残された者たちは
暗闇の中へ、魔獣と共に姿を消した少女。
その場に残った者たちは、為すすべなく、少女を見送る事しか出来なかった。
ショウたちやゼロは、一度、少女に命を助けてもらった。そして今回も、少女の身を犠牲にして自分たちは助かった。
ーー不可抗力だった。仕方ない。
ギルドに報告したら、そう言われるかもしれない。
だが、残された者たちは違った。彼らは自分自身が許せなかった。
まだ痺れが残る体で、全員、自分たちの不甲斐なさにうちひしがれている。
ショウたちがどうにか動けるようになったのは、ムツキが遺跡の中に消えてから、しばらくたってからだった。
まずはじめに動けるようになったのは、意外にもゼロだった。
次にショウが動けるようになり、それから一時間ほどで、全員が動けるようになった。
動けるようになったといっても、まだ少し指先が痺れた感じが残っている。武器を握れるまでは回復していない。手先の痺れが早くとれるように、握ったり開いたりを繰り返していると、いきなり視界の端に、フェイが駆けだすのが見えた。
「「「「フェイ!!!!」」」」
フェイはその声を無視して階段を駆け上り、遺跡に突進しようとしていた。
遺跡内に足を踏み入れようとした瞬間、何かに激しく体をぶつけた。衝撃を受けた体は、そのまま後方へと勢いよく弾き飛ばされる。
「なっ!!」
「「「「フェイ!!」」」」
階段下まで弾き飛ばされ転がるフェイのもとへ、全員が慌てて駆け寄る。
「うっーー」
咄嗟に受け身をとったとはいえ、背中を強打したフェイは痛みに顔を歪めた。呻き声が漏れる。
アンリは慌ててフェイに回復魔法を掛けた。
ゆっくりと上半身を起こしたフェイは、憎らしげに遺跡の入口を睨み付けた。
「……結界だね」
ゼロも遺跡の入口を睨み付けている。しかしその口調は、目付きと反して穏やかだった。そのアンバランスさが、周囲にいるショウたちをゾクッとさせた。
「誰が結界を?」
ショウが疑問を口にする。
「さぁ……ただ、この遺跡は当たりかもしれない」
((((当たり!! まさか!?))))
ゼロの言葉にショウたちは息を飲む。
「遺跡の調査はされたのでは?」
この遺跡は何度か調査された筈だ。だけど、特別なものは何も発見、発掘はされなかったとショウたちは聞いていた。ギルドもそう発表していた筈だ。
それに毎年、大勢のハンターが白い花を求めてこの森に入って来る。自分たちもその一人だ。
なのに、当たりとはあり得ないのでは? ショウたちがそう思うのも当たり前だった。
「S級ランクを有に越える、知的能力を有する魔獣。突然張られた高度な結界。ドーンの森の薬草の効能が高いこと。……まぁ、あくまで僕の想像だけどね」
ゼロは飄々と答える。
あまりにも、突拍子のない話だ。しかし、誰も否定する者はいなかった。確かにおかしい。何かある。ハンターとしての本能がそう告げていた。
様々な思いが皆の胸を過る。分からないことが多すぎた。
一番の謎は、何故魔獣は、ムツキを連れて行ったのかだ。
(殺して喰うのなら、別に遺跡の中に入る必要もない。その場で喰えばいい。遺跡内に幼獣がいるのなら、餌は沢山あった筈だ。ましてや、餌は動けない。喰い放題だろ。ムツキ一人を連れて行く意味が分からない。何か特別な用でもあったのか。まさか、魔獣にか……)
あくまで、これは憶測だ。ゼロはこれ以上何も言わず、遺跡の入口を見詰めた。
色々な思いを胸に抱きながら、ショウたちも遺跡の入口を見詰めている。
そんな中で只一つだけ、共通した思いがある。
それは、自分たちを助けるために、単身遺跡に乗り込んだ少女の安否だった。
遺跡内に足を踏み入れた瞬間、回廊の脇に備え付けられていた松明の明かりが灯る。
途端、私の目の前には、真っ直ぐに続く薄暗い回廊が現れた。
(遺跡って、こんなに広かった? それにしても、タイミングがいいよね。他に誰かいるの? だったら、誰が灯してるのかな? まさか、それはないよね。って事は、これ魔法だよね。それも高度な……)
次々に浮かぶ疑問。
それを魔獣に直接訊く勇気は、さすがになかった。答えが出ないまま、私はサス君とココと共に魔獣の横をついて歩くだけだ。
ただ……分かっている事もある。
どうやら魔獣は、私たちを攻撃するつもりも、食べるつもりもないようだ。【神獣森羅の化身】という称号のおかげで、大きな怪我をおっても死ぬ事はない。だけど……さすがに、食べられたら絶対アウトだよね。
(……まぁ、それも今のところはかな)
やろうと思えば、いつでも魔獣は私を簡単に殺せる。
この中で一番魔獣が強いことが、隣にいるだけでもひしひしと伝わってくる。今考えているこの瞬間、魔獣の気が変わっても、ちっともおかしくない。緊迫した緊張が支配していた。
生き残って遺跡を出るために、私は必死に頭を働かせる。
(今は大人しく、魔獣に付いて行くしかない)
魔獣が不意に足を止めた。そして天井を仰ぐ。
自然と私は魔獣の横顔を下から見る形になった。心なしか、魔獣がニヤリと笑ったかのように見えた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
今回、前半はパーティー目線で書いてます。ちょっとした、フラグも立ててみました。後で、ちゃんと回収します("⌒∇⌒")
それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪




