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第二十九話 処刑当日



「出ろ!」


 昼少し前だった。傭兵が三人とコウとアランの取り巻きの一人で、且つマリア信者の騎士団長の息子が牢屋にやって来た。名前? そんなもの知らん。だって興味ないもん。


 そいつらがやって来た理由。それは私を処刑場に連れて行くためだ。


 傭兵の一人に乱暴に腕を掴まれ、乱暴に牢屋から引きずり出される。あちこち打ってもお構い無しだ。牢屋を出たら、騎士団長の息子に早速蹴られた。


 よろけもしないので、更に蹴られる。無理矢理膝を折られ両膝を付くと傭兵に止められるまで蹴り続けた。


「グズグズするな!! この魔女が!!」


 呻き声一つ上げない私に、騎士団長の息子は苛つきながら怒鳴り付ける。乱暴に立たされた瞬間、足に激痛が走った。掴まれた腕にも激痛が走る。痛さは灼熱の熱さを伴う。


(もしかして、折れたかも……)


 さっき、嫌な鈍い音がした。冷や汗が吹き出す。あまりの激痛と熱さに意識が飛びそうになった。だけど、こんな所で意識を失う訳にはいかない。絶対にーー。


 幸いっていっていいのかな。無理矢理歩かされてるので、意識を失わずにすんだ。折れた足を引き摺りながら階段を下りる。


 しつこい程、何度も何度も影の中にいる皆には、何が起ころうと絶対に手を出すなって言ってある。勿論、巫女様にも。歯軋りが聞こえてきそうだよ。今すぐにでも、首チョンパされそうだ。でもさせない。


 私自身が煽ってるんだから手を出すと思っていた。だけど、ここまでするとはね……。これで、騎士団長の息子だって、ほんと笑っちゃうよ。どうやら彼の手や足は、無抵抗な者を傷付けるためにだけあるようだ。今は笑わない。それに、消すのは簡単だよ。頷けばいいだけだから。だけど、やるからには徹底的に潰したいでしょ。それに、


(私の痛みなんて、ユナたちに比べたら大したことない……)


 これは、私が仕掛けた罠だ。


 その罠に騎士団長の息子は綺麗に嵌まってくれた。







 念のために巫女様に様子を見に行ってもらってよかった。そのまま気付かなかったらと思うと、ゾッとする。まさか、あんなことを仕出かすとは思わなかった。考えてもいなかった。いや、考えるべきだったんだ。なのに、私はそこまで考えが至らなかった。そのせいで、ユナたちは……。


(取り合えず無事で良かった……)


 本当に間一髪だった。巫女様に上級ポーションを渡してて正解だよ。おかげで、ユナたちの命は助かったんだから。


 血塗れのボロボロ状態で戻って来た時は、心底血の気が引いた。


「どうして、そんな危ないことをしたの?」


 意識が戻った二人に尋ねた。口調は自然とキツくなる。


「……だって…………無実なのに…………」


「無実の人間を処刑なんて間違ってる。俺たちは殺人はしたくない」


 ユナは泣きそうに、片や少年は信念を持って答える。でも、その目は光を失っていた。その目を見て、ギュッと胸が締め付けられる。


 完全アウェイの中で、私の話を聞いて信じてくれたのは、とてもとても嬉しい。ましてや、信じてくれたんだ。嬉しいなんて言葉では言い表せない程に嬉しい。


 だからといって、敵の中に飛び込むなんて無茶過ぎる。無謀だ。同じ村人だからといっても。話せば分かる。そう思いたい気持ちは理解出来る。信じたいのも。だけど、それは……到底無理な話だった。考えることをしたのなら、すぐに違和感を感じた筈だから。


 村人たちは、異端者となったユナたちを制裁した。話も聞かずに。ユナたちよりも遥かに体が大きい大人たちがた。


 まだ私は戦う術がある。身を守ることも出来る。だけどユナたちは違う。戦う術何て持っていない。体を守る魔力もない。そんなユナたちを寄って(たか)って、村人たちは袋叩きにした。


 そして、納屋に閉じ込めた。治療もせずに。


 つまりそれは、死ねということだ。


 いくら上級ポーションや治癒魔法を掛けても、心の傷までは治せない。怪我は綺麗に消えてもね。残るんだよ、心の傷は……。


「…………ありがとう……ありがとうね……」


 それしか言えなかった。無茶をしてって怒ることも責めることも出来なかった。出来るわけないじゃない。ましてや、謝ることも出来なかった。だって、ユナたちのブライドを傷付けることになるから。


「貴方たちは休みなさい。【眠れ】」


 巫女様の声が牢屋に響く。同時にコトッと眠りに落ちたユナたち。


「これ以上は見ない方がいいのでは?」


「そうね。見ない方がいい」


 眠りに付くユナたちの寝顔を見ながら答える。ユナたちには休息が必要だ。


「……護りて様?」

 

『ムツキ。それはならぬ!!』


 ほぼ同時に、巫女様とシュリナが声を上げた。片方は念話だけど。


「決めた。明日魔力を極力回さない」


 それは防御力を大幅に下げることを意味していた。理解した瞬間、皆の顔色が青くなる。そして途端に慌てだす。


 いつも魔力を血液のように全身に渡らせていた。常世にいた時から訓練していたことだ。魔力を隅々まで行き渡らせると、大きな怪我をしない。身体の【強化魔法】を掛けている状態と同じだからだ。それに加護の力も一時封印する。魅了の力を封印した時と同じように。でもまぁ、完全に封印出来ないから、あくまで力を弱めるだけだけどね。それで十分だ。


 皆が思いと止まらそうと色々言ってきたけど、私は断として受け入れなかった。


 これは、私のエゴだ。只の我が儘だ。そうしたからって、ユナたちが喜ぶわけじゃない。ただ……私がそうしたいんだ。徹底的に奴らを潰したい。それだけ。


「巫女様。ここの映像も流せるよね?」


「昨日の奴らの映像なら、既に流しております」


 やっぱりね。昨日の奴らの言動は、既に保護者たちも知ってるってことね。なら、少し範囲を広げましょうか。


「魔法具の映像って、どこまで飛ばせるの?」


「二十キロ圏内です」


「二十キロかぁ……残念。見せたい人たちには見せられないね。やるからには、他国の王たちにも見せたかったのに」


 逃げ場はとことん潰してやる。


「なら、録画をして贈るのは?」


「いいね~~それ決定で」


 そんな会話をしている間も、影の中にいる皆は念話で考え直すよう言ってくるが考えを変える気はなかった。


「畏まりました。しかし「考えを変える気はないから。私も本当はここまでするつもりはなかったよ。(げん)をとるだけでよかったと思ってたから。でもね……私の無実を信じ、命を掛けてくれたユナたちの気持ちに答えたいじゃない」


 ユナたちの気持ちに答えたいって格好いいことを言ったけど、本心は少し違う。私自身が許せないのだ。自分とユナたちをこんな目に合わせた奴らが。


 だから、罪を一つ追加してあげる。


 私に、護りてに暴力を振るったという罪をーー。





 

 最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m


 いよいよ、次回から断罪が始まります。


 それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪

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