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第八話 処刑七日前(1)



 これといったトラブルもなく、夕方無事に中継地点となる森に到着した。


 そのまま中継地点(魔方陣)に向かってもよかったんだけど、陽が暮れてから森に入るのは危険だし、森の入口で一夜を明かす事にした。荷馬車に変更したから時間に余裕があるからね。ゆったり出来る。


 でも、マリアは用事があるからと、夕御飯を一緒に食べてから戻って行った。ほんと、忙しそうだ。


 この世界の王は、主に政治面に関しては、宰相とか側近に任せている。だけど、全て任せっきりって訳じゃない。口は出さなくても把握はしている筈だ。してなきゃおかしいでしょ。


 大陸全土の生活を維持するための決め事も、それに対する対策も常に変更される。それらを把握するだけで、かなりの時間が割かれるだろう。まだ継いでないとはいえ、次代翼王の仕事は山程ある筈だ。それプラス私の件。


 かなりの負担を強いてると思う。さすがに悪いなぁと思ったから、マリアが帰る間際に提案したんだ。


「私の件は後回しでいいよ」って。


 そしたら、ものすごく悲しそうな顔をされた。目をうるうるされて、至近距離から見詰められた。下手に言葉にされるよりも、グッと来るものがあった。……罪悪感に打ちのめされたよ。美人の涙はどんな武器よりも殺傷力が高いって聞いた事があるけど、大袈裟じゃなかった。ほんと、ずるいよね。折れるしかないじゃん。


 でも、これだけは言っとかないとね。「…………絶対無理はしないでね」って。これぐらいで倒れる程やわじゃないって、皆は言ったけどね。


 そしたら、ボロボロと泣かれた。皆物凄く引いたよ。特にロイとミカは、化け物を見るような目で見ている。気持ちは分かるけど、それとても失礼だからね。


「ヒック。……ムツキ様が私の心配をしてくれる日が来るなんて……思ってもいませんでしたわ」


 嬉し泣きですか、マリアさん。


「心配するよ。だってマリアは、私の大事な友達なんだから」


 そう答えたら、大きく目を見開き、すごくショックを受けたような顔をした。


 何で? 嫌だったのかな? 馴れ馴れしすぎたのかな? そんな考えが過る。少し離れようとしたら、ガシッと手を握られた。


「マリア……」


「失礼しましたわ」


 顔を上げたマリアはニッコリと微笑むと帰って行った。


「「「「(自覚なしの天然タラシが、また……)」」」」

「(キュ!! ムツキ様だもん)」

「(ムツキ様の魅力に抗える者などおりません)」


 ロイとミカ以外の全員が、何故か生暖かい目で見ているんだけど……シロタマまで、どうして? ロイとミカは悔しそうにしてるし。シュリナたちは盛大な溜め息を吐いてるし。訳を訊きたいけど、更に溜め息を吐かれてしまうので、止めて寝ることにした。










 そして、翌朝。


 森の奥の結界を越えた先、目の前に広がる光景を、私は呆然と眺めている。


「…………ここが入口なの?」


 思わず尋ねたね。たぶん、シュリナとヒスイ以外、全員そう思ったよね。絶対。


「そうだ」

「この下に魔方陣があるぞ」


 シュリナとヒスイが引きつってる私たちに反して、平然とした顔で教えてくれた。


(うん。この下に魔方陣があるんだね。でもさ……どうやって、そこまで行くの? 泳げって。泳ぎは得意じゃないから無理!! 絶対無理!!)


 だって、目の前に広がるのは森ではなくて湖だったのだから。そして、シュリナとヒスイが指差したのは、湖の中。行けっこないでしょ。


「あのさ……」


 文句を言おうと口を開き掛けた時、ヒスイの鋭い声が響いた。


「シロタマ! あまり水辺に近付くな!! 危ないぞ!」 


 直後、水面が大きく波打つ。と同時に、巨大な魚が派手にジャンプした。ちょっとやそっとで驚かなくなった自分を誉めたい。


 それにしても巨大だね~~。遠目でも鋭い歯が見えるよ。あーー間違いなく、肉食か雑食だね。シロタマを狙ってたし。私たち餌認定されてるよ。完全に引きつった顔で、再び潜った巨大魚が作った大きな波紋を見詰めている。


「キューーーーーー!!!!!!」


 シロタマが悲鳴を上げて、私の胸元に飛び込んできた。可哀想に、驚いたよね。よしよし。柔らかなプニプニした背中? を撫でてあげる。プルプル振るえてるよ。


「今日も元気だな~~」


 なのに、ヒスイはやけに明るい声で仰る。


「はい?」


 思わず、訊き返したよ。それも低い声で。シロタマの振るえはまだ治まってないんだよ。酷くない。


「あいつは、ずっと昔から、魔方陣を護ってる魔魚だ。セイリュウの眷族なんだぜ」


「へ~~そうなんだ~~」


 だけどその眷族は、私たちを食べる気満々だよね。


「あやつらの脳は、鳥よりも少ない。セイリュウ以外全員食料だ。()()もな」


 シュリナが気にも止めないように、さらりと答える。


「はぁ~~? それって駄目じゃん」


 聖獣(仲間)を食べようとする眷族って……完璧アウトじゃん。何飼ってるのセイリュウ様は。


「そうか? 単純でいいだろ」


 さっきから、ずっと引きつったままだ。


 単純ね……確かに、主以外は餌って、護る側にしては余計な感情が働かない分、強いのかもしれないけどさ……本来、訪れるべき者が訪れられないのは、どうかと思うよ。何か、頭痛くなってきたよ。


「……つまり、あの魔魚を倒さないといけない訳ね。それにさ、そもそも湖の底ってどういうことよ」


「セイリュウは水竜だからな。自ずと水に縁がある場所になるな」


「だとしても、さあ……」


 これはないでしょ。さすがに。仕方ない。ここで議論してても始まらない。ここはスパッと決断しよう。踵を返す私に、シュリナが慌てて声を掛けてきた。


「おい! 何処に行くつもりだ!?」


「そんなの決まってるじゃない。直接、ジーンの森に向かうんだよ」


 時間は掛かるけどその方が安全だ。振り返った私は呆れながら答える。そんな私に、更に追い打ちを掛けて来たのはヒスイだった。


「ジーンの森も同じだぞ!」

「そうだ。更に厄介な罠を仕掛けておる」


(何ですと!?)


「……つまり、セイリュウ様は私を拒否してるって事ね」


 そう結論付けた。間違ってないよね。


「違う!! そうではないのだ!!!! 待て!! 待たぬか!!」


 森を出ようとする私を、シュリナが腕を掴み必死で止める。


「セイリュウが罠を仕掛けるには理由があるのだ。そもそも、セイリュウを刺激したのはアキラなのだ」


「……どうゆう事?」


「そもそも、セイリュウは我らの中で一番の単細胞でな。五聖獣の総意でアキラと魂の契約を結ぶ事に決まっても、渋っておった。自分より弱い者とは契約を結べぬとな」


(あ~~脳筋って事ね)


「脳筋?」


「脳が筋肉で出来てる人のこと」


 シュリナの顔が苦虫を噛み締めたように渋る。言いたい内容が正確に理解出来たようね。宜しい。


「プゥ! アハハハ。確かに、あいつは脳筋だな。話が通じる相手じゃない。俺らでも、たまに繋がらない時があるもんな。単細胞で実力主義。自分より強い奴しか認めねーー」


 反対にヒスイは、腹を抱えながら笑っている。笑い事じゃないわよ。要は……。


「……つまりこれって、セイリュウからの挑戦状ってことね」


 様なんていらない。ほんと、呆れるわ……この非常時に。


「嘗て、アキラはセイリュウからの挑戦をことごとく打破してな、最終的に、セイリュウ自身とやり合って、ようやく認めさせた」


 当時を思い出したのか、シュリナは深い溜め息を吐く。


「いやいや、セイリュウとやり合っちゃあ駄目でしょ」


 聖獣が傷付けば、大陸の竜気が淀む。


「やり合うって言っても、猫がちょっかいを掛けるようなものだったぜ」


(竜が猫……? ちょっと可愛いかも)


「……つまりだな。これは、セイリュウの再挑戦リベンジなのだ」


 とても言いにくそうに、シュリナは告げた。


 えっ! マジで。それって、逃げられないじゃん。


 



 お待たせしましたm(__)m


 最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m


 それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪

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