救出
ヘルム村郊外ーー。
人も家畜も眠りに付いた時間帯。
一切の音がヘルム村から消えた。些細な音でさえも響きそうな中で、三つの影が音をたてずに動き回っている。
月明かりが三人を照らし出した。
全身黒装束に身を包んでいるので、顔は伺う事は出来ない。出来ないが、影の大きさから、女一人に男二人だと推測出来た。
影らは村の端に位置する石の塔へと向かう。完全に地理が頭に入ってるのか、全く迷うことなく最短距離で進む。
石の塔に辿り着いた影は一旦その足を止めた。木々の影に同化し身を潜める。
「見張りは二人ですね」
呼吸音ぐらいの小声で、女が話し掛ける。普通の人なら、まず聞き分ける事も出来ないぐらい、小さな小さな声だ。特別な訓練を受けてるからこそ、聞こえる声だった。
「見張りはどうとでもなるが、アレはどうするんだ?」
影の一人が塔の入口を指差す。一見、どこにでもあるようなドアが三人には光って見えた。つまり、何らかの術式(罠)が仕掛けられてるってことだ。
問題なのはその術式。
「……あの術式の基盤は、泥棒避けの結界ですね。……おそらく、触れると音がなる仕組みのものだと。それにしては、術式が複雑ですね……」
スキルを発動してなくても、これくらいは解読出来ます。でも、複雑に絡んでいる術式を解読するには、やはりスキルを発動しないといけませんね。
「解読出来るか?」
「最悪無理なら、直接窓からの侵入でもいいだろ?」
慎重派の男と、行き当たりばったりでも何とかなるだろと思っている男。まぁ、行き当たりばったりでも、それを後押しする程の実力があるから言えるんですけどね。なければ、只の馬鹿です。
それにしても、久し振りに組みましたが、相変わらず正反対の二人ですね。これで、息がピッタリなんだから不思議ですよ、ほんと。
思わず、マスクの下で苦笑してしまう。
それだけ、二人共プロってことですよね。私も負けてはいられません。さて、それじゃスキルを解放しますか。
ーー固定スキル【解読】発動。対象、魔術術式。
当然、声には出しませんよ。常識です。
発動した途端、魔方陣に描かれている様々な文字と図形が、ばらばらになって空中にポツポツと浮かぷ。やがてそれが、意思を持ったように動き出し小さな魔方陣を作り出す。
いつ見ても、この光景は幻想的で綺麗ですね。残念なことに、スキルを持つ私しか見ることが出来ませんが。薄暗い洞窟内で光苔が一斉に光出した時と似てますね。
解読に費やした時間は二分程。
うっわ~~マジですか? 思わず、声に出しそうになりましたよ。あのマリア様が、ロイという人物をやけに警戒していた意味がよ~く分かりました。これだけの罠を仕掛けられるんです。魔法に関しても、知識、実力ともずば抜けていますね。頭も固くなく、柔らかい。ただ性格は……。えげつないことを平気でしてますね。容赦なく。お腹の中は絶対真っ黒ですよ。勿論、ドSですね。
「……お待たせしました。やはり、ベースは泥棒避けの結界ですね。派手な警戒音がなる仕組みのものです。あとそれに、毒と呪いが付いてますね。因みに、触れると転移しますよ」
「転移?」
「おそらく、この術式を仕掛けた者の所ですね」
アランとロイについて一切、二人には何も話していません。あくまで、仕事の内容についてだけです。その背後は特に必要ありませんからね。その点、彼らはプロです。徹底してますね。とはいえ、さすがに何も知らないとは思いませんが。おくびにも出さない点も、プロだと思います。因みに、私は一応、彼らの素顔も名前も知りません(一応ですが)。
話が少し反れましたが。触れると、毒と呪いで血を吐き、のたうちまわりながら苦しんでいる様を、ロイとアランに見られるってことになります。うん。えげつないよね。やっぱり、ドSですよね。
「マジで? そいつ、性格悪くないか?」
「ほんと、いい趣味ですね」
マリア様といい勝負です。
「となると、壁をよじ登るしかないのか……」
確かに、これだけの罠が仕掛けられてるのなら、慎重派の男の言う通り、壁をよじ登るのが正解だと思います。
「一応、魔法を解読出来たので、それを無効化することは出来ます。だけど、正直お奨め出来ませんね。無効化した瞬間、相手に間違いなく気付かれますね」
「だろうな。気付かれて、潜られたら面倒だな」
そうですね。面倒ですね。ただ、面倒ですめばいいんですが。
「それに、気付かれないように助け出すのが、今回の依頼条件だった筈」
確かに。依頼条件を満たさなければ、再起不能に落とされたあげく、変なトラウマを植え付けられますね。間違いなく。誰にとは、口が避けても申せませんが……。
となれば、取る手は一つ。
「壁をよじ登りますか」
私の提案に男たちは軽く頷いた。
入口脇に立つ見張りの背後を取ると、口元に眠り薬を染み込ませた布を当て眠らせる。
あっという間に見張り二人を片付けた後、三人は石の塔の屋根にロープを引っ掻ける。力をいれて二度程引っ張ってみる。外れないのを確認してから、するすると三人は、石の塔の壁面を登って行く。
最上階の牢屋から、僅かだが光が漏れている。
三人は窓に近付いた。
微かだが人の声が聞こえる。
こんな時間に話し声? もしかして気がふれたの? 心配になって窓から室内を覗き込む。
そこにいたのは、年老いた夫婦が二人と中年の貴族と息子だった。
辺境卿……?
これでも一応、マリア様と一緒にいたのですよ。彼らの顔は記憶済み。間違うわけありません。
もしかして、グルなのですか?
そんな考えが頭を過る。どう見ても、老夫婦は不敬罪で捕まったようには見えませんし。そもそも、顔寄せ合って話をしている時点でおかしくありませんか。100%黒で決まりですね。
「どうする?」
「ここまで来て手ぶらで帰るのか?」
どうしましょう。老夫婦が想像通りグルならば、救出は無意味。却って悪手になる。確認する必要がありますね。なので、当然、
「少し様子を見ます」
そう答えてから、念のために持って来ていた魔法具のスイッチを押した。
外に私たちが居るとは知らない四人は、声を潜め話を続けている。窓ガラス越しだが私たちには関係ない。はっきりと聞こえてくる。
「…………お前の孫娘、命令通り例の娘と接触したぞ」
例の娘? おそらく、護りて様の事ですね。
「そうですか……。あの子は無事なのですね。約束は守りました、辺境卿様。なので、例の件はよしなに。宜しくお願い致します」
例の件……? 例の件が何かは分かりませんが、護り様を貶める事に加担したのは間違いなさそうですね。許せませんね。
「にしても、お前の孫娘、お前たちを助けるために必死で頑張っておるぞ」
「……あの子は優しい子ですから…………」
ホッとした様子を見せる村長夫妻。それは、孫娘の無事な様子を聞いてのものか、それとも、作戦が無事進んでいるのを知ってのものか。たぶん、両方だろう。もしかしたら、後半の方が比重が大きいかもしれない。
辺境卿は、そんな村長夫妻の顔を見て低い声で嗤う。
「何て顔をしている、村長。その子を使って、この辺境卿である儂から金を巻き上げようとするお前たちが。良心でも痛んだか?」
「私は間違った事はしてません。村長としての役目を果たしただけです。これで、この村は救われます」
村を救うために孫娘の気持ちを利用し、あまつさえ、護りて様を害しようとした訳ですか。分かりました。そうですか、ウフフ。
「「………………」」
あっ、すみません。殺気が漏れてたみたいですね。私もまだまだです。気を付けないと。辺境卿たちが凡人以下で良かったです。
「予定変更です。このまま戻ります」
「分かった」
「了解」
私たちは音をたてずに来た道を戻ったのだった。
大変お待たせしましたm(__)m
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m




