第十六話 処刑四日前
(あ~~やっぱり、日本人は風呂だよね~~)
肩まで浸かり「ふ~~」と息を吐く。
「久し振りに足が伸ばせる~~」
少し温めのお湯に私が作った入浴剤は投入済み。ココスの果肉を乾燥させた物も混ぜているので、浴槽にココスの甘い香り広がる。
実はこの入浴剤、ゼロさんのお店で販売中。効能は少し抑えてあるけどね。結構、良い副収入になってる。ポーションは店頭に並ばないけど。これも加えると、うん、家が余裕で建つよね。お金があるのはいいことなんだけど、皆の装備などを買ってもあんまり減らないんだよね。だから、貯まる一方。売っていないアイテム、特に魔石をいれたら……贅沢をしなければ、一生遊んで暮らせる額になっている。
自分のことなのに引くわ~~。でもまぁ、そのことは一先ず横に置いといて、私が諦めてスライム入りのお風呂に入ってるって。
入ってたら入ってないって。ミレイがそれとなく言ってくれたおかげで、一つだけスライムが入っていない風呂が用意された。勿論、私専用。私だけのお風呂って贅沢だよね。でも、この幸せは手放せません。日本人の性だね。
にしても、騒がしいな。
言い争う声がお風呂場まで聞こえてくるよ。何かあったの? そんなことを気にしながらも、身も心もホカホカに癒されてお風呂から出る。するとやっぱり、リビングでミカとロイが騒いでいた。
天使様に向かって一方的に。
見た目は完璧天使様。中身はちょっと腹黒。
だけど残念なことに天使様は、鼻と口元をハンカチで押さえている。唯一見える目元は真っ赤だ。耳までも赤いよ。熱でもあるのかな? の割りには元気そうだけど……。もしかして、
(花粉症? でも、屋外で押さえてなかったよね。ということは、入浴剤か)
「…………マリア。匂いがきつかった?」
素直に謝る。甘い匂いが苦手な人っているよね。マリアには花の香りが似合いそう。
「いえ!! ココスは大好物ですわ」
そんなに強く言われたら、却って苦手だって言ってるのと同じだよ。別にココスが苦手でも構わないのに。
「無理しなくていいよ」
「無理してません!!」
(そんなに、力一杯否定しなくても)
「なら、いいけど……。で、どうしたの?」
そう尋ねた途端、表情が険しくなるマリアを見て、なんとなくだけど話の内容が想像出来た。恐らく外れていないと思う。
「ミレイ。セイリュウ様と巫女長様を呼んで来て」
そう頼むと、ミレイは「畏まりました」と答え軽く頭を下げてから部屋を出ていく。
すぐにミレイは、ソウガと巫女長様を連れて戻って来た。
「……やっぱり来ましたね」
巫女長様の第一声。
「え? もしかして、知り合いなの?」
意外や意外。
「古い友人なのです。趣味が一緒なので」
(趣味?)
微妙な顔で巫女長様が答える。
「友人というよりは、好敵手に近いですね」
これはマリアの台詞。こちらは巫女長様と違ってにこやかな表情だ。にこやかだけど、何か背中がゾクッとした。うん。止めよう。これ以上この話題に触れるのは。早速、話を変える。
「……それで、マリアがここに来たのは、アランたちが動き出したから?」
「はい。明日中にはシーラの森に到着するでしょう」
(ふ~ん。明日中ね……やっぱり動いたか)
動かないで欲しいと内心願っていたけど、その願いはやはり甘かったようだ。仕方ない。残念だけど。彼らがそう自分で決めた道だから。
「ソウガと巫女長様も知ってたみたいね」
(まぁ、知ってて当然よね)
「当たり前だ」
「勿論です」
ですよね~~。
「……マリア様。シーラの森に来るのはアランの番の息が掛かった傭兵たちだけですか?」
ココが一歩マリアに近付き尋ねる。さすが、ココ。これってとても大事なことだ。傭兵たちだけなら蹴散らせばいいけど……もし、村人が混じっていたら乱暴なことは出来ない。だって、彼らは非戦闘民だ。踊らされたのか、どうかは関係ない。
「いいえ。残念なことに、村人も多数参加しているようです。ムツキ様。例の少女も参加しておりますわ」
少女ーー。
アランとコウの息が掛かった少女のことだ。彼らに命じられて、王都で私に接触してきた。
第一印象は、小ウサギのようだった。常に何かに怯えていたように映った。小さな音にもビクッと肩を震わせる。ちょっとした大声にも反応する。その様は、到底演技をしているようには見えなかった。だからこそ、どうしても気になっていた。
「そう……」
「ムツキ。このままマリアと一緒に白の大陸に行った方がいい」
黙り込む私に、ロイがそう進言してきた。ロイも私が納得するとは思ってないだろう。それでも、そう進言する。
ミカもロイの意見に賛成のようだ。ミカだけじゃない。この場にいる私を除く全員がそう思っただろう。その気持ちはとても嬉しかった。嬉しかったけど、私は頷けなかった。傭兵だけなら、私は躊躇なく頷いてただろう。厄介事には出来る限り関わりたくないからね。でも……あの少女が関わってるのなら……。
「……ごめん」
「どうしてもか?」
ソウガが私の瞳を真っ直ぐ見詰め訊く。
「本当にごめんね。我が儘で」
無視しても、誰も私を責めはしないだろう。でも私が私自身が責める。それでいいのかと。それでよかったのかと。
「見たくないものを見ることになるかもしれない。それでもいいのか?」
ソウガは私に覚悟を求めている。
今まで私を害しようとしてきた者たちに対して、聖獣様たちが下してきた罰は知っている。実際、その目で見た。加護を解かれた眷族の成の果てを。
言葉を失う程の容赦なき制裁。
当然、ソウガも例外じゃない。私の前でも容赦なく、迷うことなく、アランとコウ、それに加担した者たち、当然村人たちも制裁を下すだろう。
今度は制裁を終えた後を見るのではなく、このまま残れば、過程を直接この目で見ることになる。
誰も言葉を発しない。音一つしない時間が流れた。ほんの一分か二分ぐらいだ。だけど、感覚的には一時間や二時間が経ったぐらいに感じた。
誰もが私の言葉を待っている。
「…………たぶん、ここで私が白の大陸に行っても誰も責めないと思う。だけどね、私が私自身が私を責める。それは嫌かな」
自嘲気味な笑みが浮かぶ。
「……変わらないな。ほんと、損な性格をしてる」
ソウガが溜め息混じりに呟く。
「全く、ソウガの言う通りだ」
「それがムツキだろ」
シュリナとヒスイが諦め気味に溢した。サス君もココも溜め息を吐きながらも反対してこない。
無駄だって分かってるんだろうね。こうなったら、梃子でも動かないから。ただ……他の皆は何か言いたそうだ。本当にごめんね……。心の中で皆にそう謝った。
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