第四話 地図に載らない村
こんな田舎の道まで、きちんと舗装されている。
多少ガタガタと揺れるが、荷馬車は一度も脱輪することなくスムーズに進んだ。マトガ村までの道もそうだった。細かい所まで舗装されてるのは国が平和で豊かな証拠だと思う。
「ムツキちゃん。もうすぐ、ドーンの森に到着するよ」
今回の依頼の雇い主であるゼロが、何故か馬の手綱を器用に片手で捌きながら前方を指さす。
(……凄い……でも、これって森なの……?)
圧巻だった。ゼロの隣に座っていた私は、遠目からでもはっきりと広がるその光景に目を奪われる。ぽかんと口が開いたままだ。
小高い丘を越えると、緑の壁が突然現れた。ドンッてね。そう、壁だ。壁! 森っていうより、樹海。見た事ないけど。そして緑の壁の前に、立派な村が出来ていた。
ーー地図上では載っていない村。
有名なダンジョンや、B級ランクの仕事のすぐ側で出来る村だ。マドガ村に出来ていたのと規模が違う。断然、こっちの方が立派だ。
「ゼロさん! 村が出来てる!! 凄い。凄いです!!」
思わず二回言ってしまった。興奮した私は、ゼロの服を掴み引っ張る。
「早く行きたいのは分かったから、服を引っ張らないように。危ないからね」
ゼロが微笑みながら注意する。私は「すみません」と謝ると、慌てて手を放した。
そんな私とゼロの様子を荷台から眺めている四人。
「はぁ……。ムツキちゃんって、癒されるわ~~。女の子が一人いると華やかになるわね」
うっとりとしたアンリが独り言のように呟く。荷台にいた全員ははっきりと聞こえていた。
「「「…………」」」
誰も返事をしない。何とも言えない異様な空気が漂う。一緒に乗っている他の三人は若干引き気味だ。
興奮していた私は、荷台の異様な空気に全く気付かない。しかし、サス君やココは勿論気付いていたし、聞こえていた。サス君とココは私を見上げると、「またか」と大きな溜め息を吐くのだった……。
それはさておき、道中、危険な魔物や強盗にでくわすこともなく、私たちを乗せた荷馬車は無事ドーンの森に到着した。
「ーー!! 久し振りだな、ゼロ。今回はお前さんも潜るのか?」
村に入る門を守っている傭兵が声を掛けてくる。その声は、何かにおどおどしているような、落ち付きがないような感じがする。目線も明らかにズレてるような……。ゼロさんが直視出来ないのかな? 美しさも罪だね。
「ああ。どうしても欲しい薬草があるからね」
ゼロは慣れているのか、苦笑いを浮かべながら答える。
「で、後ろに乗ってるのが、雇ったハンターたちか?」
傭兵は荷台に乗っているショウたちに目線を向けた。言いながら、ショウたちのハンターカードを確認している。まず、戦士のショウが見せ、最後に獣人のアキが見せた。
「ああ。それと、隣に乗っているこの子もね」
そうゼロが答えると、傭兵は一瞬驚くが直ぐにゼロの冗談だと思ったようだ。
「ゼロ、一瞬、本気にしちまったじゃねーか! 隣のその子、お前の妹か?」
(ゼロさんの妹!? 滅相もありません!! こんな美形な人の妹なんて! 普通の容姿をしている私が!?)
「違います!! 私もハンターです」
そう力強く否定した私は、自分のハンターカードを懐から取り出す。
「シルバー!!!!」
傭兵は私のハンターカードを手に取り、完全に固まっている。当然そうなるよね……。
「……シルバーで冒険者…………シルバーで冒険者……」
何度も繰り返し、呪文のように呟いている。よほどショックだったのか、焦点が定まっていない。
ゼロはそれを見て軽く溜め息を吐くと、体を傾け、固まっている傭兵の手からハンターカードをひょいと取り上げると、私に渡す。
「それじゃ、通るよ」と、まだブツブツ言っている傭兵に一言声を掛けてから、馬のお尻を軽く叩いた。
傭兵はまだ固まったまま、呟いている。
(シルバーカードの威力って……なんか、怖いな……)
私は手元にあるハンターカードをマジマジと見詰める。その顔は自然と厳しいものになっていた。
「シルバーカードって、上級職だからね。上級職を得られるのは、ハンター全体で極僅か。10パーセントも満たないかな。普通は、ブロンズで生涯を終えるよ」
ゼロは私の顔に視線を移した後、前を向き、教えてくれた。荷台にはブロンズがいるのに。
私は懐にハンターカードをしまう。
(10パーセントも満たない……?)
少ないとは思っていたけど、まさか、そこまで低いとは思ってもみなかった。ゼロの言葉を噛み締める。
「……それよりも、少し傷付いたなぁ。そんなに、力強く否定しなくてもよかったんじゃない?」
ゼロが少し拗ねたような言い方で私を責めた。何の事?
「そんなに僕の妹って思われるのは嫌?」
「えっ! 妹って言われた事を否定したことですか? 当たり前じゃないですか! ゼロさんのような美形で、王子様風の人の妹なんてありえませんよ! 平凡な顔をした私が、ムリムリ」
「「「「「え?…………」」」」」
全員が、キョトンとして私を見詰める。一瞬、皆の動きが止まった。
私は皆の反応に首を傾げる。
((((マジで!?))))
私以外の皆が、一斉に突っ込みをいれた。それを見たサス君とココは、またしても大きな溜め息を吐いた。
皆の反応の意味が分からなくて首を傾げる私と、溜め息を吐くサス君とココ。
そして顔を若干引きつらせている皆を乗せた荷馬車は、真っ直ぐ村の中を進んで行くのだった。
お待たせしました。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございますm(__)m
ドーンの森編の、始まり始まり~~!!
それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪
 




