第二十一話 処刑二日前
ほんと、つくづく【神獣森羅の化身】の称号は凄いと思う。
だって、全てのステータスの異常を無効にするんだから。ましてや、身体強化の付与も付いているときたもんだ。最強の称号だよね。
なので、霊布のローブを着ていなくてもほぼ無傷で済んだ。ナイフでグサッと刺されたのにね。さすがに刺された瞬間は痛みが走ったよ。
とはいえ、無傷はヤバい。もし手当てされたら即バレる。わざと捕まったのがね。なので、手で押さえた時に魔法で軽く自分で傷付けた。裂かれたローブ(普通の)と血が滲んだシャツでリアリティーをだす。後は転がってればOKかな。
でもそれが、思ってた以上にきつかった。
なんせ、舗装されてない道を荷馬車で走るわけでしょ。石が転がってるし、へこんでる箇所もある。反対に出っ張ってる箇所もあるわけよ。そこを通る度に荷馬車が大きく揺れるんだよ、縦に。結構それが地味に効いた。おかげで、あちこち打ったよ。あっ、でも打ち身は出来てないけどね。
ただ……痺れ薬で、痺れて意識を失ってるわけだから、体勢を変えることも声を上げることも出来ない。これも、地味に効いた。快適な昼寝タイムが味わえるって思ってたのに、とんだ誤算だよ。
そんなことを考えること数時間。
「……よく効いてるな。ピクリとも動かねー」
遠くで声がした。アランとコウの声じゃない。ってことは、傭兵か村人か。
知らないうちに、少しうつらうつらしてたみたい。どうやら、私のことを話してるみたいだ。休憩中なのか、荷馬車はいつの間にか止まっていた。少し離れた場所から馬鹿笑いする声が聞こえてくる。
「そうだな……」
声の主は何か考えてるようだった。
「どうした?」
「この娘、本当に黒の英雄なのか?」
噂で何度も耳にした二つ名だった。
ルーキーでありながら、異例な早さでゴールドになった人物。黒髪で黒目から〈黒の英雄〉と呼ばれるようになったと聞いている。年端もいかない子供と言う者もいれば、屈強な男だと言う者もいた。それがまさか少女とは、さすがに彼らは思ってもみなかった。
「確かに信じられねーよな。でも、あいつらはこいつを黒の英雄だと信じてるよーだし。それにあの魔獣を仕留めた程の腕だ。それに、あの從魔だろ。あながち嘘じゃねーかもよ」
どうやら、話しているのは傭兵のようだ。
「同感だ。そんな奴が、あんなに簡単に捕まるか? そもそも、何で捕まえるんだ?」
(へぇ~~冷静な奴もまだいたのね)
「そんなこと、俺たちがいちいち気にする必要はねーよ。あいつらにとって、こいつは敵だってことだ。排除したい程のな。理由なんて知らねーし、今更後には引けねーよ」
(まるで、自分自身に言い聞かせてるみたいね)
でも、彼の言う通りだ。もう後には引けない。でも今ならギリ逃げられるかもしれない。村に入る前ならね。だからかな、ついポロリと出てしまった。
「…………逃げないの?」って。
とてもとても小さい声で囁く。
「「なっ!? 起きてたのか!!」」
驚く傭兵たち。他の傭兵から離れてるとはいえ、あまり大きな声で騒がれるのは止めて欲しい。
「静かに。で、何で逃げないの?」
「逃げたら、俺たちは多額違約金を払わなければならない。よくて、奴隷落ち。最悪、春を売らなきゃいけなくなる」
「ハル……?」
「体を売らなきゃならねーってことだ」
(体って、そっち方面よね)
「それは確かに嫌だけど……」
後が続かなかった。「命が助かるなら」とは言えない。もし自分だったら耐えられないと思ったからだ。それは、男も女も関係ない。
最初は、こんな依頼を承けた傭兵たちが悪いと考えてたけど、たからといって春を売るのは……。割り切れない。内心複雑だ。だからといって、傭兵たちが無傷で済ませれるかって問われたら、否だ。
「……嬢ちゃんが起きてる時点で、わざと捕まったってことになるよな。つまり、計画的だったってことか」
「…………」
無言を通す。私の口からは何も言えない。だが、この傭兵たちなら気付く筈だ。これ以上もう話すつもりはない。目を閉じる。
少ししてから、彼らの気配が消えたのを感じた。
『何故逃がした?』
憮然とした声が頭に響く。シュリナだ。
『理由なんて特にないわ。ただの気紛れよ』
少なくとも彼らは、下品な笑い声を上げている傭兵たちとは違うと思った。だから声を掛けた。それに私が逃がした訳じゃない。彼ら自身が選んだことだ。
死ではなく、生をねーー。
最後まで読んで頂きありがとうございましたm(__)m




