第三話 ギルドは雑貨屋さん
幸いな事に魔物に出くわすことなく、無事、はじまりの町グリーンメドウに到着した。
町の入口には、結構な人だかりが出来ていた。
人だかりの大半は装備を身に付けた人だ。後は商人かな? 服装だけでは見分けにくい。取り合えず、一般人としとこう。
(入るのに時間が掛かりそう……)
途中で出会った、あの先輩ハンターたちと一緒に並ぶ。
リーダーは戦士のショウ。それから狩人のフェイに盗賊のアキ。そして紅一点、学者のアンリだ。アキは黒豹の獣人で、後の三人は人族だ。にしても、学者っていう職種があるのに驚いた。遺跡でも調査するのかな?
そうそう、最初、全員ガチに震えてたけど、やっぱりハンターなんだね。直ぐに、皆平常心に戻った。今もサス君の事をフェンリルだと信じてるけどね。一度ちゃんと訂正したよ。だけど信じてもらえず、何度も繰り返すのもかえって変だと思って止めた。
「ムツキはテイマーを目指すのか?」
抱き抱えられてるサス君を見ながら、ショウが訊いてきた。
(テイマーか……)
確かテイマーって、そう口に出さずに頭の中で呟いた途端、頭の中で声が響いた。
【お答えします】と。
「うわっ!!」
(何、これっ!?)
思わず悲鳴を上げる。反射的に周囲を見渡すが、先輩ハンターたちは突然悲鳴を上げた私に驚いてる。それに、前に並んでいた人たちも振り返る。
(絶対、変な子って思われてる~~)
「どうかしたのか?」
内心焦ってる私にショウが心配そうに訊いてくる。
「だっ、大丈夫。今、足下に何か触れた気がして」
必死で誤魔化す。
「何もいねーぞ」
フェイが答える。うん、そうだろうね。
「気のせいかな……」
そう答えるしかないよね。誤魔化せた? 誤魔化せたよね。
【そろそろ宜しいでしょうか?】
(間違いない。この声は私しか聞こえてない!?)
【それでは、改めて】
(何!? 完無視ですか!!)
【テイマー(魔物使い)とは、ハンター職の一種です。クラスとしては中級職となります。主に魔物を使役し、自分の手足のように戦わせる者です。魔物を使役するには、契約を交わす魔物に勝利しなければなりません。その場合、一対一の勝負となります。力でねじ伏せるのが第一条件です。勝負に勝ち、対象の魔物を屈服させる事で初めて、契約呪文を発動可能となります。しかし、発動出来たとしても、契約が交わせるとは限りません。術者の力量が問われる職種です】
言いたいことを言って、一方的にプチッと切れた。
(もしかして、これって……伊織さんがくれた旅の手引き書? マジか……)
魔法使い半端ない。ポーカーフェイス、ポーカーフェイス。また変な子に見られるから。
「恥じらって固くなっちゃったムツキちゃんも可愛い!!」
アンリに抱き付かれた。圧迫感が凄すぎるよ。苦しい~~。ギブギブです。パンパンと腕を叩いたら、慌てて放してくれた。
「ムツキちゃんごめんね。大丈夫?」
「……大丈夫です」
「で、テイマーになんのか?」
フェイが訊いてくる。
テイマーか……う~ん、これってさ……正直言って超めんどくさい。効率悪いよね。わざわざ、使役させるために魔物と戦って、勝ったとしても契約出来るとは限らない。魔物に勝つためには、自分自身も強くならなくちゃいけないし。私的にはないかな。でも、ここで否定するのもなんだし。
「……まだ、自分が何に向いてるか分からないし、取り合えず、無難な職に付いてから考えてみようかなって」
そう答えたら、皆に驚かれた。
「えっ!? 決めてないの!?」(アンリ)
「大概、ここに来るまでに、希望の職を決めてるぞ!」(ショウ)
「それも、一つの方法だな。かなり珍しいが」(アキ)
(えーー!? そういうもんなの!?)
皆の反応に驚く。
「まだ、受かってもねーのに、気の早いこった」
このパーティーの中で一番口が悪いのがフェイだ。言った途端、ショウに頭を小突かれている。
「悪いな、口が悪くて」
いえいえ。ショウが謝る事じゃないですよ。当の本人は、少し不貞腐れてそっぽ向いてるけど。仲がいいよね。でもまぁ、確かにフェイの言う通りだよね。受かってもないうちから……ん? 受かってない……?
「……もしかして、試験があるの?」
「勿論あるが」
…………はい?
……試験がある?
「……受からないと、ハンターになれない?」
「まぁ、そうだな」
ハンターになれなかったら帰れない。勿論、
「馬鹿師匠を殴れない?」
「師匠を殴るのか? それはいけない事だろ?」
「ショウ!! 教えて!! 試験って何をするの!? 筆記? それとも実技?」
「あ~~それは教えられない。すまないな。だが、簡単なものだぞ。一瞬で終わるしな。たぶん、ムツキなら合格するだろ。なんせ……」
ショウは言葉を濁しサス君を見る。後の三人もサス君を見ている。
うん。何を言いたいか分かるよ。
この世界に来て一時間も経っていないのに、ハンター試験を受ける事になりました。
展開早っ!!
(ここが、ギルド……?)
依頼の報告と報酬を貰いに行くショウたちに案内されて、ハンターギルドにやって来ました。親切な人たちです。
当然、魔物退治を生業にする組織なんだから、乱暴な人が大勢いて騒がしい場所だって想像してました。はい。
甘かったです。本当に甘かったです。
伊織さんも斜め上をいく事をしてくれましたが、ここも十分斜め上をいく所です。やっていけるでしょうか。
どう見ても、目の前にある建物は雑貨屋さんでした。
それも、男の人が絶対に近寄らない程のメルヘンな世界が漂ってきます。正直、私自身も入るのを躊躇する程です。
あっ!? 今髭を生やした中年の男性が入って行きました。完全に目の毒です。
……現実逃避していいですか?
「駄目に決まってるでしょ」
声に出てたようです。サス君が軽く突っ込んできました。
「初めて来た人間は驚くよな。特にここはぶっ飛んでるし。今でも戸惑う」
だろうね。うんうん。私は頷く。でも、何でこんなメルヘンな建物何だろう? テイマーの時のように音声ガイドは流れてこない。基礎知識でもここまでは記載されてないようだ。しょうがないか。
「さっさと入ろーぜ」
苛立ったフェイに促されて、私たちはギルドの門を潜った。意外と中は普通だった。
ここで、ショウたちとはお別れ。ちゃんとお礼は言ったよ。親切にしてらったからね。ほんと、最初に出会ったのがショウたちで良かったって、心から思う。受かったら、もう一度お礼が言いたいな。グリーンメドウを拠点にしてるって言ってたから、会えるよね。
私はサス君を抱いたまま、他のハンター希望者の列に並んだ。二十人程並んでいる。
泣いて帰る者。ガッツポーズをして喜ぶ者。様々だ。受験者の体格も様々で、人種も様々だった。獣人もいれば、頭に角が生えている人種もいた。よく見たら、首筋に細かい鱗がある人もいた。
うん。ここはマジ、異世界なんだね。
常世でも獣人とか鬼人がいたから、然程驚いたりしてないんだけど、でもやっぱり、この光景に圧倒される。
(あっ、まただ)
立派な体格の人が試験に落ちて号泣しているのを見て、私は不安になる。反対に、サス君は妙に落ち着いていた。そう言えば、建物を見ても驚いてなかったよね……まさか!?
「もしかして、サス君、ここに来た事あるの?」
周囲を気にしながら、小声でサス君に訊いてみた。
「あります。伊織の修行の時に同行しました。あまり変わってないですね」
どこか懐かしそうにサス君は答える。
(えっ!? マジで!?)
「伊織さんもここに来た事があるの!?」
あっ! ちょっと声が大きくなった。前に並んでいた人が振り返る。ヤバイヤバイ。
「先代の弟子になった時に一度」
なるほど。サス君の言葉で合点がいった。
自分も修行に来た事がある場所だから、私を放り込んだのだ。だとしても、心の準備は欲しかったな。せめて、最低限の準備もしたかった。お金も持ってないし……今晩どうしよう~~。ご飯は? サス君、お金持ってないよね。
「……試験受かるかな?」
さすがに、無一文で試験に落ちたら最悪だよね。
「大丈夫です!! 睦月さんなら、絶対トップ合格間違いなしです。安心して下さい」
「その自信は一体どこからくるの?」
「反対に、どうして落ちる、と思うのかが分かりません」
サス君は小さい声でそう断言してくれたけど、大丈夫って思えない。不安で仕方ない。
野宿も大丈夫。ご飯も二日食べなくても平気だ。体は臭くなるけど我慢出来る。取り合えず落ちたら、働く場所探さないと。受かったら、少しずつでも仕事しなくちゃね。でも、お金がないから、二、三日は野宿だよね……。そんな事を考えていたら、順番がまわってきた。
係員かな? ウサギの耳が生えたお姉さんが、私に何も書かれてない真っ白なカードを一枚差し出した。
(ウサ耳!! ウサギの獣人さんだぁ!!)
ウサギの獣人は初めて見たよ。尻尾はどうなってるの? 後ろに回って見たいけど、それをやったら即アウトだよね。完全なセクハラだ。
「このカードを受け取って下さい。緊張しなくても大丈夫ですよ」
緊張のせいで固まってると思ったウサギのお姉さんは、安心させるように微笑む。サス君も小さく「ワン!! (大丈夫です)」と応援してくれる。
(違うんだけどね。まっ、いいか。サス君の応援ももらったし、やってやろうじゃん!!)
私はウサギのお姉さんから白紙のカードを受け取った。
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
ほぼ全文書き直しました。
これからも、書き直し&大幅な加筆修正していく予定ですm(__)m