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第二十三話 処刑前日深夜(2)



 深夜、牢屋を訪れる奴なんてろくなものじゃない。


 小説なら暗殺か、脱獄か。


 属にいう、敵と味方の違いかな。ここが異世界でも(たい)した違いはないと思う。


 それを踏まえた上で、ここは私にとって敵陣のど真ん中。


 ということは、暗殺かな……。だとしたら、マリアが見た未来は違ってくるよね。まぁ言えるのは、深夜牢屋を訪れる奴はろくじゃないってことだ。それは間違いない。


(巫女様は三人って言ってたよね)


 確かに複数の足音が聞こえてくる。特に足音を殺そうともしていない。つまり、殺す必要がないからだ。当然、見張りも知ってるだろう。


 なら、考えられるのは一つ。


 雇い主の命令だってことだ。もしくは、それに近い者のね。だとしたら、確かめなくちゃ。


『皆、私が合図するまで出て来たらダメだからね』


 念を押しておく。だって、意外と皆短気なんだよ。で、返事は? 皆、無言って……。はぁ~~はなから守る気ないでしょ。心配しかない。せめて、雇い主が判明するまでは大人しくしといて欲しい。


 そんなことを考えているうちに、傭兵たちは牢屋の前まで来た。


「ほんとにヤルのかよ」


 口では不平を言いながらも、どこか満更なさそうな傭兵。私からは見えないが、絶対下品な笑みを浮かべてるだろう。


「仕方ねーだろ。こんなガキでも女なんだからよ」


 こっちは完全に楽しんでいるようだ。


「確かにな。その手の趣味の奴らには(よだれ)もんだろ」


(その手の趣味? 涎もの? 何言ってるの、こいつら)


 言ってる意味がまるで分からない。殺気も感じない。


 ただ、とんでもないことをしに来たってことだけは分かった。魔物と対峙した時とは全く違う。何て言っていいのかな、そう……虫酸が走るって表現が近いかも。


「ほんと、好き者だぜ。あの村長も」


(村長が雇い主ね……。速攻、雇い主が判明したよ。早いのはいいけど、早過ぎじゃない。こっちは要らない手間が省けていいけどさぁ。プロとしてどうなの)


「まぁ、いいじゃねーか。俺たちも役得だし。じゃあ、始めようぜ」


「そうだな」


 下品な笑いをする傭兵たち。彼らは鍵を開け中に入って来る。


 傭兵の一人が私の耳元に、もう一人が足元に立つ。残りの一人がしゃがみ込み、横向きになっている私の体を仰向きに変えた。傭兵三人の息を飲む音がする。傭兵たちの視線が突き刺さる。


 耳元にいた傭兵もしゃがむと、私の腕を掴もう手を伸ばす。足元にいた傭兵は足を押さえ込もうとした。もう一人はシャツに手を伸ばす。


 その時だった。


「そのまま動くな!!」


「いつまで、倒れた振りをしてるんだ!! やられてーのかよ!!」


 鋭い声と共にドカッという音と男の呻き声がした。


 なんだか様子がおかしい。倒れた振りを止めて目を開け起き上がる。倒れているのは、おそらく耳元にいた傭兵と私を仰向きにした傭兵だ。薄暗い室内でも分かる。


 新たに侵入して来たのは二人。彼らも傭兵だろう。怒鳴ってる男の顔に見覚えがあった。


「貴方たちは……」


 足元にいた傭兵が私を人質にしようとしたが、その手は届かなかった。届く前にサス君に噛み付かれ、牢屋の隅に投げ捨てられた。


「薄汚い手で睦月様に触ろうとするな!!!!」


 サス君が唸りながら恫喝する。かなりご立腹のようだ。


「貴方たちは確か……。どうして戻って来たんですか?」


 息を切りながらいたのは、休憩中に逃げた傭兵さんだった。傭兵さんたちはバツが悪そうな顔をする。そんな二人の背後に一つの影。


「……私も聞きたいですね。教えて頂けますか?」


 巫女様だった。傭兵さんの一人の首筋にナイフの歯が当たっている。もう一人が近寄ろうとしたが止めた。僅かだろう。血が滴る。


「ナイフを下ろしてくれ。俺たちは、あんたの主に危害を与えるつもりはない」


「なら、どうして来たんです」


 慌てて弁解する傭兵さんに、重ねて質問する巫女様。


「巫女様、離して上げて」


 私がそう言うと、渋々ナイフを外した。しかし、鞘には収めていない。少しでも変な動きをしたら即攻撃出来るようにするためだ。


「巫女!? 巫女がナイフ持ってるのか!?」


 その気持ちは分かる。けど、今はそんな空気じゃない。


「どうして戻って来たんですか?」


 もう一度同じ質問をした。


「こいつらが、お前を狙ってるって知ってたからだ」


「狙ってる? ……命を?」


 眉をしかめる。だって、そんなこと分かり切ってた筈だよ。ましてや、彼らは狙う側だったよね。


「命だけじゃない」


 はっきり何を狙ってるとは言わない。何故か戸惑ってるように見えた。


(命以外に? ……ああ、分かった)


「つまり、小さい子が好きな変態さんってことね。じゃあ、村長がアレを仕掛けたのも自分の趣味ってわけね。もしかして、休憩中も狙われてた?」


「明け透けだな。まぁ、そうだ。って、アレって何だ?」


 苦笑しながら訊いてくる。どうやら、知らないうちに護られていたようだ。特に隠すことでもないので教えてあげた。


「映像を記録する魔法具。あそこに仕掛けられてる。たぶん、私が乱暴されてる様を撮って楽しみたいんだね」って。


 途端に、嫌悪感丸出しにする彼らに私も苦笑いしか返せない。そんな中で、一人無表情で転がる男を蹴っている人が一人。


「仕掛けたのは村長で間違いありませんね?」


 口調は静かだが、蹴りは的確に急所に入ってる。鳩尾にね。当然、男は返事が出来ない。返事をしないから、尚蹴り続ける。そもそも、返事聞くつもりないでしょ、巫女様。助けに来てくれた彼らが、若干引いてるよ。


「そろそろ止めてあげたら」


(それ以上蹴ったら、絶対リバースするよ)


「護り手様はお優しいですね」


 にっこりと微笑まれる。目が笑ってない。マジ、怖い。


「いや、リバースされるのが嫌なだけ。で、どうするの? 変態さんたち」


「それはご心配なく。こちらで、滞りなく処理させてもらいます。勿論、村長も」


(処理って……)


「殺すのはダメだからね」


 躊躇いなく殺りそうで怖い。


「分かっております」


(ほんとかな~~?)


 どうしても、疑いの目になっちゃうよ。そんな目で見られてるのに、巫女様は平常運転。助けに戻って来た傭兵の二人を見上げる。


「すみませんが、手伝ってもらえませんか? ゴミを外に出したいので」


「分かった」


「では、少し離れますね」


 にっこりと微笑むと傭兵の襟首を掴む。二人もだ。そして各々、傭兵を引きずりながら牢屋を出て行った。


 直後、蛙の鳴き声のようなBGMが聞こえてきたのだった。




 


 最後まで読んで頂きありがとうございましたm(__)m

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