第九話 災厄の魔獣
((((((セーブポイントまで間に合わない!!))))))
全員、心の中でそう叫んだ。
失敗した。少し足を延ばし過ぎた。その結果がこれだ。
全員逃げるのを止め、岩場に身を潜める。息を殺し気配を消した。
幸いなことに、自分たちがいるのは風下だ。
サス君の結界、プラス風下のおかげで、魔物に自分たちの存在は気付かれていない。このまま息を殺し気配を消していれば、魔物に気付かれることなくやり過ごせる。
ハンターとしてそれはどうかと思うが、正直私は心の奥底からこの魔物との接触は回避したいと切に願っていた。それは私たちだけじゃない。ショウたちやゼロも同じ気持ちだったはずだ。
何故なら今、自分たちをつけ狙ってるのは、A級ランクの魔物。
魔獣ブラッキッシュデビルだったからだ。
B級ランクならともかく、相手はA級ランク。それも、ダブルA。Sランクに近い魔物。
朱の大陸で最大且つ最悪な魔物、魔獣ブラッキッシュデビル。別名、災厄の魔獣とも呼ばれている魔物だ。その名と姿は、別名と共にはっきりとハンターのテキストにも書かれている。
チラリと見たかぎり、成体ではないが、それでも通常の魔獣よりは遥かに大きいように思えた。その攻撃力も、今まで遭遇した魔物たちとは比べものにならないほど高いだろう。
そしておそらく、あのブラッキッシュデビルがこの森の主だ。
(ほんと、最悪。災厄の魔獣だよ)
私は岩場に隠れながら、心の中で毒吐く。
極度の緊張のためか、冷や汗が額に浮かび頬を伝う。掌も汗でベトベトだ。汗でシャツが背中にべっとりと張り付いている。
(いつまで、この緊張感が続くのーー)
ジリジリと神経が焼けていく感覚を初めて味わっていた。その時だった。
最悪なことに風向きが急に変わった。
そうーー。
この瞬間、私たちは魔獣の風上になっていた。いくら結界を張っていても、僅かな匂いまでは隠せない。ましてや相手は、あのブラッキッシュデビルだ。
ブラッキッシュデビルは鼻をピクピクと動かすと、ゆっくりと私たちの方向へと近付いて来る。
(完全に気付かれた!!)
このまま魔獣に背を向けたまま逃げたすのは、愚の骨頂だ。森の中は魔獣に地の利がある。ここは魔獣のテリトリー内なのだ。
逃げ切れることなど、到底不可能ーー。
それが分かっているからこそ、ブラッキッシュデビルの歩みはゆっくりなのだ。逃がさないという、絶対的自信。成体でなくても、王者の風格を見せている魔獣。
(もし勝機があるとしたら、そこしかない!!)
「皆はそのままそこにいて下さい!! サス君、そのまま皆に結界を掛けてて!」
私はショウたちとサス君にそう指示をだすと、岩場から姿を現す。自殺行為に等しい行動だった。
あの魔獣を前にして、一人姿を現す。
その場に残された者たちは驚き、言葉が出なかった。睦月を止めることさえ出来なかった。
ショウたちは思う。自分たちが一番に盾になるべきなのだと。
いくら睦月がシルバーでも、経験は自分たちの方が遥かに多い。最も大事なところで、自分たちは恐怖で足がすくんでいる。彼らは自分たちを恥じた。それでも、恐怖に支配された体はピクリとも動かない。経験を積んできた自分たちが足をすくませ、最も経験を積んでいない者が矢面に立つ。
ショウたちは睦月の実力は認めていたが、どこか、納得出来ないものがあった。自分たちが努力しても手にはいらないものを、何の努力もせずに得ている睦月に、どこか……わだかまりがあったのは事実だ。
突如現れ、自分たちの前を歩く少女。
その少女が自分たちの前に立ち、庇い、守ろうとしている。隣に立って一緒に戦いたいが、今の自分たちでは足手まといだ。そのことは嫌というほど分かっていた。苦いものが込み上げてくるのを我慢しながら、ショウたち、そしてゼロは睦月の背中を見詰めた。
今の私には、皆の視線を感じとる余裕はなかった。
(怖い)
恐怖で今にも、その場で腰を抜かしそうになる。
しかし、私の右にはココが、左にはサス君がいる。ただそれだけで震える足が治まった。私にとってこの二匹は、大切な仲間で、かけがえのない相棒なのだ。
「ここからでも、結界は維持出来ます」
「ムツキ、やるよ!!」
サス君とココが、ブラッキッシュデビルを睨みながら言う。私も前方にいる魔獣を見据えながら頷く。
魔力を抑えるつもりはない。始めから、全力でいく!!
「睦月さん、風魔法を!! 連続で繰り出して!!」
「分かった!!」
さぁ、始めようかーー。
お待たせしました。
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪




