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第十話 足止め

 後半、ジェイ目線です。



 リードの行動も早かったが、ジェイの行動も早かった。


 ジェイは一旦私たちをギルドに残して、グリーンメドウのギルド本部に戻った。


 アラン=ロックフォードのハンター資格を凍結するためだ。


 そしてそれを、各大陸のハンターギルドに一斉に送付した。使ったのは、最高級のキャリーバードだ。どんなに遠くても、五日以内には、全大陸に指令書が行き渡るだろう。


 勿論、凍結と一緒に、出頭命令も添付している。素直に出頭するかは、正直分かんないけどね。


 現時点で、目撃者等からアラン単独の犯行の可能性が高いのは確かだ。だからといって、正式に罪が確定された訳ではないのも事実。故に、ジェイは凍結と出頭命令に敢えてとどめていた。





 直ぐに蒼の大陸に向かう筈が、とんだ足止めに、シュリナとヒスイの機嫌が非常に悪い。だからって、ロイとミカに当たらなくてもさ……。


「ムツキ。いつまで、ゲンブを撫でている。ゲンブ、我と代われ」


 今度はクロガネ(ゲンブ)に矛先が向いてきた。


 ヒスイは私の太股に凭れながら、ロイから取り上げた戦利品をムシャムシャと頬張っている。


「スザクは、常にムツキと共にいるじゃないか。私が少しばかり独占してもバチは当たらんだろうが」


 呆れながらも、その場所を退く気が毛頭ないクロガネ。欠伸をしながら、私のマッサージを受けている。勿論、浄化魔法は唱えてある。シュリナとヒスイと違い、若干小さいが、鱗の艶も張り具合も申し分ない。


 巫女長も大分回復していた。顔色も良い。しかし、全身にはまだうっすらとただれた傷痕が残っている。消せたらいいんだけど……普通の回復魔法では、この傷痕は消せない。欠損した部位を回復するまでレベルは上がってるのにね……。


 この傷痕は、呪いの一種だ。


 私の中に少し残っている膿、淀みと同じ様なもの。


 だから、回復魔法じゃ消えない。何度も掛けてる浄化魔法で、ようやくここまで消えた。今は微熱もなくなったと聞いて、ホッと胸を撫で下ろす。


「……皆様の御尽力のおかげで、この地も人が住めるようになりました」


 嬉しい事なのに、儚げな笑みを浮かべる巫女長。


 納得し、割り切っていても、やはりその胸の内には、彼らとの楽しい思い出がある。その思い出は消える事はない。それが、巫女長の笑みをより儚げなものにしていた。この笑みを見る度に、偽巫女長と偽王に怒りが沸く。当然だよね。


 眷族がほぼいなくなった地に、巫女長とクロガネだけ。実体化しない妖精や精霊はいるが、生活するには困る有り様だった。そこで手を貸したのが、シュリナとヒスイだった。


 シュリナとヒスイの眷族の中から希望者を募り、この地に移住させたのだ。


 だから、見知った顔もいた。慣れない環境に始めは戸惑い気味だったけど、今は皆楽しくやっている。時にはちょっとしたいざこざもあるそうだが、そこは巫女長がきちんと取り成すだろう。だって……あの苦しみの中、自分を見失わずに毅然とした態度を取り続けた人だよ。大丈夫に決まってるじゃない。


「フン。我は何もしておらん」

「俺も~」


 口は素直じゃないが、シュリナもヒスイも満更じゃないようだ。その様子を見て、思わず私は感心する。


(さすが、巫女長。聖竜を手玉に取ってるわ~~)


 思わず、心の中で感嘆の声を上げてしまった。


「それはどういう意味だ!?」

「我を馬鹿にしてるのか?」

「俺たちが単純だって言いたいのか?」


 当然、その声は聖竜たちに聞こえていて。詰め寄って来た聖竜たちに、私は更にポツリと呟く。


「……単純っていうより、ある意味天の邪鬼かな」って。


 その後の展開は分かるよね。










 私が聖竜たちとじゃれあってる頃。


 グリーンメドウのギルド本部に来客者が訪れた。


「ジェイ!!!! 私の息子が資格停止ってどういう事なの!? きちんと説明しなさい!!!!」


 いきなり、ギルマス室のドアが乱暴に開け放たれた。まるで今にも殺しそうな勢いで、ジェイに詰め寄る。そろそろ乗り込んで来る頃合いだと思っていたジェイは、全く驚かない。


 ギルマス内で、王都アバタイトのギルドマスターの子煩悩は有名だった。


 竜人の子煩悩ぶりは普通とレベルが違う。平気で我が子のために、その身を笑いながら捧げる事が出来る。出産率が低いからかもしれないが、情がとても深く、とても重い種族だ。


 当然、殺気を放ちながら入って来た彼女は、部屋にいたジェイの胸ぐらを掴み上げた。女性なのに、180cmを有に越えるジェイと殆ど変わらない。


 掴まれたジェイはその手を掴み外させようとするが、力を僅かに抜いただけで、両手はジェイの胸ぐらを掴んだままだ。ジェイも無理に退けようとはしなかった。


「落ち着け、アリアス」


 一応そう言ったものの、まぁ無理だと、半ばジェイは確信していた。


「息子の一大事に落ち着ける母親がいるか!!!!」


「理由は書いてあった筈だが」


 怒髪天をついてるアリアスとは違い、ジェイは冷静さを失わない。


「奴隷を逃がしただけでか!?」


 その言い分に、ジェイは苦笑する。普段は誰よりも冷静なのに、息子の事になるとこれだ。非常に残念なものになる。


「犯罪奴隷でも資格停止はするぞ」と、思わず言い掛けそうになったが、さすがに、火に油を注ぐ事になるのが目に見えて明らかだったので止めた。


「俺はきちんと書いた筈だぞ。黒の大陸の奴隷を逃がしたってな」


「たから、それが「逃がしたのは、()()()()だ。黒の大陸を混沌の地に変えた偽王と偽巫女長だとしても、俺の判断が間違ってるとお前は言うのか?」


 今にも殺そうとしていたアリアスの目が、大きく揺れる。


 まだ、素直に話を聞く余裕が残っていて、ジェイは内心ホッと胸を撫で下ろした。


 出来れば、実力行使はしたくなかったからだ。まず間違いなく、建物が損壊する。運悪く巻き込まれて、怪我人が出る可能性もあった。 


「嘘でしょ…………」


 ショックを隠し切れないアリアスは、茫然と呟く。掴んでいた手が力なく放れる。


「嘘かどうかは、リードに直接聞けばいい。だが、これだけは言っとくぞ。もし、アランが永久奴隷を逃がした犯人と断定した場合、アリアス、所属しているギルマスとして責任をとってもらうぞ」


 その声はとても冷たく、アリアスの心に突き刺さった。




 

 

 参考までに。


【アリアス=ロックフォード】

 年齢不詳。種族、竜人。女性。

 蒼の大陸、王都アバタイト支部のギルマスを務めている。

 主な武器は槍。

 身体能力が高く。魔力も高い。万能型だが、肉弾戦の方を好む。

 ギルマスの中で一番の子煩悩。

 息子アランは脳筋。やたら、正義感が高いタイプ。


 最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m


 次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪

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