第四話 ハンター試験※
「痛っ!」
白いカードに指先が触れた途端、バチッという音がした。同時に鋭い痛みが走る。冬によく起きる静電気に近い。痛みは一瞬だった。それよりも、何かが全身を駆け抜けたような奇妙な感覚に、思わず顔を歪める。
すると、突然カードが光だした。
(えっ!! なっ、何が起きたの!?)
眩しい。目を瞑らなければならない程の眩しさだった。カードが輝いたのは数十秒ぐらいだったかな。眩しかった光は徐々に治まってきた。
さっきまでざわついていた室内が、いつしか静まり返っている。直ぐ側で、誰かが生唾を飲み込む音がした。
(目を開けても大丈夫かな?)
恐る恐る目を開けると、私の周りに人だかりが出来ていた。いつしか囲まれている。どういう訳か、彼らは私が持っているカードを覗き込んでいた。
ちょっと……近過ぎるんですけど、離れてくれませんか。っていうか、何で、皆私のカードを覗き込んでるの? ……あれ? さっきまで真っ白だったカードに文字が浮かんでいる。
確認しようとした時だった。静まり返っていた室内がどよめき出し、次の瞬間、どよめきは歓喜へと変わった。
何が起きているのか分からない私は、彼らの変化についていけない。軽くプチパニックを起こす。誰か、教えて!? お願い!!
その願いは直ぐに叶えられた。叶えてくれたのは、ウサギの姉さんだった。
ウサギのお姉さんは興奮した声を上げ、私の両手をガシッと掴むと、ブンブンと勢いよく上下に振る。ちょっと痛い。それに、お姉さん鼻息が荒いです。可愛いいけど。
「凄いです!!!! ムツキ=チバさん。レベル一で、魔力が五百を越えてます!!!! 人族は魔力が少ない種族なのに、五百なんてとんでもない数字なんですよ!! 王宮魔導師でも百前後、筆頭王宮魔導師でも二百ぐらいなのに。分かってます!? それに、敏捷性、知力、HPがずば抜けて高いですよ!! 体力、運は普通より若干高いですけど……普通の判定内ですね」
(…………え? 何で名前知ってるの?)
気になるけど、取り合えず、凄い事だって事は十分理解出来ました。理解出来たので、そろそろ……。
「……あの~~手元のカードを見たいんで、手を離してくれませんか?」
やっと、離してくれた。確認しよう。どれどれ。
【ムツキ=チバ 14歳(女) 出身 トコヨ】
レベル 1
HP 450
体力 220
敏捷 380
知力 480
魔力 550
魔耐 500
運 50
職業 未定
(S級ランクの職業につける可能性大)
〈スキル〉
固定スキルあり
(う~~ん。これが、正直凄いのかどうか分かんない。だって、平均がどれくらいか知らないからね)
でも、ウサギのお姉さんが興奮してるし、周囲から歓喜の声が上がったから、結構な数字を叩き出した事は間違いないようだ。少し照れるね。
それよりも、私が気になったのは、受け取る前は何も書かれていなかった真っ白だったカードが、今ははっきりと私の名前、ムツキ=チバと記載されていた事だ。
そして性別と年齢も。意外な事に出身地はトコヨになっていた。さすがに、漢字はないか。日本じゃなかった事に少しホッとする。
(あーだから、私の名前を呼べたんだね。さすが、異世界!)
その下に、HPや体力等の項目の数値が書かれていた。魔力や魔耐、本当に魔法が存在する世界なんだね。
それにしても、たった一瞬で、私のプライベートが明るみにされた。うん。魔法って凄い! 心から賞賛するよ。
(でも、ここまで私の魔力が高いのは魔法使いだから? それとも、一応神族だから?)
神族ね……正直、実感ないけど。
それに、一応神族って言っても、本当の神様じゃない。近いのは化身かな。
一度死んだ時に、偶然居合わせた神獣森羅に新たな命を貰って生き返ったでしょ。その時に、神獣森羅の力の一部を分け与えられたんだよね。だからかな、常世で私の事を〈神獣森羅の化身〉として神聖視する声もある。正直言って、その声には付いていけない。だって、私は私なんだから。そんな風に見られるのは精神的に辛い。幸いな事に、本屋の皆は私の事をそん目で見なかった。
ふと、そんな事を思い出してたら、カードの一番下に書かれている文字に目が止まる。
「……S職? 固定スキル?」
まだ興奮状態だったウサギのお姉さんは、私の一言に更にヒートアップした。
「このステータスで、更に固定スキル持ちって、どんなに凄いんですか!?」
「…………」
そんな事を言われても困る。何か居たたまれないから、質問に答えて欲しいな。目で訴える。
「あっ、固定スキルですね。簡単に言うと、生まれ持った唯一無二の固有スキルです。別名〈神の恩恵〉とも呼ばれています。何の固定スキルかは、シルバーになってから確認して下さいね。それまでは、本人であろうとも確認出来ませんから。でも、ムツキさんなら、あっという間にシルバーになれますよ!! S職、ゴールドも夢ではありません!!」
〈神の恩恵〉って、それってチートなんじゃ? うん。凄いのはよく分かったから、
「あの……声のトーン抑えてもらえませんか?」
今更だと思うけど、凄く目立ってるんですけど。注目の的になってるんですけど。愛想笑いが苦笑いに変わる。完全に顔が引きつってるのが自分でも分かるよ。反対に、ウサギのお姉さんはニコッと微笑んでるけどね。
「(照れてる。可愛い!!)……そうですね。すみません、興奮してしまいました。それでは気を取り直して、ムツキ=チバさん、ハンター試験合格です。突き当たりにある部屋にお進み下さい」
(やっと終わったよ……疲れた)
私は重い足取りで、促されるまま廊下を歩く。直ぐに部屋に着いた。教室程の広さの部屋には、私以外に既に十人程の合格者がいた。
私が指定された部屋に入った途端、合格者たちの目が一斉に私の方を向いた。異様な雰囲気に、私はビクッと体を強張らせた。
そんな私に、シルバーの胸当てを装備した大柄の若い男が、怒鳴りながら近付いて来た。
「おい、お前!! カードを見せてみろ!!」
「……お前」
喧嘩売ってるよね。勿論、買いますよ。
◇◆◇◆◇
常世での、男二人の会話。
「何だ!? あの男は!? 俺の睦月をお前呼ばわりしたぞ!!」
「俺が側にいたら、のしてやるのに」
「側にいるだろ?」
「分身だがな」
「それがどうした? ほら、噛め!!」
「……はぁ。簡単に噛んだら、睦月さんの立場が悪くなるだろ」
「チッ! しょうがないな」
「…………ところで、伊織。睦月さん、魔力五百だったな。さすが、我が主だ」
「…………」
「伊織は幾らだった?」
「…………百五十」
最後まで読んで頂き、ありがとうございましたm(__)m
書き直しました。
それでは、次回をお楽しみ!!




