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第五話 ギルマス登場



 十代後半か、いって二十代前半ぐらいの大柄な男が喧嘩を売ってきた。


 馬鹿らしいからスルーしてたけど、あまりに五月蝿いし目障りなので買うことにした。逃げ場がないからね。だからといって、目の前にいる男のように怒鳴るような真似はしない。こんな男と同じに見られたくないからね。


「おい、お前!! 聞こえないのか!! カードを見せろって言ってるんだっ!!!!」


(馬鹿の一つ覚えのように、カード、カードって五月蝿いな。この筋肉馬鹿が)


「何で、私が貴方にカードを見せなきゃいけないの?」


 幾分、声を低めて冷ややかに答える。


「あぁ!? 俺の言う事が聞けないのか!!」


(何? この上から目線。私はあんたの召し使いか)


 あまりにも不愉快で眉をしかめてしまう。

 

 装備している防具を見て、良い所の坊っちゃんだって直ぐに分かる。貴族の三男あたりか。商家じゃなさそうね。


 基礎知識をインストールしているおかげかな。すんなりと対応出来る。まだ少し頭が重いけど、さっきまでの不快感はなくなった。馴染んできたのかな。取り合えず、良かった良かった。


 あ~~まだ睨み付けてるよ。


 まぁどっちでもいいけどさ。この手の筋肉馬鹿は無視すると厄介だ。といって、相手するのも正直めんどくさい。ほんと、面倒なのに絡まれたよ。マジ最悪。


「聞く必要ないでしょ」


「俺が何者か知らないのか!?」


「知らないわよ。知りたくもない。それにね、そんなのここじゃ一切関係ないでしょ」


 周りの合格者たちも、うんうんと頷いてるよ。でも、この筋肉馬鹿は気付いてないよね。怒りで周りが見えていないみたいだし。それって、ハンターとしてどうなの? 一番に殺られるタイプね。それも仲間を巻き込んで自滅パターンかな。


「ちっ! 生意気な!!!!」


 カードを素直に見せない上に、言い返してくる私に苛ついたのか、筋肉馬鹿はカードを強引に奪い取ろうとしてきた。


 ラッキー。これで、何かあった時の言い訳が出来る。絡んで来たのも、先に手を出したのも、筋肉馬鹿が先。証人は合格者たちだ。ニヤリ。


 当然、筋肉馬鹿の手をかわす。


(誰が素直に渡すか!!)


 それでも、筋肉馬鹿はしつこく奪い取ろうとしてくる。


 マジ、しつこい。筋肉馬鹿の手をかわし続ける。魔力を体全体に行き渡らせる訓練を受けていたおかげで、筋肉馬鹿の動きが手に取るように見える。感謝、お師匠様。


 魔力を体全体に行き渡らせる訓練は、魔法使いの初歩の初歩。


 弟子入りがきまってから、基礎体力の向上と同時にこの訓練を続けてきた。


 簡単に言うと、両手、両足に常に重りを付けてる状態かな。今じゃ、起きてる間はこの状態でいられるようになった。まぁ簡単に言うと、肉体強化と身体能力の強化だ。不思議だよね。こういう魔力の使い方があるなんて。


 だから、筋肉馬鹿の癖が見えてくる。


 足の運び方。視線の運び方。癖が見えれば対処は簡単。さすがに、魔物じゃこうはいかないけどね。


 サス君はというと、少し離れた場所で私たちを見ている。


(それでいい)


 ショウたちはサス君の事をフェンリルだと信じている。小さいバージョンのサス君は一見フェンリルに見えなくても、バレれば、何もしていなくても過剰防衛と捉えられる可能性がある。相手は魔物じゃない。人間だ。気にくわなくてもね。


「どうしたの? もう終わり?」


 体勢を崩し、膝を折る筋肉馬鹿を冷ややかな目で見下ろす。


 怒りのせいか、真っ赤な顔をして、筋肉馬鹿は私を睨み付ける。私はそれを平然と受け流した。


 私は一度も手を出していない。だだかわしているだけだ。でも傍から見たら、自分の胸までしかない子供に完全に遊ばれてるように映るよね~~。実際そうだけど。ニヤリ。自分でも黒い笑みだと思うよ。性格の悪さは自覚してるからね。


 とうとう筋肉馬鹿は、我を失い抜刀しようとした。


(馬鹿か!!!!)


 ここでそれをしたら駄目でしょ。


 しょうがない。私は姿勢を低くし、筋肉馬鹿の手首を掴み押さえ込む。


「何考えてるの!? ここで抜いたら、折角受かったハンター資格取り消しになるかもしれないでしょ。……焚き付けた私も悪いとは思うけど、訓練を受けて、ここまで頑張ってきたのに、怒りで全てを失うのはどうかと思うよ」


「その通りだな」


 目の前にいる筋肉馬鹿とは違う声が、私たちの間に割って入る。静かだが、明らかに威圧を込めたその一声は、その場の空気を瞬時に変えた。


 合格者の視線が一点に注がれる。


 それは、目の前にいる筋肉馬鹿と私もだ。


 私は戦意喪失した筋肉馬鹿から手を放すと離れた。筋肉馬鹿もヨロヨロとよろけながらも立ち上がる。


 二十代半ばか後半ぐらいの、野性味あふれるイケメンさんだ。十人中、十人、格好いいと言うだろう。でもその容姿よりも存在感に目を奪われた。本能だろうか。一瞬で理解出来た。凄く強いと。


(もしかして、ギルマス……?)


 超有名人のようだ。周囲から憧れに近い心酔した声が聞こえてくる。うん。そこまでじゃないけど、その気持ちは十分理解出来るよ。


 想像通り、イケメンさんはギルマスだった。ギルドマスター、略してギルマス。このハンターギルドの総責任者。


「今回の合格者は元気があるな。まぁ、それはいいが。ここでの喧嘩は一応処罰の対象だ。今回は見逃すが、次からは気を付けるように」


「申し訳ありませんでした。以後、気を付けます」


 筋肉馬鹿のせいで、私まで注意を受ける羽目になったが仕方ない。ここは素直に謝る。


「……申し訳ありませんでした」


 筋肉馬鹿も謝る。


 私に対しては!? 喉まで出掛かったけど、どうにか圧し止めた。これ以上筋肉馬鹿を刺激するのはね……。


「……ところで、何故反撃しなかった?」


 意地の悪い笑みを浮かべながらギルマスが訊いてきた。


 やっぱり見てたんだ。それも、自分の存在を消して。タイミング良過ぎたもん。声を掛けるのが。反撃しなかった理由? そんなの決まってる。


「自分より弱い者に手を出す程、落ちぶれていませんから」


 そう答えた途端、ざわつき出す室内。同時に、私に向けられる殺気。


 全然怖くないけどね。これ以上面倒に巻き込まれるのは嫌だから、当然、完全無視。筋肉馬鹿の相手はこれ以上したくない。疲れるからね。それが却って、筋肉馬鹿を刺激してるって分かってるんだけどね。


「ほぉ~~言うじゃないか。確かに、力の差は歴然としていたな。……足下にいるのは、フェンリルの亜種だろ。幼体とはいえ、制御出来てるのは大したものだ。帰りに従魔登録を忘れるなよ」


 やっぱり、ここでも間違われました。サス君は狛犬で、フェンリルではありません。そもそも霊獣であって、魔物じゃありません。っていうか、フェンリルの亜種って何ですか!? 下手に訊いて、藪から蛇を出したくないし。フェンリルで従魔登録されてもいいよね。狼もイヌ科だし。サス君は不満顔。その顔も超可愛い。癒されるわ~~。


 まぁそれはちょっと置いといて、合格者たちの視線が痛いんですけど……さりげに距離とられてるし。壁に張り付かなくても……。別にいいけどさ(クスン)。


 この瞬間、ボッチが決定しました。








 それはさておき、壇上では、ギルマスが合格者たちに対して挨拶を述べている。


「合格おめでとう。今日から君たちはハンターになった。君たちの役目は、命を掛けて人々の平和を護る事にある!」


 そう前置きした上で、ギルマスは合格者たちを見渡す。


「まずは、二、三日中に職種を決め、ギルドに報告するように。職種についての説明書がここに置いてあるから、皆参考にする事。分かったか! 以上、解散!!」


 挨拶は短かった。下手に長い校長先生ゃり断然いい。ボッチだけど。


 ショウたちが言ってた通り、ここにいた合格者たちは皆就きたい職種があるみたい。我先に、その職種に関する冊子を持って帰ろうとしている。


 少し離れて観察していると、そのまま持って帰れる人とそうでない人がいた。まるで、ハンター試験のよう。どうやら、カードの数値を確認してから、適している職種の冊子を渡しているようだ。そうだよね。


 筋肉馬鹿は迷わず戦士の冊子を持って帰った。帰り際、私を睨み付けて行ったけどね。出来ればもう二度と会いたくないかな。


 でも、筋肉馬鹿が戦士の冊子を持って帰ったのは頷ける。


 例えば、魔力が高い人に戦士を薦めないだろう。逆もまたしかり。まぁ、アドバイス的なものかな。最低、三、四冊持って帰ってるし。


(何にしようかな……?)


 魔術師や僧侶系は師匠から禁止されてるから、他の職種を選ばなきゃいけないんだけど……。


 とはいえ、出来れば魔力が使える職種にしたい。まず、戦士は却下だね。後は、盗賊、狩人、学者……う~ん、学者はないかな。勉強嫌いだし。としたら、テイマーかな。でもテイマーはね……正直抵抗がある。サス君と一緒に戦うのはいいけど、サス君オンリーで戦わせるつもりは毛頭ない。テイマーになって、私も一緒に戦えば済む話なんだけどさ……それって、テイマーじゃないし。


 それよりも、私自身が成長する職種に就きたい。やるからには、楽しまなくちゃね。


(取り合えず、初級、中級職のリストを出してみようかな。その中から、意に添わないものを排除して……)


 参考までに冒険の手引き書を開いてみる。


 う~ん。やっぱり、頭に文字が浮かぶのは慣れない。せめて、目で活字が追えれば少しは楽なんだけどな。そう思った時だった。



【開示方法を変更しますか?】


 頭に機械的な音声が響く。


 ーーえっ!? 変更出来るの?


(思わず返事しちゃったよ)


【はい。可能です】


 ーー例えばどんな風に?


(っていうか、普通に会話してるけど……? 今は深く考えるのは止めとこ)


【こういうのは、どうでしょうか?】


 同時に、目の前にリストが表示される。希望していた通りだ。うん。これなら、気持ち悪くない。


 ーーこれって、他の人には見えないの?


【それは心配ありません。ご安心下さい】


 ーーなら、これで。変えたい時はいつでも変えれるの?


【畏まりました。変更はいつでも可能ですので、その時はお声掛け下さい】


 ーーありがとう。



「気になった職種はありましたか?」


 抱き抱えていたサス君が小さな声で訊いてくる。


「……それよりも、この機能に驚きだよ」


「色々カスタマイズ出来ますので、使い易いように変更したらいいですよ」


「……何か、まだ隠れた機能がありそうで怖いよ」


「それは、おいおい」


(あるんかい!?)


「それで、気になった職種はありましたか?」


 う~ん。これといって、気になる職種はないんだよね……あれ? これいいんじゃない?


 一つの職種が目に止まった。早速、サス君に報告しようとした時だ。


「男の嫉妬は怖いよね~~」


 私の前に並んでいた茶色の髪の少女が、突然振り返り話し掛けてきた。頭に小さな耳が付いている。


 もしかして、猫。猫ですか~~。あー触りたい! 我慢、我慢。ここで触ったらセクハラだ。


「……?」


「貴女が入って来るまで、彼がトップだったの。……気付いてなかった?」


 そう言って少女が指差した先には、小さな掲示板があった。そこには、私の名前が一番上に書かれていた。じゃあ、次に書かれているのが筋肉馬鹿の名前か。


「それに、ここまで聞こえて来たからね」


 何がとは訊かない。分かってるから。にしても、それが理由で私に突っかかってきたの!? あの筋肉馬鹿。


「それじゃ、あたし行くね」


 行っちゃった……。触りたかったよ~~。


「…………睦月さん。くれぐれも、捕まるような事はしないで下さいね」


 心の声が口に出たらしい。呆れたような残念そうな目をして、サス君が注意する。サス君、サス君、それはどういう意味かな?


「あっ、順番来たみたいですよ」


「分かってる」


「ムツキ=チバさんですね。カードの提示お願いします」


 私はカードを係員に渡す。


「なっ、これは!!」


 固まる係員さん。


「……?」


「しっ、失礼しました。ムツキさんに適した職種はこれになります。希望する職種はありますか?」


(う~ん。やっぱり、魔術師系と僧侶系の職種を薦めてきたね。あっ、テイマーもある。サス君がいるからか)


「すみません。冒険者の冊子が欲しいんですが」


「冒険者ですか!?」


 係員は驚いて私を凝視する。


 魔力が五百もあれば、当然魔術師系か僧侶系だよね。分かってるけど、私は固強く固持する。


「どうして、冒険者を?」


「全てのステータスが均等に上がるので」


「たからといって……」


「……?」


(何で戸惑ってるの? 冒険者は初級職の一つだよね)


「面白そうじゃないか」


「ギルマス……」


「ほら。これが、冒険者の冊子だ」


(ん? 他のに比べて薄くない? まぁ、いいか)


「それじゃ、その冊子貰います」


 係員は仕方なく、渋々冒険者の冊子を革袋に入れる。勿論、魔術師系と僧侶系の冊子もだ。他に数冊入れた。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


「帰りに、受付に寄って下さいね。従魔登録しますから」


「はい。分かりました」


 頭を軽く下げ、私とサス君は受付に向かった。そして無事、登録を済ませた。やっぱり、サス君はフェンリルで登録されました。


「睦月さん。合格おめでとうございます。疲れたでしょ。宿屋で休みませんか?」


 手続きが終わってギルドを出た私に、サス君が提案してきた。その提案は嬉しいけど。そりゃ、賛成だよ。でもね……持ってないんだよね……お金。


「あのさ……お金どうするの?」


「それなら、大丈夫ですよ」


「まさか、サス君が持ってるの!?」


「持ってませんよ」


(だよね。……で、どうするの?)


 戸惑う私をよそに、サス君は歩き出す。


「こっちですよ。付いて来て下さい」


「待って、サス君!」


 慌てて私はサス君の後ろを追い掛けた。


 こうして、新米魔法使いの私とサス君の異世界修行が始まったのだった。






 新たに書き直しましたm(__)m


 大幅に変更してます。


 最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m


 

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