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第三話 勇気

 


 真っ直ぐ続く薄暗い回廊を、魔獣と共に黙々と歩きながら、私はついさっき自分の身に起きたことを思い出していた。


 魔獣に付いて来いと言われた、あの時……正直にいうと、本当は凄く怖かった。サス君とココが一緒でも。


 遺跡の入口に続く階段の最初の一歩を踏み出すのが、一番勇気がいった。


 当然、一歩踏みだせば、その分、魔獣との距離も近くなる。魔獣の側に行くのも恐怖でしかなかった。いくら綺麗で神々しくても、魔獣は魔獣だ。魔物なのだ。


 勿論、階段を上った先にある、暗い遺跡の中に足を踏み入れるなんて、サス君やココが側にいてくれても、体が震えて、足がすくんで、私はあの時動けなくなっていた。


 本当に、動けなくなっていたんだよ……。


 その時だった。


 背後から皆の呻き声が聞こえてきたのは。


 思わず後ろを振り返ったら、フェイと目が合った。


 ほんの少し前まで、その目には私に対して畏怖の感情が見えていたのに、今は全くそんな感情は見えなかった。反対に、私を心配し必死で止めようとしているのが分かった。


 それはフェイだけじゃなかった。ショウもアンリもアキも、ゼロさんも……私を必死に止めようとしていた。


 その瞬間、不思議と体の震えが治まり、足も動くようになっていたんだよ。


【…………ずいぶんと落ちついているな、娘。我が怖くはないのか? それとも、そこにいる霊獣と妖精猫をあてにしてるのか? ならば、そんな希望は持たない方が身のためだ】


 思い出しているうちに、無意識に笑みを浮かべていたのだろう。恐怖で顔を引きつるわけでもなく、震えるわけでもなく、緊張はしていても、普通にしている私を不思議に思い、魔獣は尋ねる。


「魔獣、サス君とココの能力を馬鹿にしない方がいいよ。私より遥かに強いから。まぁ、それでも逃げ出すのは不可能に近いって思ってる。逃げ出すつもりはないわ。逃げる場所もないしね。……それに、怖くないといえば嘘になるけど。私は……仲間を大切な人を失う方が怖い」


 そう言えば、格好良く聞こえるかもしれない。だけど、本心はそんな綺麗なものじゃない。私は、皆が傷付くのを見たくないだけだ。見たくないから、自分の身を危険な場所に晒すことが出来る。晒す立場に追いやった人たちの気持ちも考えずに。


 それが、一方的な好意だと理解しながらも。


 私は誰よりも我が儘で、身勝手なのだ。


【仲間のために、自分の身を危険に晒すのか?】


 魔獣は再度尋ねてくる。


 私は魔獣の言葉がおかしくて笑みを浮かべた。


【何故笑う?】


 魔獣は不快感を隠そうともしない。


 魔獣の言った通り、普通そう思うよね。でも、違う。私は首を横に振り正直に答えた。


「笑ってごめん。魔獣さんの言い方があまりにも人間っぽくて、つい。……仲間のためじゃないよ。自分のために、私はここにいるの。私が皆が傷付くのを見たくないだけ。ただ、それだけの理由」


 人間っぽいっと言われたのが、魔獣には気にくわなかったのだろう。少しマズルにしわがよる。


(牙見えてるんですけど……)


 しかし、魔獣は私たちに危害を加えることはなかった。


【……昔、お前と同じ様なことを言う人間がいた】


 魔獣は私の方に視線を送ってから、前を向くとポツリと呟いた。


(へぇ~~そんな人がいたんだ?)


「その人はどうなったの?」


 興味を持った。


【死んだ。力を使い果たしてな】


 魔獣は静かにそう告げた。淡々と答えただけなのに、かえってそれが魔獣の悲しみをさらけ出す。


 静かだが、どこか寂しげな声に、私は意外さを感じた。


 魔獣の横顔を見上げる。薄暗い回廊で黒い体毛だからか、魔獣だからなのか、その表情からは全く感情が読めなかった。不快感だけは分かるけど。ただ……どこか、優しい雰囲気をまとってることは感じとれた。といっても、完全に警戒心をとくことは出来ないけど。


 人間のように、複雑な感情を持っている魔獣だと私は思った。


(この魔獣はその人間のことが、大好きだったんだ。とても。たぶん、死んだ今も……)


 魔獣はそれっきり口を開くことはなかった。


 私は魔獣と会話して、不思議と、この魔獣に対しての恐怖心が薄れていくのを感じた。


 他種族であり、外敵である人間を好きになれる魔獣。


 そんな魔獣が、私を食べるために、危害を加えるために、果たして連れだしたりするだろうか? 何か訳があるのかもしれない。何となくだが、私はそんな風に思えて仕方がなかった。


 その証拠に足下を見下ろすと、サス君もココも少し警戒はしているようだが、どこかリラックスしている風にも感じた。


(……この回廊、どこまで続くの?)


 単調に続く道に、時間の感覚と距離感が、段々麻痺していきそうだ。真っ直ぐ歩いているつもりでも、本当は真っ直ぐじゃなかったりして。そんな考えがふと過る。過ったところで、どうしようもないのだけど。


 何もない。ずっと、ずっと先まで、回廊は続いている。


 然程広くない回廊の両側には、等間隔に松明が備え付けられ、私たちと魔獣を照していた。





 最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m

 今回はどうでしたか?


 それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪

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