第三話 処刑十日前(2)
皇女様の手紙が気になるのか、全員私の手元を覗き込む。
手紙の内容を要約すると、次の通りだった。
まず冒頭は、翼王と皇子の不敬な発言についての謝罪から始まっていた。よく読むと、既に王位を剥奪されたらしい。
(元翼王だね。ざまぁ)
次に、グリーンメドウで騒ぎについてだ。私の知り合いに、多大なる迷惑を掛けてしまった事への謝罪が綴られていた。
(それは、私でなく本人に直接謝って欲しい)
最後に、指名手配されているアランと、その番であるコウ=サンロック=アバタイトが、接触して来た件についてだった。なんでも、アランの番は第二皇子だそうだ。皇女様は一笑して、お引き取り頂いたと書いてある。
(やっぱり、会いに行ったか~~)
主に、ざっとこの三点だ。
正直言えば、信じ難い内容だった。
う~ん。思わず、首を傾げてしまう。首を傾げたのは私だけじゃなかった。手紙の内容だけじゃないよ。その文面からもだ。一瞬、代筆かなって思ったけど、さすがにそれはないと思う。
そもそも何が信じ難いかって。
それは、ズバリ皇女様の性格だ。
実際この目で見た皇女様御一行と、ジェイと双子たちから聞いていた皇女様、そして手紙から伺える皇女様。同じ人物なのに、人物像が全然繋がらない。
お花畑と理性的。
まるで、正反対の性格を持つ人物が二人そこにいるようだ。
しかし、気になるのは、さっき侍女が口を滑らせた、私の身を案じての部分は完全に伏せられていた事だった。
(答えはそこにあるかも……)
さて、どう返答しようか考えていると、シュリナが念話で話し掛けてきた。
『ムツキ』
『どうかしたの?』
『あの娘、変異魔法と認識阻害魔法を自分に掛けておるぞ。それも、中々の使い手だ』
(変異魔法……?)
『自分の姿を別な者に見せる魔法だ』
『……じゃあれは、本来の容姿じゃないって事ね』
『そうなるな』
(一体、何のために?)
『だったら、鑑定で覗いてみればいいんじゃねーの』
それだ!! 私はヒスイの提案にのった。早速、やってみる。
『鑑定』
固定スキルを発動させた。人物で使ったのは二人目。一人目はミレイだ。いつもは、魔物相手とアイテムしか使っていない。
【マリア=ローズテリア=パール(18歳/女)】
HP 3540
MP 6687
〈職業〉 賢者(レベル58)
〈固定スキル〉 先読み 鑑定
パール王国、第一皇女。次代翼王候補。
カシキ教信者(大神官)
攻撃魔法、支援魔法両方使える万能型。
『『『『『…………』』』』』
「キュ?」
一瞬、言葉を失ったよ。シロタマは違ったけど。
(…………間違いなく、本人だよね。にしても、賢者って……ゴールドじゃん。先輩じゃん)
さっきまでの無表情はどこにいった。あんぐりと口が開いたまま。かなりの、ボケ顔だよね。
変異魔法って聞いて、もしかしたら本人かもって思ったよ。でもさ……まさか、上級職だとはさすがに考えなかったよ……。ジェイさんが知らなかったようだから、容姿を変えて仕事してたって事だよね。ましてや、次代翼王候補って……そんな人が、アランとコウに加担する訳ない。
「…………ムツキ様。大丈夫ですか?」
黙り込んだ私を心配するミレイ。
「手紙は受け取った。消えろ」
「もう二度と目の前に現れないで」
睨み付けらがら、冷たい声で、ロイとミカは目の前の侍女を追い払う。いやいや、それは駄目だよね。
「……ムツキの身を案じてとは、どういう意味だ?」
しかし、ジェイだけは反応が違った。侍女を見据え、厳しい声で尋ねる。
「……さすが、ハンターギルドの総責任者。そして、勇王を名乗るだけはありますね。そこの双子よりは先が見えるようで安心しました」
にっこりと微笑みながら悠然と答える。もはや、侍女の風格じゃない。そもそも、勇王って言った時点で隠す気全くないよね。
それに気付いたジェイは、不信感から眉間に軽く皺を寄せる。
馬鹿にされた双子はくって掛かろうとしたが、僅かに残っていた冷静さが、なんとか二人を押し止めた。
私は腰を上げる。侍女と向き合う。20センチ程、侍女の方が高い。ちょっと、ショック。侍女は満面な笑みを浮かべ、そんな私を見詰める。
「……あんまり喧嘩を吹っ掛けるのはどうかと思いますよ。皇女様。いえ、それとも、次代様ってお呼びした方が宜しいですか?」
賢者は伏せておこうと思った。姿を変えてまでハンターをしてるんだ、何か知られたくない事情があるかもしれない。
私の台詞に少し驚いたようだが、マリアは私が立った時点で察していたようだ。
煩いのは、外野。ミカとロイが騒いでいるが、ここは無視。ジェイも驚愕しているが、ミカとロイのように騒ぎはしないし、取り乱さない。
「はじめまして。護りて様。パール王国第一皇女、マリア=ローズテリア=パールと申します」
見事なカーテシーを見せてくれた。そこに、お花畑の欠片はどこにもなかった。
「護りて様。よくお分かりになられましたね。護りて様は、鑑定スキルをお持ちのようで」
さすが、賢者っていうべきかな。お見通しだ。
「変異魔法と認識阻害魔法を併用していた事に気付いたからね」
シュリナが。
「クスッ。貴女様は本当に優秀な方ですね。一応、ステータスを覗かれないようにしていたんですが、護りて様には通じなかったようですね」
マリアは何故か、とても嬉しそうにニコニコ笑っている。勝手にステータスを覗いた事に関しては、怒っていないようで安心した。必要だとしても、嫌だからね。
「そんな事ないですよ。見えたのも極一部でしたし」
まぁそれでも、固定スキルまで見えた事は内緒にしとこう。
「護りて様。私に対して敬語は不要です」
(本当に、あの元翼王と皇子と血が繋がってるの? あの二人なら、こんな台詞絶対に吐かなかったわ。却って、私に様を付けるように強要したんじゃない)
「分かった。私も敬語は苦手だからよかったよ。私の事は護りてとは呼ばずに、名前で呼んでくれると嬉しいかな」
「畏まりました。ムツキ様」
出来れば、様も除けてくれると嬉しいんだけど。いきなりは無理かな。
「……で、私の身を案じてってどういう意味かな? そもそも、道化を演じたのも理由があったんじゃない?」
道化の部分を若干強めで言う。
「ムツキ様は私のステータスを見ましたよね」
マリアが何を言おうとしているか、分かってはいたが、ここで肯定するのは気が引けた。
「…………」
無言は肯定だって理解してるが、咄嗟に嘘は吐けなかった。嘘を吐いてもバレるだろうし。
「私には、【先読み】という固定スキルを持っております。その言葉通り、先を、未来を見る能力です。私の場合は、夢の中で見るのですが」
予知夢って訳ね。でも、スキルである以上、当たる確率はほぼ100%に近い筈。
どんな固定スキルでも、口にするのは、かなりの勇気が必要だと私は思う。それも、レアであればある程キツくなる。色んな事を考えてしまうから。
特に【先読み】なんて、ある種の人種によって喉から手が出る程欲しいスキルだろう。
そもそも、喋るつもりはこれっぽっちもない。だが口にするだけで、自分の身を危険に晒す事になる。それを躊躇いなく、マリアは口にした。それも複数に。
ほんと……噂って当てにはならないと、つくづく思う。次代翼王なんて関係ない。マリアは信じるに値する人物だ。
「……つまり、近いうちに、私に何か危険な目に合うって事ね」
自然と声が低くなる。
「はい、近いうちに。しかし、その話はここでは少し……。私の隠れ家が蒼の大陸にありますので、詳しい話はそこで致しましょう」
その提案に異論は全くなかった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
【参考までに】
王族にはファミリーネームに王都の名前が入ってます。なので、ロイとミカも正式名に王都の名前が入ってます。
ジェイは勇王に就いた時に改名しました。バレると困るので、普段は伏せてます。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




