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第六話 鍵

 


 薄暗い回廊とは違う。明るくて、朝日がさんさんと入ってくる回廊を無言のまま歩く。



 いつの間にか追いついた魔獣の青年が、私の後ろに張り付いている。逃亡を恐れているのか、私はスザク様の眷族たちに前後を挟まれていた。


 息苦しさを感じながら歩いていると、突き当たりにある巨大な扉の前で眷族たちは立ち止まった。


 どうやら、眷族たちが連れて来たかった場所は、この扉の向こう側のようだ。


 しかし、扉には取っ手も何もない。そもそも、人間一人の力で開けれる大きさではなかった。


(どうやって開けるの……?)


 もしかして、さっきの階段のような魔法が掛かってるのかもしれない。そんなことを考えていると、長老らしき老人の一人が口を開いた。


「ムツキ様、鍵をお持ちではありませんか?」と。


 その場にいる眷族たちが一斉に私を見る。ココも私を見上げていた。サス君だけが長老に焦点を当てている。


 眷族とココの視線は似ていた。あまりにも鋭く、そして熱く、切羽詰まったような複雑な視線に、私は思わず顔を歪める。


「……鍵? 何の事?」


 どうやら目の前にある扉は、彼らが言う〈鍵〉でしか開かないようだ。そしてその〈鍵〉を、私が持っていると思っているらしい。


(つまり、扉を開けるためにあんな暴挙にでたって事?)


「惚けないで頂きたい。〈鍵〉です。()()()様から受け取ってはおられませんか?」


 ーーイオリ。


(今、イオリって言った? イオリって、絶対あの伊織(元店主)さんのことだよね。だとしたら、あの結界はやっぱり……)


 頭の片隅に浮かんでいた名前。


 全く想像してなかった訳じゃないけど、それでも、彼らの口から大切な人の名前が出たことに、私は心底驚愕する。同時に、不愉快になった。それは、サス君も同じだった。


 私は胸の内を悟られないために、出来る限り表情には出さないよう、顔に神経を集中させる。


 ーー鍵。


 確かに、長老はそう言った。


 実は……長老が放った〈鍵〉について、私は身に覚えがあった。


 以前。


 私は伊織(元店主)さんから、一本の〈鍵〉を受け取っていた。黒劉山でのお披露目会前日の晩だ。当然、今持ってる筈ない。本屋の自分の部屋に置いてきた。何せ、この世界には手ぶらで放り出されたんだから。


 例え、奇跡的に持って来てたとしても、彼らに素直に言うつもりも渡すつもりも毛頭ない。


 っていうか、絶対に言わない。当たり前でしょ!! 如何なる理由があったとしても、人を脅して連れてくるような人たちに、私が大切にしている人から貰った大切なものを渡すわけないでしょ!! まぁ、持ってきてないけどね。


 だから、答えは決まっている。


「悪いけど、私はイオリという人を知らない。だから、あんたたちが言ってる〈鍵〉も知らないし、持ってない。人違いで残念だったね」


 私はわざと笑いながら答える。


 その返答に、私に〈鍵〉の事を尋ねた長老は、非常に残念そうに溜め息まじりに呟く。


「残念じゃが仕方がない」と。


「どうするつもり!? 無理矢理捕まえて、裸にでもする?」


 私は身構える。サス君とココは完全に戦闘体勢をとる。


「ゼン!!」


 長老の片割れが、魔獣だった黒髪の青年の方を向き鋭い声で命令する。


 ゼンと呼ばれた黒髪の青年は私に一歩近付く。反射的に、私は一歩下がる。


(最後は力ずくってわけね!! マジ、最低!!!!)


 緊張が走った。逃げ道を探すがどこにもない。唯一あるとしたら……背後にある巨大な扉だけだ。


 しかしその扉は、〈鍵〉がなければ開かない。


 つまり、どこにも逃げ場はない。


 魔法を使おうにも、この距離じゃ発動したと同時にやられるのが関の山。唯一有効と言えるのは、撹乱魔法だけだろう。でも、ゼンがいる。彼の鼻は誤魔化せない。


(魔法は使えない。使えるのは物理攻撃だけか……)

 

 諦めることなく身構え続ける私に、ゼンは更に一歩近付き距離を縮める。私は自然と一歩後ろに下がった。後ろは巨大な扉。


 万事休す!!


 そう思った時だった。


 サス君が私とゼンの間に割り込みゼンを威嚇する。ニヤリと笑って馬鹿にするゼン。


 その瞬間、僅かだが隙が生まれた。


 そこを見逃すサス君じゃない。サス君は大きく息を吸い込むと咆哮した。


 周囲の空気が震えた。震えた空気は衝撃波となって四人を襲った。


 身体的ダメージを与えることは出来なかったが、それでも彼らの気を逸らすことには成功した。


 ゼンが一瞬、朱色の髪の女性に気が逸れた瞬間、私は体を低くしダッシュする。直ぐに気付いたゼンが慌てて手を伸ばすが、私の体に触れることは出来なかった。そのまま私たちは、回廊を全速力で逃げ出した。


 逃げだした私たちは、立ち止まることなく回廊を逆走した。


 そのまま来た道を戻ろうとしたが、向こう側から兵士みたいな人たちが現れて、私たちは慌てて物陰に隠れる。兵士は私たちに気付くことなく、手前の角を曲がった。私たちはホッと胸を撫で下ろす。


「……この先は無理よね」


 乱れた息を整えながら、小声でサス君とココに話し掛ける。


「そうですね。違う道を探さないと」


「といって、無暗に歩くと、見付かる可能性もそれだけ高くなるけどね」


「だったら、どうしろというんだ!」


 サス君が喧嘩腰にココにくってかかる。


「サス君!」


 今争ってる場合じゃないでしょ!! 顔をしかめ、低い声でサス君を諌める。


「……すみません」


 尻尾を下げ、サス君は謝る。可愛いその姿に、ギュッと抱き締めたくなるが、今はそんな場合じゃない。


「で、どうする?」


(この場所も長くはいられない)


「この先に、外に通じる通路があるよ」


 私の問いに、サス君やココとは違う声が答えた。その声は、私のすぐ隣から聞こえてきた。


「キャ!!」


 予期しない出来事に、私は思わず短い悲鳴を上げた。


 咄嗟に口を押さえたが、その声は静寂に包まれた神殿内でよく響いた。曲がったはずの兵士が、その声に反応して戻って来る。


 近付いてくる靴音がはっきりと聞こえた。





 最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m


「忌み子とあやかしの国」中に、伊織さんから託された〈鍵〉です。使い方は後日登場!!


 それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪

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