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第四話 光

 

 


 一度軽く休憩をしてから、また一時間ほど歩いただろうか。


 真っ直ぐ続く回廊の先に、僅かだがか細い光が見えた。遠くに見える微かな光。漸く終わりが見えた。


(やっと……でも、まだまだ先だよね……)


 思わず、私の口から溜め息が漏れた。


 足を止めた私を促すように、魔獣は前を歩き出す。


 情けないことに膝が少し震えている。


「大丈夫ですか?」


 サス君が心配そうに見上げている。ココもだ。


「大丈夫。情けないね。これぐらいで膝が笑うなんて」


 苦笑気味に笑うと視線を上げたと同時に、それは起きた。


 回廊の先に見えていた光が、ものすごい勢いで迫ってきたのだ。


 私たちが居るのは一本道だ。逃げようにも逃げ場はない。そうしているうちに、光は襲いかかってきた。


「キャ!」


 短い悲鳴を上げると、思わず両腕で顔を庇う。


【……着いたぞ】


 直ぐ側で聞こえた魔獣の声に、私は顔を庇っていた両腕を下ろす。そして、恐る恐る目を開けた。


「なっ!?」


 目を開けた瞬間、私は言葉を失い呆然と立ち尽くす。サス君も。ココも言葉を失っているようだった。


(……嘘でしょ。マジで!?)


 今まで、薄暗い回廊を歩いていたはずだ。


 だが、今目の前に広がる光景は、明らかに今までいた回廊とは掛け離れていた。


 そこは回廊ではなく、どこかの長閑のどかな村の村道の真ん中に立っていた。空気が冷たい。ひんやりとして澄んでいる。まるで早朝のようだ。だからか、村道に人の姿は見えない。魔獣も。


(危険な場所ではなさそうだけど……。それよりも、さっきの光は……?)


 光に包まれて別の場所に出る。それはまるで、この世界に来た時と同じようだと私は思った。その時の感覚に似ていたような気もする。


 一瞬、私の脳裏に女性の姿が過った。


(う~~ん。考えられるよねっていうか、十割がたそうな気がしてきた。彼女のすごさは桁違いだったしね……)


 根拠は全くないけど、不意にそんな考えが浮かぶ。


 それよりも、ここは何処だろう?


「…………ここは何処?」


 ようやく声を発した私に、背後にいた魔獣が答える。


「ようこそ、我が里へ。()()()()()殿()


 声が違う。その声は明らかに魔獣の声とは違っていた。魔獣の声は、低くてお腹に響くような重低音の声だ。だが、私の質問に答えたのは、低い艶のある若い男性の声だった。


(誰が近くに人がいの?)


 私は後ろを振り向く。


 そこには黒いローブを羽織った、若い男性が立っていた。黒髪、そして赤い目をした美青年だ。髪は短く、長身で、細身だか筋肉はきちんとついている。武士のような雰囲気を身に纏った青年。見た目は、二十代半ばのように見える。


(黒い髪に、赤い目? もしかして!? 魔獣?)


「……魔獣なの?」


 恐る恐る尋ねる私に、青年は憮然とした表情を見せる。


「その呼び方は不愉快だ」


(この感じ間違いない!! あの魔獣が人化したんだ!!)


「ぼーとするな。時間がない。こっちだ!」


 魔獣だった青年はそう言うと、さっさと歩き出す。私たちは黙って青年の後を付いて行く。


 どうやら青年は、あの丘に向かって歩いているようだ。


 丘の上には何か白い建物が建っているのが見える。そんなに遠くない距離だ。


「サス君、ココ、ここどこか分かる?」


 私は隣を歩く、サス君とココにこっそり尋ねた。


「いえ、分かりません。ただ……」


「ただ?」


「結界に守られた、別の空間のような気がします」


「別の空間?」


 サス君に訊き直した横で、ココが代わりに答える。


「ここは、聖獣スザク様の眷族が棲む村()()


「えっ!? 朱雀様の!?」


 思わず大きな声を上げてしまった。


「ムツキが言っている朱雀様と、この世界のスザク様は()()からね」


 ココが冷静に訂正をいれる。その言い方に何か引っ掛かった。


(……えっ? もしかして、ココはスザク様の事を知ってるの?)


 断定的な言い方だった。訊き返そうとしたが、サス君の声が遮る。


「おい、男。あの長い回廊を歩くことが、結界を越える方法だったのか!?」


 サス君が低い声で青年に問う。


 その口調は明らかに、私に話し掛ける時とは違った。威圧的な言い方だった。


「よく分かったな、霊獣。だが、ここに来るには、道案内が必要だがな」


 青年は気を悪くした様子もなく答える。最初から、彼はサス君とココの正体に気付いていたし、口にしていた。


(でもさすがに、私の正体は分かってないよね?)


 確かめようもない。あれ? 何か変な事を言ってた気がするけど、何だったかな?


 ココの声は青年にも聞こえていた筈だ。そのことに対して、彼は敢えて何も言わない。


 だとしたら、ココの言う通り、ここは朱雀様の眷族が棲む村で、目の前を歩くこの青年は朱雀様の眷族ってことになる。なるほど。私は青年の姿を見て納得出来た。


(でも、何でスザク様の眷族が……?)


 新たな疑問が生まれる。


「つまり、お前がいなければ、ここに渡れなかったということか?」


 普通、「来れなかった」って言うのに、サス君は「渡る」という言葉を使った。


 その言葉の意味は、空間と空間、界と界を移動することを指す言葉だ。つまり私たちは、空間を移動してきたってことになる。


「ああ。その通りだ」


 青年ははっきりとそう答えた。


 サスケは考え込む。


 ーーこの世界に、それほどの魔力を持つ者が、果たしているだろうか? 朱雀様を別にしてだが……。


 サスケは朱雀様が、この結界を張ったとは思えなかった。眷族が主を守るのは分かるが、反対はまず考えられない。


 ーーだとしたら、一体誰が? 


 伊織サトルでさえ、これほどの結界を長期にわたって張り続けるのは無理だ。ジュンもメンテは出来ても、張り続けることは出来ないだろう。目の前を歩く魔獣だった男も、それほどの魔力は感じない。


 ーーそれが唯一出来るのは……。


 サスケの脳裏に、ある女性の顔が浮かんだ。それは、私が思い浮かんだ女性と同じだった。





 最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m


 タイトル変えました。


 これからも宜しくお願いしますm(__)m


 それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪

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