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第十四話 ハイオーク



「カイン!!!!」

「死ねーーーー!!!! 化物ばけものが!! よくも、よくも!!!!」


 保護された騎士の叫び声と、我を忘れ、錯乱状態の金髪の男の声が重なる。


 カインと呼ばれた騎士は、一直線にギルマスに斬り掛かかった。カインの目には、ギルマスがハイオークに映っているみたいだ。


 ギルマスは狂戦士バーサーカー化した騎士を簡単にあしらう。剣の腕は遥かにギルマスが上だった。例え、狂戦士化していて能力値が数段上がっていても、ギルマスの敵ではなかった。


「これも、シビレ草のせい」


 明らかにカインは幻覚を見ている。それは、私の目から見ても明らかだった。


「睦月さん」

「ムツキ」


 二人の打ち合いを見ていると、サス君とココが一歩近付いてきた。


「周囲に警戒を。近くにハイオークが居ます。殺気を放ってませんが、俺たちを監視しているようです」


「風下にいるから、臭いは薄いけど、ハイオークに間違いないよ」


 サス君とココは小声で注意を促す。打ち合う剣の音で、サス君とココの声は私にしか聞こえなかった。私は返事の代わりに軽く頷く。


 すると、ココが副団長さんに近付き足にじゃれ付き始めた。ナイス、ココ。見た目猫。その仕草は不自然じゃない。


 予想していなかった行動に、副団長さんは足元のココに視線を落とした後、私に視線を移す。私はもう一度小さく頷く。それだけで、副団長さんは気付いてくれた。


 声は出さない。あくまで、私たちは気付いていない振りをする。今の所気付いているのは、私たちと副団長さんだけ。


「ジェイ、さっさと終わらせろ」


 副団長さんの声に、ギルマスは一瞬副団長さんに視線を移してから小さく頷いた。察したようだ。頷いた瞬間、ギルマスは狂戦士の背後をとっていた。後頭部を殴り気絶させる。


 地面に崩れ落ち掛けるカインを、ギルマスは軽々と抱えると肩に担ぎ上げる。そして、私たちに指示を出す。


「一旦戻るぞ!」


 撤退だった。


 今の状況では最善だと思う。カインをそのままにしとけないし。後一人の行方は気になるけど……。でも一応、緊急クエストの条件は満たした筈。


「シンを置いて行くんですか!?」


 保護された騎士が抗議の声を上げた。


 その気持ちは痛いほど分かる。手の届きそうな位置にいるからこそ、尚必死になる。


 しかし、ギルマスは抗議を一切無視する。それでも抗議を繰り返す騎士。彼は諦めない。仲間の命が掛かっているのだ。必死に食い下がる。ギルマスに睨まれるが止めない。


 副団長さんと組んでいた騎士が止めようとしたが、それが彼に火を付けた。副団長さんがキレる。


「ガダガタ煩せぇな!! これ以上何か言うんなら置いてくぞ!!」


 本性が出てる。マジ切れだわ。マジ切れした副団長さんに怒鳴られ、騎士は渋々口を閉ざした。そして、悔しそうに地面を睨み付ける。握り締めれた拳が、小刻みに震えていた。


「戻る「来るぞ!!!!」


 怒号と同時に、サス君は【風牙】を放つ。風の牙が暗闇に潜む者を容赦なく襲う。


【風牙】はサス君の固有スキルだ。字の如し、風の牙。敵を一刀両断に出来る。破壊力抜群の技だ。単体戦に適している。因みに団体には雷魔法だ。


「やった!?」


「まだです!!」


 サス君の緊張した声が響いた。


 副団長さんが空に向かって花火を打ち上げる。ハイオークが出た時ように持っていたものだ。狼煙の役割も果たす。だが今回は、別の使い方だ。


 周囲が明るくなった。少なくとも、魔物の姿は完全に捕捉出来る明るさだ。


 保護された騎士が短い悲鳴を上げる。幻覚で見せられた影響のせいか、小刻みに震えている。


 目線の先に、二メートルを軽く越える巨体がいた。


 二の腕は私の太股より太い。全身薄いグレー色の肌をしていた。全裸ではなく、下半身は腰布が巻かれている。顔は人に近いが、牙が見え醜い容貌だ。手に巨大な斧を持っていた。


(あれが、ハイオーク……)


 ハイオークは肩から血を流していた。サス君が放った【風牙】だ。でも、思った程傷は深くないようだ。


「…………オンナ……コッチニヨコセ……オレノモノダ…………ヨコセ」


 ハイオークは真っ直ぐ私を見ている。


「(言語を理解出来るのか!?)……悪いが、こいつはやれないな」


 ギルマスがニヤリと笑いながら答える。カインをやや乱暴に地面に下ろす。近くに控えていた副団長さんと組んでいた騎士が、カインを引き摺りながら離れる。


「オレノモノダ……オマエ、ジャマ。コロス」


 言い終わらないうちに、殺気がハイオークの全身から放たれた。


 圧迫感が私たちを襲う。見えない無数の手で、全身を押さえ付けられてるようだ。たが、何とか体は動く。


 この感じ……確かに、昨日感じたそれに近い。ここまでの圧迫感はなかったが。


「……瞬殺するつもりだったのに」


 悔しそうにサス君が呟く。


(瞬殺するつもりでやったの?)


 気になって、私は目の前にいるハイオークに【鑑定スキル】を使ってみた。



【ハイオーク(ランクS)】

 HP 1578/1550

 MP   30/30

 物理、魔耐(+50)

 固有スキル 暴食



(物理、魔耐が+50!! それに、固有スキル持ち!! でも、暴食って何?)


【暴食は食した対象のスキルを取り込み、使用出来るスキルです】


 頭に響く声。この感覚久し振りだ。この声の正体は、インストールされたこの世界の手引き書だ。魔法使いらしく、音声で答えてくれる。時には、本のように自分の目で読む事も可能だ。


 ーー食した対象?


【はい。食べた者のスキルを取り込むのです】


 ーーつまり、あのハイオークの物理、魔耐の値が高いのは……


【物理と魔耐に秀でている者を食したのでしょう】


 唐突に思い浮かぶのは、シンと呼ばれた騎士の事だった。


「ギルマス!! そのハイオーク、【暴食】のスキル持ちです!!」


 思わず、そう叫んでいた。


「道理で、そのフェンリルの攻撃が大して効いてなかったわけだ」


 ハイオークの殺気を真っ正面から受けているのに、全く気にせず飄々(ひょうひょう)と答える。


「オマエ、ツヨイ。ジャマ。コロス!! コロス!!!!」


「無理だと思うぜ。俺を殺すのは」


 刀の背の部分で、肩をポンポンと叩いている。


「コロス!! コロス!! コロス!! コロス!!」


 放たれる殺気が増す。ハイオークは叫びながら、巨大な斧を振り上げ襲い掛かってきた。


 だが、斧が振り下ろされる事はなかった。


 気が付けば、ハイオークの体が縦に真っ二つに切り裂かれていた。一歩踏み出したまま、崩れ落ちるハイオーク。ハイオークの目は、そんな状態でも私を真っ直ぐ見詰めていた。


「…………オレ……ノ……」


 それが、ハイオークの最後の言葉だった。




 ハイオーク討伐完了です。


 それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪


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