第十八話 処刑三日前(2)
アランの台詞に殺気立つ皆。結構愛されてるね、私。すっごく嬉しい。そんな中、私はいつも通り通常運転です。
「いやいや、何でアランが馬で登場なの? 普通はコウだよね」
だって王子様だし。馬での登場はコウでしょ。もしくは、コウとアランの相乗りもアリだよね。見た目は良い二人だから絵になる。売ったら、儲かるんじゃない。需要はあると思うよ。あっでも、罪人だから無理かぁ~~残念。
「気になるのはそこなのか!? 罪人って言われたんだぞ」
ソウガが突っ込む。他の皆は残念そうな目で見ている。さっきまでの殺気はどこにいった。
「そこは今更じゃん。なんせ、私を処刑しようって奴らでしょ」
「まぁ……それはそうだが」
納得出来ないソウガに、シュリナとヒスイがソッと横に来ると溜め息まじりに吐き出す。
「「こういう奴だ。諦めろ」」
「ちょっと、どういう意味!? 失礼だよね」
まるで、私がズレてるみたいじゃん。当然、反論しますよ。断固として。だけど、誰も取り合ってくれない。悲しい。
無視するソウガが、シュリナとヒスイに視線を移した後、サス君たちに視線を移す。サス君たちは小さく頷いている。ミレイまでも頷いてるよ。更に落ち込む私。そんな私たちから少し距離を置いているのは巫女長様とマリア。
「クスッ。本当に、可愛い方ですね」
「貴女と意見が合うのはしゃくだけど、落ち込むムツキ様もなかなかですわね」
「顔が残念なことになってますよ」
「そういう、貴女もね」
巫女長とマリアは、息を吐き出す音程の小さな声でヒソヒソと言葉を交わす。でも視線は勿論ムツキに向いたままだ。
その間も水鏡からはアランの怒号が聞こえて来る。
どうやら、姿を見せない私に焦れたようだ。近くにいた傭兵さんに森に入るよう命令している。
え……? 正直耳を疑った。悪質な冗談だよね。
命令された傭兵さんたちも困惑気味だ。そりゃあそうでしょ。中には怒りを露にする傭兵さんもいた。当たり前だよ。森に入るってことが如何に危険か知っているからだ。っていうか、そんなことはハンターになったばかりの人でも知っている。
平野にいる魔物はそれ程厄介な相手じゃない。だけど、それ以外に出没する魔物、特に森や山場、洞窟などに出没する魔物はレベルが高い。これ常識ね。ましてや、平野に棲む魔物だったとしても、スキル持ちが多い。これも常識ね。
だから、よほどの実力がないと森には近付かない。
ドーンの森のように蘇生草目当てに入るハンターたちも、一定のレベルがないと入れなかった。そんなハンターたちも、しっかりと準備してから入る。森に入るっていうのは、そういうことなのだ。
当然、傭兵さんたちはそんな準備をしていない。
そんな傭兵さんたちに「森に入れ」と命令する。つまり、アランは傭兵さんたちに「死ね」って言ってるのと同じだ。
「…………アランって、ハンターだったよね」
「はい。間違いなく」
マリアが答える。さすがのマリアも戸惑いを隠せない。
「お母さんはギルマスだよね」
「はい。今はその職は解かれているようですが……」
「だったら、当然知ってるよね」
「まぁ……知ってて当然ですね」
だよね……。理解に苦しむわ~~。っていうか、訳分かんない。怒りで我を忘れたとしてもないわ。傭兵さんたち可哀想。敵だけど同情するわ。付いた相手が悪かったね。でもまぁ、大半は金で雇われた者たちだ。こんな理不尽なことを言われて素直に応じるかな。私だったら絶対嫌だね。
そう思ったのは私だけじゃなかったみたい。早速揉めだしたよ。内部分列ってやつ。命は大事だもんね。マリアの信者は傭兵さんたちの中にはいないようだ。
慌てたアランが力任せに抑えようとする。
(そこそこ実力はあるみたいだけど、この人数は無理でしょ)
「ここで逃げ出した者は国犯として指名手配するが、いいのか」
アランを制止しながら、鋭く冷たい声で傭兵さんたちを静かに恫喝する。
(さすが、追放されても王族ね)
声に力がある。人を従わせるものを持ってるみたい。現に、さっきまで騒いでいた傭兵さんたちが静かになった。明らかに戸惑っている。まぁ……戸惑うのも無理ないか。
追放されたとしても、元王子だからね。その容貌は全然廃れてない。声にも力がある。気品っていうのかな、そういうのも失われていない。その側には、元ギルマスの息子アランが常に寄り添っている。
恐らく傭兵さんたちは知らないだろうね。アランとコウに元が付いてることに。知ってたら、絶対この仕事引き受けないよ。私だったら引き受けない。それとも、他の貴族からの紹介なのか。マリア曰く、何人かの貴族が加担しているようだし。
そもそも、よく観察してみれば、本当の意味でマリア教の信者はアランぐらいのようだ。コウはアラン教の信者だし。村人たちはアランを通してマリアを見ているみたい。少なくとも、傭兵さんたちは違うようだ。だとしたら、
(傭兵さんたち、どうするつもりだろう?)
ここが彼らの分かれ目だよね。
アランとコウに付いて、そのまま一緒にドロ船に乗るか。
引き時だと感じて、この場を去るかーー。
俄然、後者の方が傷は軽いよね。依頼未達成のために借金を背負うことになるだろうけど。そのせいで、最悪奴隷堕ちするかもしれない。だけど、生き残る確率はグンと上がるのは確か。借金さえ返せば、奴隷から脱却出来るし。
もしドロ船に乗ることを選んだら、アランとコウとたちと一緒に泥沼に沈むことは確定済み。まぁその前に、生き残ればいいけどね。
(さて、どうするか見物だよね)
そんなことを考えている間も、傭兵さんたちのシンティングタイムは続いている。
その時だ。
待ちきれなくなった魔獣の鳴き声が響いたのは。
ビクッと体を震わせる傭兵さんと森を睨み付ける傭兵さん。きっちり分かれてるね。村人さんたちは真っ青な顔で腰抜かしてるよ。コウとアランでさえ、顔が引きつってる。そこで黙ってたらいいのに、馬鹿なアランとコウは弾かれたように言い放った。
「何をしている!! 魔物を退治しろ!!!! ぼさっとするな!!」
「さっさと、罪人を引きずり出せ!!!!」
これが決定打となった。
大半の傭兵さんたちは生き残る道を選択した。それもそれで、かなり厳しいとは思うけどね。がんばっ、傭兵さんたち。自業自得だけどさ。これからは、仕事内容をよく確認してから承けようね。
お待たせしましたm(__)m
最後まで読んで頂きありがとうございますm(__)m
今回は軽いジョブで。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




