第二話 薬屋ゼロ
ジェイ(ギルマス)が紹介してくれた依頼を受けた。
今回は少し長旅になる。
マトガ村は滞在も含め五日で帰って来れたが、今度はドーンの森だ。直ぐに行って帰って来れる距離じゃない。
師匠がくれた手引き書で調べてみると、ドーンの森は、グリーンメドウから北西の方角に、乗合馬車で三日程移動した場所にある。数キロはあろうかという、広大な森だ。
因みに、依頼書に書かれていた遺跡は、ドーンの森の中央付近に今尚、綺麗な形で残っているらしい。
この世界の遺跡ね……地球と違うのかな? ちょっと興味がある。
そうそう、ジェイも言っていたが、ドーンの森に自生している薬草の効能は、平地に生えてる同じの薬草と比べて遥かに高い。それは、遺跡に近付けば近付くほど高くなる。
不思議な現象だが、おそらく、遺跡から発せられる何かしらの力の影響を大きく受けているのだと、ハンターや学者たちは結論付けたらしい。
まぁ色々いったけど、簡単にいえば、ドーンの森に自生する薬草はどれでも高値で取引されるってことだ。当然だよね。
なので、結構な数の命知らずが出てくる訳だ。一攫千金まではいかないけど、結構な実入りが期待出来るからね。
高レベルの魔物と出くわす可能性がある事を、知ってる筈なのにね。もし運悪く出くわして大怪我したとしても、それは自己責任だと正直思う。
でも、それを別にしても、この依頼って結構ラッキーなのかもしれない。お金には興味はないけど、レベル上げには適してる。
なので、出来たら暫く滞在したいと考えていた。あくまで、雇い主のゼロさんがOKしてくれたらの話だけどね。
上手くいけば、この旅が最後になるかもしれない。レベル15までは後2つ。厄介な魔物がいるなら、意外にすんなりとゴールに出来そうだ。自動的に戻る点は気になるけど。まぁ、なるようにしかならないか。
さて、話を元に戻すが、ドーンの森とグリーンメドウの往復だけで、最低六日掛かる。
依頼主の薬屋ゼロも、麓に滞在して、薬草の採取に三日は掛けようと考えてると聞いたから、私としては万々歳。
となると、最低十日以上の荷造りが必要だ。
ポーションとかも補充しとかないと。マトガ村の分が、まだ少し残っているから、後三本ぐらいでいいかな。一応、治癒魔法が使えるから大丈夫かな。遠出だからって、あんまり買うと重たいしね。服何着か買っておきたいし。……この世界にマジックバックとかないのかな? あれば問題解決なんだけど。
ギルドに出発の日にちを問い合わせたら、三日後だった。
色々用意するものがあるから、ラッキーだった。急ぎの仕事じゃなくて良かったよ。
という訳で、早速私は紙袋を左手で抱えたまま、薬屋の重厚なドアを開けた。
カランカラン。来店者を知らせるベルが鳴る。
サス君とココと一緒にお店に入った。
この前来店した時は注意されなかったけど、サス君たち入って大丈夫かな? 一応、口にいれるものだしね。抜け毛が気になる。抜け毛対策はしてるけど。ちょっと不安になるが、サス君もココも平然としている。
そんなことを考えてたら、店の奥から店員が出てきた。
「いらっしゃいませ!! 何かお探しですか?」
見知った顔だ。
「ゼロさん、こんにちは!」
店の奥から出てきたのは、店主のゼロだった。
実は彼、うみねこ亭の常連さんだ。よく一人でランチに来ている。何度か接客をしたことがあるから、顔見知り。
このゼロさん、見た目、二十代半ばの美人さんだ。男性に美人っていう形容詞は失礼かもしれないけど、その形容詞が最も似合っている。
サラサラした金髪で髪の長さは、やや長め。肩甲骨ぐらい。澄んだ青の瞳をした、王子様風の容姿をしている。優男に見えるが、実はかなりのキレもので、朱の大陸で何店舗か薬屋を経営していた。
「ムツキちゃん、カコア飲む?」
いつもと同じように、ゼロが訊いてきた。
「頂きます!!」
遠慮なくそう答えると、ゼロは店員に合図をだす。
それから、数分も待たずしてカコアが運ばれてきた。サス君とココの前にもミルクが注がれた皿を置く。
「ありがとうございます」とお礼を言ってから、私はカコアに口をつけた。美味しい~~。ホッとする。
「ムツキちゃん、僕の依頼を受けてくれたんだって」
ゼロが話を切りだした。
「はい。それで、今日はポーション三本ほど買っとこうかなっと」
「いつも、ありがとう。……ほんと、ムツキちゃんってすごいね。ハンターになって間もないのに、Bランクの仕事をこなしているんだから。さすが、〈銀色の冒険者〉だね」
満面な笑みを浮かべながら、ゼロは意味深な事を言った。
(えっ!? 何? 銀色の冒険者? 何それ?)
「ゼロさん。銀色の冒険者って、何ですか?」
「ムツキちゃんの二つ名だよ。皆にそう呼ばれてるよ。知らなかった?」
全く知らなかった私は、コクコクと頷く。
(まさか、私に二つ名って!?)
二つ名が付けられてるなんて思ってもみなかった。内心、少し憧れてたけどね。何か、格好いいじゃん。
「いつからですか!?」
「ムツキちゃんが、正式にハンターになった時からかな」
(そんな前から……って、どうしてそこまで詳しく知ってるんですか? ゼロさん)
「ここは薬屋だよ。多くのハンターがうちを利用してるしね。それに、ギルドにも商品を卸しているからね、そういった噂は自然と耳にはいるよ」
顔に出ていたのだろう。おかしそうに笑いながら、ゼロは教えてくれる。実はもう一つ、噂がたってることがあるのだが、それについてはゼロは口にしなかった。
絶対、楽しんでるよね、ゼロさん。にしても、もう少しマシなものはなかったのかな……。嬉しいけど、銀色の冒険者って……そのままじゃん。
「……ところで、ムツキちゃん。明後日出発って聞いたけど大丈夫?」
考え事をしている私にゼロが訊いてきた。
「勿論、大丈夫です」
「そう。だったら、僕の荷荷馬車に乗って行かない?」
ゼロさんの荷荷馬車に? っていうか、
「ゼロさんも、ドーンの森に行くんですか?」
てっきり、行かないとばかり思ってた。
「どうしても、手にいれたい薬草があってね。直接、現地に行こうと思っていたんだ。出来れば、手伝って欲しいんだけど、どうかな?」
手伝うのは、全然問題ない。それに、ゼロの申し出は私たちにとって願ってもないことだった。乗合馬車の乗り継ぎの手間が省けるからね。
「お願いします!!」
私は二つ返事でその話に飛び付いた。
お待たせしました。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございますm(__)m
それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪
 




