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第十二話 緊急クエスト



 陽が暮れて、また昇るまでのこの時間は、魔物と夜行動物の活動時間だ。


 特に魔物は、昼間に比べ活動的になり力も強くなる。魔物の殆どが闇の属性を有しているからだ。


 例えば、Dランクの魔物が、ワンランク上のCランクの力を出すのは珍しくない。ましてや、極々稀にだが、それ以上のランクの力を出す魔物もいる。なので、ハンターになった時、ギルドのお姉さんからしつこい程注意を受けた。


 だから、討伐クエストは昼間に行われる。夜は基本行わない。


 ハンターもそうじゃない人たちも、陽が暮れる前に近くの村や町に戻る。陽が暮れると同時に、門が閉まるからだ。最悪間に合わなかったら、門の前で野宿だね。


 それでも、極々稀に、夜に行われるクエストがあるらしい。でもまぁ、グリーンメドウを拠点にしているハンターには関係ない話だよね。


 しかし、今回は緊急に組まれたクエストだ。


 その場にいる全員の緊張が、否応いやおうなし高まっていた。そんな中で、ギルマスが口を開く。その声は厳しい。


「始めに言っておく。今回の緊急クエストは騎士の安否確認と現状の把握だ。それ以外は()()()()。分かったな!」


 険しい表情のまま、ギルマスは私たちと副団長さんたちに念を押す。特に、私に向かってだ。


(何それ)


 ギルマスが発した言葉に憤りを感じた。


 現状の把握。騎士の安否。それは分かる。だけど、それ以外は含まない。その台詞の意味は〈放置〉だと気付く。


 もし、騎士さんたちが魔物に襲われ、何処かに連れて行かれていたら、助けに向かってはいけない。ギルマスが言ってるのは、そういう事だ。それが、近くであったとしても。ギルマスが言った意味は、そういう事だ。


 助けに行って、反対に自分たちが殺られたら本末転倒だって、頭では分かってるよ。わざわざ、ギルマスが言った意味も理解しているつもり。それが、正しいって。


 でもそれを、副団長さんたちの前で言う? 


 あまりの無神経さに眉間のしわを深くする。しかし、副団長さんたちは怒りもせずに、ギルマスの言葉を黙って平然と聞いている。副団長さんと組んでいた騎士たちも。


「ジェイは間違った事は言ってませんよ」


 眉間にしわを寄せている私を見て、副団長さんが苦笑しながらギルマスを擁護する。


「そうかもしれないけど、副団長さんたちの前で言う事じゃないですよね」


 必要なら、コソッと教えてくれたらいいのに。


 ギルマスに聞こえないように、私は副団長さんとボソボソと小さな声で話しながら、来た道を戻る。


 村の中心部に近付くにつれ、自然と私たちは黙り込む。これ以上の無駄口を叩いている余裕がない。


 もう、新しいクエストは当に始まっているのだ。


 中心部から左側が、騎士さんたちが担当していた緑の区画。いよいよ、彼らが担当していた場所に足を踏み入れる。


 今回は複数のパーティーが組んでの仕事。


 ギルマス、副団長さん、私たちの混同パーティー。副団長さんと組んでいた騎士の二人も、勿論クエストに加わっている。


 前衛はギルマスと副団長さん。中衛が騎士さんたち。そして魔法が使える私が後衛だ。サス君とココも勿論後衛だ。


 ギルマスと副団長さんは飄々(ひょうひょう)としている。騎士さんたちは少し緊張しているようだ。


 私も緊張していた。副団長さんと話してた時は、手先が震え冷たくなるまでじゃなかったけど。今は手先が冷たいのに、掌は汗でベトベトだ。経験値があれば。まだマシなのかな? 


 緊張を解すために、深く深呼吸を繰り返す。


 この場にいる人よりも、回りに神経を張り巡らせてないと……。昼間に魔物を討伐したからといって、絶対居ないとは限らない。それに、何が起きているか分からない。私は私の役割を果たす事たけに、神経を集中させる。私はそう自分に言い聞かせた。


 緑の区画に入って直ぐだった。


 先頭を歩いていたギルマスと副団長さんの足が止まる。サス君とココの足も同時に止まっていた。緊張が走る。


「魔物か?」


 小声でギルマスが呟く。だが、魔物とは断定出来ないのか、鞘から剣を抜いてはいない。副団長さんもだ。


「いや、魔物ではない。人だ。魔物の臭いが染み込んでるがな」


 サス君の鼻は確かだ。


 真っ暗で目視での確認はとれない。ただうっすらと、白い塊が見えるだけだ。


「魔物の臭いが染み込んでるって、魔物の巣でも落ちたの?」


「それは、本人から訊けばいいんじゃない? 怪我してないみたいだし」


 サス君程じゃないけど、ココの鼻も確かだ。ココの台詞に全員がホッと胸を撫で下ろす。それでも、直ぐに駆け寄ろうとはしなかった。私は不思議に思いながらも、後ろから様子を伺う。


「……安心するのは早いよ、ムツキ」


 私の肩に移動したココが、耳元でポツリと呟く。


「そうだね。全員の安否が確認出来てないもんね」


「それもだけど……何故、魔物の匂いが染み込んでるのかも分からないしね?」


「それに、怪我はしていなくても、何かの影響を受けてる可能性もありますからね」


 ココとサス君が疑問に答えてくれた。


 はて? ここで新しい疑問が浮かぶ。


「影響って、何?」


「有名なのが、魅了とか洗脳ですね。今回は、洗脳の方だと思いますが」


 サス君が平然と答える。


「マジ!? そんな危ない能力を持ってる魔物がいるの!?」


「いますよ」

「勿論、いるよ」


 サス君とココが同時に答える。


(つまり、ギルマスと副団長さんは洗脳を疑ってるわけか)


「でも、そういった魔物は、スキル持ちっていって、かなり高位の魔物になるけどね」


 なるほど。ということは、


「もし、洗脳を受けていたら、高位の魔物が近くにいるって事になるよね」


「そうなるね」

「そうなりますね」


「って事は、ハイオークの可能性が高いって考えるのが妥当かな」


「一概にはそう言えないんじゃない? 確かに、可能性が高いけど、他の魔物の線もないとは言えないし」


 だろうね。尤もだ。


「因みに、洗脳のスキルを持ってる魔物って、どんな種が多いの?」


「それは難しい質問だね」


 ん? 何で?


「スキルは、固定の種に付いてるものではないからですよ。あくまで能力は個別のものですからね。固定スキルと同じようなものです」


 サス君が答える。


 あーなるほど。固定スキルと同じね。


「後は、進化して得る場合もあるね」


 ココが補足する。


「進化?」


「一定の経験値を得た魔物が、ある切っ掛けで別の魔物に生まれ変わる事だよ。ランクも名前も変わるしね。ハイオークもオークが進化したものだし」


「じゃ、ハイオークも何かのスキルを持ってる可能性があるわけね」


「そっ」


 ココが短く返事する。同時に、ハイオークの関与が私の中で高くなる。


 それに意義を投じたのはサス君だった。


「洗脳は精神系のスキルです。一般的に、ハイオーク物理攻撃を得意にする種族。精神系のスキルよりも、戦闘系のスキルを保有している可能性が高いと考えた方が無難です」


「なるほど……だから、難しい質問だったんだね」


 ココが言った台詞に合点がいった。


「で、どうやったら、洗脳されてるか判別出来るの?」


「ムツキにも出来ると思うけど」


「(私にも出来る?)……あっ! そうか。鑑定ね」


 そうだよね。【鑑定】のスキルを使えば分かるよね。HPやMPだけでなく、魔物の弱点も知る事も出来る。当然、毒や呪い等のステータス異常も知る事が出来る筈だ。【洗脳】も一つのステータス異常だよね。


「……見た限り、【洗脳】には掛かっていないな」


 ギルマスの少し柔らかい声が耳に入った。どうやらギルマスも、【鑑定】の固定スキルを持っているようだ。


「だとしたら、残りの騎士たちは何処に?」


「それは、直接今から、こいつに訊けばいいんじゃないか」


 ギルマスは倒れている魔物臭い騎士の体を、やや乱暴に起こした。副団長さんは鼻を摘まむ。そして、息苦しさに口を開けた騎士さんの口に、小瓶の中の液体を飲ませた。


 気を失っていた騎士さんの表情が苦悶に変わった。瞼が震えている。そして、ゆっくりと目を開けた。


 



 

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