私は再度尋ねた。


「分からぬか? 我が何者か?」


 反対に少年が私に尋ねる。


「ここに通された時点で、貴方が何者か、簡単に想像出来るわ。でも、貴方の口から直接聞きたい」


 この神殿が誰のために建てられたか。そして、水晶の中で封印されている小さな生き物が何なのか。答えは自ずと出てくる。少年はおそらく……


 少年はフッと笑うと答えた。


「我は五聖獣の一角、スザクだ」


 想像していた通りの答えだったとはいえ、やはり本人から聞くと、さすがに驚く。サス君もココも、少年の正体は気付いていたようだ。


「……それで、スザク様。何故、貴方様の眷族が、私をこの場所に連れて来たのですか? あんな卑劣な真似をしてまで」


 淡々とした口調、それも敬語で問い掛ける。ひしひしと怒りの波長がスザク様を襲う。


「睦月さん」

「ムツキ」


 五聖獣であるスザク様に対して不敬だと、サス君とココが私を咎めるように名前を呼ぶが、私はそれを無視した。


「ムツキを通して見ていた。あの者がした行為は決して許せるものではないが、それには理由がある」


 確かに不敬だ。でも、私は改めるつもりはなかった。スザク様は怒らないで話す。


「理由?」


「魔法使いの中でも、神獣森羅の化身であるかを確かめる必要があったのだ。たとえ魔法使いであっても、あの者が放つ殺気に耐えることはまず出来ぬからな。唯一、耐えることが出来るのは、神獣森羅の化身ぐらいだ」


 つまり私を試すために魔波を放ったのか。死に掛けたアキの姿が脳裏を過る。自分勝手な言い分に怒りが湧くが、我慢して尋ねる。


「……どうして、神獣森羅の化身が必要だったの?」


「正確に言えば、イオリの力を媒介にしてこの世界に来た、神獣森羅の化身。つまり、ムツキお前の力が必要なのだ」


「必要だったのは、伊織さんがくれた〈鍵〉でしょ」


 自然と、私の語尾が鋭くなる。


「やはり、持っておったのだな」


 私が思ったことが聞こえるなら、私が伊織さんから受け取ったことなど、はじめから知っていたはずだ。なのに、嬉しそうにスザクは言う。


「嘘をついてもバレるから、正直に言うけど。……今は、持ってないわ。常世に置いてきたから」


「それについては問題ない。〈鍵〉を受け取ったことが大事なのだ」


(どういうこと?)


 扉の前で彼らは〈鍵〉を出せと迫った。てっきり、伊織さんから貰った〈鍵〉が扉を開けるのだと思ったけど。……それは、おかしいよね。今現に、私たちは扉の内側にいるんだし。


「イオリが何故〈鍵〉を作ったのかは、おいおい分かるだろう。……それよりも、何故、あやつらがムツキをここに連れて来たのか。それは、我を目覚めさすためだ」


「スザク様を目覚めさす?」


 意外な答えに首を傾げる。


(だとしたら、目の前にいる少年は何なの?)


「ムツキ。あの水晶の中央に、朱色の生き物が見えるだろ。あれが、我の本体だ。今、ムツキの前にいる我は、そこの霊獣と同じ分身だ」


 スザクはサス君に目を向ける。


「分身の我が移動出来るのは、神殿の中だけだ。持っている力も極僅かなものだ。情けない話だがな」


 目を軽く伏せると、自嘲気味に笑いながら言うスザクの姿に、胸の奥がチクリと痛みだす。何故、胸が痛むの?


「彼らが、スザク様を目覚めさすためにしたことだと、理解は出来ました。しかし、こんな乱暴な真似をしなくても、理由を仰って頂ければ、ムツキはこの場所に来たと思いますが……」


 今まで黙って私とスザクの話を聞いていたココが、口を挟んできた。スザク様は割り込んできたココを不快に思うことなく、その問いに答えた。


「時間がなかったからだ」


「「「時間?」」」


「そうだ。……このままだと、世界は滅びる」


 真っ直ぐ私たちを見詰め、スザクは少し言いにくそうに、だが……とんでもないことを口にした。


(世界が滅びる? 今、そう言ったの?)


「「「………………世界が滅びる?」」」


 私たちの声が綺麗にハモった。しかし、その声はとても小さい。


(……スザク様は何を言ってるの?)


 言葉の意味は理解出来るが、何を言っているのか理解出来ない。


 スザクは頷く。その顔は真剣そのものだった。だから……私はそれが、真実だと知った。


「それはどういう意味です? その姿に関係があるのですか?」


 今度はサス君が尋ねる。


 その問いに、もう一度スザクは頷いた。スザクは私たちを今一度見詰めると、重い口を開く。


「……少し長くなるが。話すより見た方が早いだろう」


 スザクはそう前置きをしてから、水晶の脇にそびえ立つ石碑にそっと触れた。


 その瞬間、かすれて読めなかった石碑の文字が光だした。その光は石碑全体に広がり、強い光を放つ。


 私たちは顔を庇い、目をしっかりと閉じる。


「…………もう、目を開けても大丈夫だ」


 しばらくして、スザクが言った。


 私たちは恐る恐る目を開ける。


(……えっ?)


 言葉を失う。だって、私たちが立っていたのは、眷族が棲む里の村道だったからだ。


 でも……どこか違う。


 この光景に違和感を感じた。何かが違うのだ。漠然とした何かが……。口にだして上手くは説明出来ないけど。


 その時だ。


 数人の子供たちが笑いながら走ってきた。子供たちは私たちが立っているのに気付かないのか、ぶつかりそうになる。慌てて避けるが避けきれずに、子供の体が私にぶつかる。ぶつかった筈だった。


 しかし、来るべき痛みと衝撃は全く襲ってこなかった。


(えっ、何!? 何が起きてるの?)


 戸惑ったのは、私だけではなかったようだ。サス君もココも戸惑っているようだった。サス君は子供に目線を向けたままだ。そして、小さく呟く。


「……これは記憶か?」と。


「そう。これはあの石碑に刻み込まれた歴史。里の者の目には我々は映っていない。彼らと我々とは時間軸が違うのでな」


(つまり、立体映像と同じようなもの? やけにリアルだけど……)


 そして、私たちは知ることになる。


 この神殿と里の秘密を。


 ここで起きた悲しい過去の出来事をーー。





 お待たせしました。

 遅くなってすみませんm(__)m

 今回も、最後まで読んで頂き、ありがとうございます。


 それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪

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