第十三話 突風
ゼロさんが追い求めている蘇生草が自生している遺跡は、地図によればドーンの森の中央に位置している。
一日ゆっくりと休んだ私は、皆と一緒に夜が明けはじめた頃、遺跡に向かって出発した。
遺跡までの道のりの途中で、幾度となく魔物の気配はしたが、不思議なことに魔物たちは私たちを襲って来なかった。遠巻きで見られてる感はあったが。
魔物が私たちを襲わなかった理由。
それは、一昨日私が森の主ブラッキッシュデビルを倒したからだ。ココとサス君がそう教えてくれた。理由は至って簡単。
獣の世界において、強者が全ての頂点に立つからだ。
ブラッキッシュデビルを倒した時点で、私はこの森において、最強の者として魔物たちに認識されたらしい。それは喜んでいいものなの? 正直、微妙なんだけど……。
本能に近いものはその傾向が特に強いらしくて、完全に私を避けるようになった。それはそれでよかったけどね……。
確かに、私はブラッキッシュデビルを倒した。
(だけど、あれは……本当に、私がやったの?)
疑問だけが残る。でも、今でもはっきりと残ってる。
あの時の感覚は、すごく不思議なものだった。
不思議な声が頭の中で聞こえて、その声に導かれて、自分の体が自分のものでないような感覚がした。肉を突き刺した時の手の感触が、まだ手にしっかりと残っている。だから、フラッキッシュデビルを倒したのは私。
(だとしたら、あの声は……?)
「……ムツキ?」
耳元で囁かれたココの声に、考え事をしていた私は現実に引き戻された。
ココは歩くのがしんどくなると、いつも私の肩に乗ってくる。ココにとったらタクシー代わりだけど、私にとったら、ちょっとしたご褒美だ。
「睦月さん、着きましたよ」
サス君が私を見上げる。その声は、少し弾んでいた。
「…………」
二時間ほど歩いた先に、突如拓けた光景。
その光景を前に、私は立ち尽くす。感動して言葉を失う。サス君の声が弾んでいるのも分かるよ。
もし……この光景を言葉に表現するなら、荘厳という言葉が、一番近いかもしれない。表現しきれてないけど。
上手く言葉では表現しきれない光景が、今、目の前に広がっている。その光景は、私の心をギュッと鷲掴みにした。
深い森の中で拓けた大地。
光りが石造りの遺跡に注ぎ込み、淡い陰影が模様となっている。遺跡の周りには、小川が流れ、水面がキラキラと光っていた。空いた大地には、岩が転がっている。この岩は、かつては遺跡の一部だったのだろう。様々な草花が自生している。この大地は生命に満ち溢れていた。
ーー遺跡近くになるほど、薬草の効能が高くなる。
ゼロさんが教えてくれた。この光景を見たら納得出来るよね。
(ここに、魔物は似合わない)
心の奥底から、私は思った。
でも実際には、凶暴で強大な力を持つ魔物が森に多数生息している。
遺跡に到着したショウたちやゼロは、手際よく動いている。アンリとアキは遺跡の周囲を調査し始め、ショウとフェイはゼロの警護をしながら、蘇生草が自生していないか探しているようだ。
「何、ボーとしてんだ? さっさと手伝え!」
感動して突っ立ってる私に、フェイが怒鳴ってきた。
「ほんと、口、悪いなぁ」
ぼやきながらも、フェイが話し掛けてくれたことが嬉しかった。一昨日のあの時から、フェイは私に視線を合わそうとはしなかったからだ。話しかけても短い返事が返ってくるだけだった。
私はゼロの仕事を手伝うために、ショウたちの側に駆け寄ろうと走りだした。遺跡の入口の前を横切ろうとした時だった。
声がした。
確かに、自分を呼ぶ声がした。
私は思わず足を止める。
その瞬間だった。突風が、遺跡内から吹き出して来た。
突風が私を襲う。目を開けてるのが辛い。私は思わず両腕で顔を庇った。
また……微かだが、声が聞こえてきた。か細過ぎて、何を言っているのか、聞き取れにくい。私が遺跡内から聞こえてくる声に、意識を向けようとした、まさにその時だった。
「ムツキ!!!!」
(えっ!? 何!?)
鋭い声と同時に、アキが私に跳び掛かって来た。
私の体はアキに抱え込まれるように、コロコロと地面を転がる。
「大丈夫か!? ムツキ!!」
アキが覆い被さったまま、私を見下ろす。皆が慌てて、私とアキの所に駆け寄って来た。
(一体、何が起きたの?)
訳が分からない。でも、理由があっての事だよね。
「……大丈夫」
戸惑いながらもそう答えると上半身を起こした。
「……よかった」
アキは安心したように微笑む。そして、そのまま前に倒れ込んできた。
(……えっ!?)
アキの体を自然と受け止める。その体は服の上からも分かるほど、異様に冷たかった。まるで氷のようだ。
(……嘘だよね。誰か嘘だって言って。お願いだから……)
誰も嘘だって、冗談だって言ってくれない。
そうしている間も、アキの体は冷たくなっていく。
「っ!! アキーーーーーー!!!!!!」
アキの名前を叫ぶ。その声は悲鳴に近かった。
あれほど荒れ狂っていた風は、いつの間にかピタッと治まっていた。
この事に、私もショウたちも全く気付く余裕がなかった。
お待たせしました。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
遺跡編です!!
それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪




