第一話 魔物の咆哮
もうすぐ初夏とはいえ、陽が陰りだすと、森の中は気温がグンッと下がった。かなり肌寒い。ローブを着てても少し寒いくらいだ。
「……ムツキちゃん、ご飯」
ココと一緒に毛布にくるまっていた私に、アンリが食事を運んできてくれた。
「ありがとう」
私は微笑みながら、食事が盛られた器を受け取る。簡単なスープだけど、湯気がたっててとても美味しそうだ。
「……一緒に食べない?」
アンリが私を食事に誘う。でも、私は首を横に振って断った。
「ありがとう。……でも、ここでいい」
断ると、アンリの表情が曇った。
「フェイが言ったことは、気にしなくてもいいのよ。あれは、ムツキちゃんが悪かった訳じゃないんだし。責任を感じる必要はないのよ」
アンリは心からそう思っているのかもしれない。アンリは一度も私を責めることはなかったから。でも……フェイは…………。
「大丈夫。気にしてないし。フェイがそう思うのは当たり前だよ」
言葉を飲み込み、わざと明るく答えた。
アキが目を覚ました直後、私を怒鳴ったのはショウではなく、フェイだった。ショウやアンリたちは慌てて止めようとしたが、フェイの怒りを止めることは出来なかった。
自分の不注意のせいで、私は彼らの大切な仲間を殺そうとしたのだから、腹を立てるのも当然だと思った。
頭を深々と下げ、皆に、そして目を覚ましたアキに謝った時だ。私の首にかかっていたハンターカードが、皆の目前に晒された。そのステータスを見てフェイが言った。
「お前、何者なんだ? 人間なのか?」と。
その瞬間、フェイはショウに殴られていた。
ショウは倒れ込んだフェイを乱暴に立たせると、私たちの目に入らない所まで引っ張って行き、何かを話し合っていた。しばらくして戻ってきたフェイは、ショウに促されるように渋々私に謝った。
「全然気にしてないから、謝らなくていいよ」
私は笑いながら答えた。
そんな私の顔を見たフェイは、苦虫を潰したような顔をして、その場からフイッと姿を消した。
フェイが戻って来たのは、全員が寝静まってからだ。
ショウは起きて火の番をしていた。
私は皆から少し離れた場所で、サス君に包まれながら横になっていた。毛布一枚では風邪を引きそうだけど、サス君に包まれてるとまだ我慢出来る。
……眠れない。
体が冷えて眠れないのか。緊張して眠れないのか。それとも、フェイに言われた言葉が胸に深く突き刺さっているからなのか。自分の事なのによく分からない。
目を閉じても、眠気はいっこうに襲ってはこなかった。体はすごく疲れてるのに。
目を閉じていると足音がした。フェイが戻ってきたみたいだ。
ショウとフェイが小声で話をしている。
「頭は冷えたか?」
ショウが切り出した。
「……わりぃ、少し頭に血がのぼった。……それで、ムツキは?」
「向こうで、一人寝てるよ」
フェイはショウが視線を移した方向を見る。
「……俺は、間違ったことは言ってない」
ショウはフェイの言葉を聞き、ため息をつく。
「確かに、アキが死にかけたのは、ムツキを庇ったからだ。だがそのことで、アキが一言でもムツキを責めたか? 俺やアンリも、ゼロさんも責めたか? 誰も責めやしない。それはどうしてだと思う? ムツキが自分たちを助けるために、一人、命がけでブラッキッシュデビルに立ち向かった姿を見たからだ。あの時、俺たちはどうしてた? そこのところをよく考えろ!」
「…………」
「それから、二度とムツキを化け物扱いするな! ムツキは誰よりも優しくて、強い心を持った人間だ。ムツキを愚弄するなら、俺はお前を軽蔑する。分かったか! なら、もう寝ろ!」
ショウの厳しい声がフェイを叩きつける。
私は寝たふりをして、二人の会話を聞いていた。聞くつもりはなかったけど。
ショウの言葉に私は胸が熱くなる。
ーー化け物ではない。
その言葉に。
ショウに叱責され、何も言い返せないフェイが立ち上がった時だった。
異様な気配を感じた。
ゾワッと何かが這い上がってきたかのような、不快感。
即座にフェイは弓を構え、ショウは刀を鞘から引き抜く。
「何かが近付いてくる!! 起きろ!!」
ショウが怒鳴った。私たちはその声に飛び起きる。
冷や汗が全身の毛穴から吹き出す。
殺気だーー。
目に見えない位置から、これほどの殺気を放つものが、ゆっくりと遺跡の方から近付いて来る。この場にいる者全員、それがとてつもない強敵だと瞬時に察した。
(察したくない!! 想像したくない!!)
それが、この場にいる全員の思いだった。
逃げられるなら逃げる。
しかし、逃げ切れることは出来ないだろう。
無意識のうちに分かっていたからこそ、全員、戦闘体勢をとっていた。私たちはハンターなのだ。ゼロでさえ、ダガーを構えている。
その時だった。
遺跡の中から、魔物の咆哮がドーンの森に木霊したのはーー。
「「「「「ウッ!!」」」」」
重低音なその声に、ショウたちとゼロは短い呻き声を上げると、その場に蹲る。
何か目に見えないモノに、上から圧力で押さえつけられているかのようだ。両手を地面につけて堪えている。辛うじて、ショウは圧力に耐え、立ち上がろうとした。
その時、もう一度、魔物の咆哮が森に木霊した。
ショウは片膝をつき、地面に剣を突き刺すと、必死で耐えている様子だった。苦悶に顔を歪ませ、額から汗が吹き出している。他の皆も、両手、両膝をつき、必死で耐えていた。
しかし私は、不思議なことに動けた。
動けない皆の前に立つと、私はナイフを構えた。サス君もココも、私の隣で威嚇している。
(私が皆を守る!!!!)
ナイフを構え直し前方を睨み付けている私に、何者かが話し掛けてきた。
【自分を化けモノ扱いした奴を庇うのか?】
その声は威圧的で、明らかに私を馬鹿にした声だった。
お待たせしました。
一時間、遅くなってしまい、本当にすみませんm(__)m
今回は、どうでしたか?
それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪




