第二十六話 処刑前日(2)
敵である私たちに聞かれているとは知らずに、彼らは話を続ける。村長のことではなく、アランの母親アイリスのことについてだ。その情報は王都にいた騎士団長の息子がもたらしたものだった。
騎士団長の息子が語った事実にショックを受け、アランは今だに呆然としている。それはコウもまた同じだった。
「…………本当なのか……? 母上と父上が……まさか…………」
アランと同様に、コウもまた現実を受け入れ切れないでいる。二人と立ち位置は違うが、私も信じられなかった。
(嘘でしょ)
それが率直な感想だった。
「まさか、竜王がアイリスを地下牢に放り込むなんて思わなかったよ……」
だってね……。コウとアランを見てたらそう思うよね。当事者は放置で親を地下牢って……。普通逆じゃない? もしくは、両方だよね。アイリスを放り込むんだったら、竜王も王配も入るべきじゃない。っていうか、彼らの方が罪が重いよね。何か違う気がするのは私だけかな?
「ムツキの疑問は尤もじゃな」
「俺もそう思うぜ」
シュリナとヒスイは私の考えに賛成のようだ。だが、
「でもな……今回ばかりは、セイリュウの意見に賛成だけどな」
ヒスイの台詞が続く。
「ん? 何か知ってるの?」
いや、知ってるね。
しかし、返ってきた声はヒスイやシュリナとは違った。勿論、シロタマでもないよ。若い女性の声だ。
「当然の処置です、ムツキ様。あろうことか、アイリスは神域を侵そうとした上に、セイリュウ様に意見したのです。故に、巫女長様の手によって制裁され、私が連れて行きました。放り出してもよかったのですが、罪人にはまだ仕事がありますので。でも気付かれるとは、ペナルティー一つ追加ですね」
声の主は巫女様だった。彼女の傍らには、不機嫌そうなサス君とココがいる。最後の台詞はやや小さい声だった。
報告を受けた私は開いた口が塞がらない。
(こう言っちゃあ悪いけど、似た者親子だわ。アランの一方的な正義感って、間違いなく母親譲りね)
自分に不利な意見は聞かなくて、自分が常に正しいって信じてる。そして、少しでも自分の正義から反れた者は悪だと信じて疑わない。ましてや最悪なことに、悪を正すためには何をしてもいいって考えてる。一番傍迷惑な人種。アランはそういう奴だ。
似た者親子でも、まさか、神域に踏み込もうとするなんて考えもしなかったよ。斜め上もいいところよね。まだまだ想像力が足りないわね、私。なんか、頭痛くなってきたよ。
だけどいつまでもこうしちゃあいられない。気を取り直して、改めて巫女様とサス君、ココに労いの声を掛ける。
「……お帰り。皆お疲れ様。あれ? 傭兵さんたちは?」
てっきり、傭兵の二人も一緒だと思ってた。
「はい。彼らには特別に仕事を頼みましたので」
「何かあったの?」
「大したことではありません。社会のゴミを掃除しているだけですから」
ニコッと微笑んでるけど、目は全く笑っていない。それどころか、冷え冷えとしている。ゾクッ。悪寒が走ったよ。
「……訊いてもいい?」
恐る恐る訊いてみる。すると途端に、眉を寄せる巫女様。困った様子に私は首を傾げる。
「話すのは構いませんが……ムツキ様の耳を汚すことになりそうで……」
「乱暴されそうになったんだから今更だよ」
そう言ったら、真っ青になって慌てて否定する巫女様。
「ムツキ様は汚れてません!! 今も清らかで綺麗です!! もう二度と、そのようなことは仰らないで下さい!!」
(安心させるために言ったんだけどな……)
完全に失敗したみたいだ。
「ごめん。変なことを言って。…………で、何があったの?」
改めて尋ねる。すると、渋々だけど教えてくれた。サス君とココが不機嫌な訳も分かった。
「どうやら村長は、そういう変態趣味が集う集会の幹部の一人だったらしく、隠し持っていた魔法具はざっと確認しただけで、五十を有に越えていました」
「五十!! 小さな村の村長が魔法具を五十個以上保持してるの!? あり得ない数よね。でも……だったら、最低五十人は被害者がいるってことになるよね」
考えるだけで虫酸が走る。
「はい。主に村長の役割は贄の調達だったようです。生活に困る親から買い取り、中には誘拐した子供も多数いるようです」
吐き気がしてきた。
「そう。で、犠牲になった子たちは?」
段々、声が低くなる。同時に、牢内の温度も下がっていく。魔石が何個か割れた。この時、気付かれるかもしれないことなど、頭の端から完全に消えていた。
「大半は奴隷として売られ、気に入った子供は会員が」
さすがの巫女様も、「飼っていた」とは言えなかった。言えなくても伝わる。
「短時間でよくそこまで分かったよね。傭兵さんたちは、その会員たちをしばきに行ってるの?」
「はい。これを期に全て一掃します。平行して、子供たちの救助も行っております」
それを聞いてホッと胸を撫で下ろす。地獄にいた子供たちだ。少しでも無事で見付かるよう祈るしか出来ない。それでも、私は嘆願せずにはいられなかった。
「巫女様。子供たちの保護を優先に」
「勿論です」
巫女様が言うと、とても心強く感じる。でも……。
「さすがに二人では厳しいよね」
巫女様に少し聞いただけでも、背後にかなりの大物がいると容易に想像出来る。そうでなければ、これ程のことが表沙汰にならないでいるのは無理だ。
ましてや、子供たちの救助も平行で行わなければならない。どんなに二人が優秀でも不可能だ。国を頼ろうと考えても、今は無理だろう。竜王と王配にそんな余裕はない。そんなことをしているうちに逃げられたら、もともこうもない。もしかして詰んだ?
「その点なら御安心を。こういったことが得意な者を知っていますので」
「信用出来るの?」
巫女様の目から視線を外さずに尋ねる。
「はい。とても」
(巫女様がそう言うなら大丈夫ね。色んな意味で)
思わず口角が上がる。詰んでいなかったようだ。ホッ。
「そう……なら、安心ね。魔法具はこの茶番が終わってから破棄するわ。私がこの手でね」
存在ごと、徹底的に消し去ってやる。当然、変態クラブの会員の皆様もだ。
「畏まりました」
巫女様もとてもいい笑みを浮かべ答えたのだった。
そうそう、シロタマのことは忘れてないよ。結局その後すぐ、お開きになったんだよね。アランがコウの肩を抱いて部屋に戻ったからね。何してるんだか。
どうやら、こっちに来るのは夜になりそうだ。
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
やっと、第一話に繋がりました!!
長かったぜ( ̄▽ ̄;)




