祝福
残虐なシーンが少し出てきます。
猿轡を噛まされ、拘束されている偽巫女長を一目見た途端、ジェイとアイリスは二人に何が起きたのかを瞬時に察した。同時に、生臭い臭いの正体に気付く。
苦虫を十匹程噛み潰したぐらい、酷く顔をしかめるジェイとアイリス。
過酷な経験と修羅場を乗り越え、生き残ってきたギルマスたちだ。大概の事なら表情を変える事などないだろう。だけど、これに関しては否だ。
事実、ハンターをしていて、これに近い状況に遭遇した事も一度や二度じゃない。だが出来れば、二度と遭遇したくないと誰もが思い願う。
元凶の魔物を倒しても、後味の悪いものしか残らない。特に女性がそうだ。生き残っても、待っているのは地獄だけ。そう地獄だけーー。精神が壊れれば、まだマシだが……。
本来なら、見なくない、惨たらしい惨状の筈。
しかし、目の前の二人、特に偽巫女長の様子に、ジェイとアイリスは違和感を感じていた。とはいえ、何に襲われたのかは、まず自分の見立てに間違いはないだろう。
「…………倒したのか?」
長い沈黙を破ったのはジェイだった。とても重く、厳しい声だ。
「ああ」
「そうか……なら、いい」
もし取り逃がしていたら、こんなにも悠長にいられないだろう。
最も最優先で倒さなければならない魔物。
そう……偽巫女長と偽王を襲ったのは、ハイオークだ。
最もたちが悪く、凶悪な魔物。
子孫を残すために女を襲う。そして、孕むまで犯し続ける。孕まない男はハイオークの食糧になる。
拘束されている偽巫女長の隣で、布を掛けられている偽王の状態は、自ずと想像出来るだろう。そんな状況下の筈。だが……。
「…………何故、精神が壊れてないの?」
涎を垂らしながら呻いてる姿は、間違いなく壊れてしまった女性の特徴だ。
しかし、偽巫女長の目は明らかに違った。確かに、一見、死んだような目をしている。たが、その目は焦点を失ってはいなかった。壊れてしまった人間は、まずこんな目はしない。
「祝福を受けているからですよ」
アイリスの疑問に答えたのはリックだった。
「祝福……?」
そう訊き直すアイリスの声は、明らかに不信感と嫌悪感が滲み出ていた。
「永久奴隷になっても、精神と肉体が壊れて荷物にならないよう、永久奴隷の紋印と一緒に刻まれているんですよ」
「まさか!? 冗談は止めて。そんな難易度MAXの術式が施せる者がいるなんて聞いた事ないわ。精神安定と精神強化の支援魔法を掛けてるだけでしょ」
はなから、アイリスは信じていない。たちの悪い冗談だと思っている。
真実を知っている他の三人は、まぁそう思っても仕方ないと思っていた。普通なら、そう考える。それでも、媒介を使わず、効力を維持するだけ凄い事なのだが。まだその方が真実味がある。
しかし、現実は違う。
「……リック」
ずっと黙っていたリードが、リックの名を口にする。
リックは軽く頷くと、鉄格子の扉を開け中に入った。その目で見た方が早い。
「では、捲りますね」
そう一言声を掛けてから、リックは勢いよく偽王を覆っていた布を剥ぎ取る。
そこにあるのは、腰から下がない男の死体だった。
臓物の一部が五人の目に晒される。噎せ返るような血の臭いはしない。しないが、あまりにも惨たらしい死体だった。
明らかに、魔物に喰われた残骸ーー。
隣にいる偽巫女長は嘔吐を催す事なく、ただ……感情がない目で、嘗ての夫を見下ろしている。
「…………相変わらず、惨たらしい死体ね……」
アイリスは酷く顔を歪める。
「死体? よく見てみろ」
リードの台詞に、更に顔を歪めるアイリス。いくら永久奴隷とはいえ死者を辱しめる行為に、アイリスは怒りが沸く。リードに対し声を上げようとした時だった。
微かに……偽王の指先が動いた。
「ーーなっ!? 生きてるの!? リード!!!! 何故治療をしないの!!!!!!」
アイリスは声を荒げリードを責め立てる。それでも、動こうとしないリードとリックに、アイリスは侮蔑の目で睨み付けると、牢屋に入ろうとした。その手を、ジェイが掴んで止める。
「ジェイ!!!! お前もか!!!!」
「よく見て見ろ、アイリス」
興奮しているアイリスと対称的に、冷静さを失わないジェイ。憤りながらも、ジェイに促されるように、偽王のなれの果てに視線を移すアイリス。
そこにあるのは、魔物に喰い荒らされた、今にも死にそうな男だった筈ーー。筈だった。
ボコッ。ボコッ。ボコッ。ボコッ。ボコッ。ボコッ…………。
水が地面から湧き出すような、連続的な音が偽王の方からする。
目を凝らすと、その音がどこから聞こえているのか分かった。
全員、息を飲む。アイリスは真っ青になり、完全に言葉を失っていた。
ギルマスをここまで狼狽させるとは……。何も知らずに見せられたら、自分も平常心ではいられないな、とジェイはアイリスを見ながら思った。
ボコッ、ボコッという音は、欠損した部分から聞こえていたのだ。
「…………再生しているようだな」
そう……偽王の肉体が少しずつだが、間違いなく再生していた。
「……偽王と偽巫女長を見付けたのは、三日前。その時、偽王はほぼ、骨と僅かな肉片だけでした。内臓と肉の大半はハイオークに喰われてましたね。辛うじて、頭は無傷に近かったですが。……祝福の事は知っていたしたから、俺たちは頭と骨を持って帰り、ここに放置して三日。ここまで再生しました。後数日で、完全に再生出来ますね」
三日で、上半身は完全に再生された。後は下半身だけだ。下半身がない状態でも、いや……肉片と骨だけでも、偽王は生きている。
それは最早、人とは言えないだろう。
魔物とも違う。完全に人ではない存在に成り果てた、偽王と偽巫女長。
「………………嘘でしょう……」
そう呟くしかない、アイリスだった。
「だから言ったではありませんか、祝福を受けてると「これが祝福!! 呪いじゃないの!!!!」
確かに、アイリスの言う通りだ。これは、祝福の名の呪いだろう。しかし、リックは敢えて祝福と言う。ムツキもそうだ。
リックの台詞を遮り批判するアイリスに、リックは冷たい目を向ける。
「呪い? だとしたら、何です? まさか、彼らが犯した罪は、これよりも軽いと仰有られるのですか?」
「それは……」
真正面から言われて、アイリスは何も言い返せない。
偽王と偽巫女長が犯した罪は、遥かに重い。鬼人たちにしたら、これでも軽いと思うのかもしれない。少なくとも、重いとは思わないだろう。
「……そろそろ、本題に入ろうか」
これ以上は平行線だ。所詮、アイリスは竜人。この国の民じゃない。リードは切りがいいところで、話を打ち切った。
それを合図に、リックは偽巫女長の猿轡を外した。
大変、お待たせしましたm(__)m
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
後一話、主人公はお休みです。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




