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第五話 特権

 


 宿屋に到着した私たちは先に荷馬車を下りた。


 雇い主なのに手綱を握っていたゼロも荷馬車から下りる。入れ替わるように、同行していた一人が手綱を受け取り裏へと荷馬車を誘導する。それを見送った私たちは、ゼロを先頭に宿屋に入った。


「いらっしゃい。久し振りだね、ゼロ。元気してたかい?」


「いらっしゃいませ、ゼロさん。お元気そうでなによりです!!」


「いつもの部屋なら、空いてるぞ。頼まれてた部屋も勿論とってるぜ! 安心しな!」


 宿屋の人以外にも、次々に声をかけられるゼロ。皆、気さくに声を掛けている。相変わらずゼロさんは人気者だよね。若干、女性の声がワントーン高いけど。


「今日は綺麗どころを二人も持参してるのかい? やるね~~」


 同業者かな? ゼロを茶化している。アンリさんは分かるけど、私を入れるのはどうなの? 子供だよ。


「まぁね」


 昼間からお酒を飲んで、完全に出来上がっているハンターたちに適当に相槌を打つゼロ。そのまま一緒に二階へと上がった。


「ゼロさん。サス君もココも大丈夫なんですか? もし無理なら……」


 前を歩いているゼロに私は小声で尋ねる。


 もし無理なら、私たちは違うところに泊まってもいいし、なんなら、荷馬車の荷台で寝てもいいと思っていた。マドガ村の野宿も全然苦にならなかったから大丈夫。


「荷馬車で寝るって?……そんなことしたら、うみねこ亭から出禁されてしまうよ。それに、いくら君が強くても、年端のいかない女の子をそんな場所で寝かすなんて、僕が許せないよ。大丈夫。ちゃんと許可「嬢ちゃん! 安心おし! その犬っころや猫よりも、アイツらの方が汚いからね」


 私とゼロの会話が聞こえたのだろう。下から女将さんが大声で口を鋏んできた。


 それを聞いて私はホッと胸を撫で下ろした。その足下でココとサス君がボソッと悪態を吐く。「「アイツらと一緒にするな!」」って。思わず苦笑いになる。確かにここまで臭ってきそうだもんね~~。


 ゼロが取っておいてくれた部屋は、全部で三部屋。大部屋が一部屋に、個室が二部屋だ。


 私は個室が宛がわれた。


「ムツキちゃんは、シルバーだから当然だよ」


 戸惑う私に、ゼロは当たり前のように言う。


(シルバーだけど……)


 素直に部屋には行けない。


「…………」


 無言のまま、ゼロやショウたちを見上げる。


「先に部屋へ行くぜ」


 そんな私に焦れたのか、フェイが荷物を持ったまま大部屋へ向かった。そしてその後を追うように、ショウたちも大部屋へ向かう。後に残されたのは私とゼロ。ゼロは私の肩に手を置く。


「ハンターは実力主義の世界だよ。実力があるものが得をする。当然の摂理だ。だから、ショウたちを気に掛ける必要はないよ。気に掛ける事は、反対に、ショウたちを侮蔑する事になるからね」


 そう諭してから、ゼロも個室へと消える。


 一人取り残された私たちは、戸惑いながらも宛がわれた個室に向かった。


 一人部屋にしては広く、浴槽や洗面所、トイレも完備された部屋だ。おそらく、この宿でかなり高価な部屋に違いない。


(これが、シルバーの特権? 実力主義の世界なの?)


 難しい顔をしてたんだろう。


「ムツキ、君がハンター試験を受けた時、ギルドからお金を支給されたよね」


 顔をしかめている私に、ココがそう切り出した。いきなりだったけど、私はココの言葉に頷く。


「そのお金は、ステータスによって決まるって教えたよね」


 重ねて言うココに、私はまた頷く。


「だったら、試験に受かっても、ステータスが低い者はどうなると思う?」


「直ぐに、ハンターの仕事が出来る者が少ないのも、知ってますよね」


 ココとサス君の言葉に、私はハッとする。ハンターになった時点で、私は目に見える特権を享受していた。無意識のうちに。ラッキーとまで思っていた。恥ずかしい。


「自分を卑下するような事はしないで下さい。もしそう考えるのなら、他のブロンズのハンターたちに対して、憐れみの気持ちを持っているという事と一緒です。それは何よりも、命を掛けて、この仕事をしている者に対しての侮辱になります」


 サス君の言葉に、私は頭を殴られたような衝撃を受けた。サス君の言う通りだ。


「ムツキ。……それだけの享受を受けるということは、同時に、責任が生じるという事だよ。それだけは忘れないでね」


 衝撃を受けてる私に、ココの台詞は重くのしかかった。当たり前の事を忘れていた。


 考え込む私。ドアをノックする音で、さっきまで考えていたのがプツリと途切れる。


「ムツキちゃん。お昼食べながら、下で打ち合わせしたいんだけど?」


 ドア越しに、ゼロの声がする。


「分かりました。直ぐに行きます」


「じゃ、待ってるね」


 そう答えると、ゼロはドアから離れた。私は鞄を抱えると一階に向かった。





 お待たせしました。

 最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m


 それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪

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