第九話 リスト
重たい空気が室内を覆う中、苦々しい顔をしたリードが乱暴に、「偽王と偽巫女長が消えた」と吐き捨てた。
「…………」
その台詞に皆無言になる。
王都とギルドの張り詰めた空気から、何か起きたと薄々感じていた。でもまさか、偽王と偽巫女長が消えるなんて予想もしていなかった。
そもそも、永久奴隷に堕ちた二人が、自分たちの力だけで姿を消す事が出来るだろうか? どう考えても、答えは否だ。
「…………いつ消えた? 二人で消えた訳ではなかろう」
シュリナも同じ考えのようだった。
「二日前に。赤竜様の推察通り、連れ出した者がいます」
厳しい表情のまま頷く。
次代の鬼王であるリードは、シュリナとヒスイの正体を知って以後、シュリナとヒスイに対して話し方を改めた。
「勿論、判明しているのだろうな」
シュリナは低い声でリードを問い質す。
否を認めない。どんな鈍感でも明らかにその含みを感じ取れる程、赤裸々だった。裏を返せば、それ程不愉快だって事だ。それはシュリナだけではない。この場にいる全員が不愉快に思っていた。
「はい。偽巫女長が客と会っている時に乗り込み、連れ出した者と、偽王と接触した者は同一人物のようです。目撃者の確認は既に完了しております」
さすがリードだ。もう犯人の特定がすんでるなんて。犯人の特定も大事だが、それよりも確認をとらなければならない事がある。
「怪我人はいなかったんですか?」
私の質問に、リードの表情が少し和らいだ。
「それは幸いにもいなかった。犯人は客に軽く当て身をくらわせただけだ」
不幸中の幸いか。取り合えず、怪我人がいなくて安心する。今、怪我をしている場合じゃないからね。
「……して、その罰当たりな人物は誰だ?」
シュリナは少し逸れ掛けた話を元に戻す。
リードの表情は一層暗くなる。
(もしかして、知ってる人?)
暗い表情のままリードは犯人の名前を告げた。
「蒼の大陸王都アバタイトで、ギルドマスターを務めている者の一人息子です。名前はアラン=ロックフォード」と。
(ギルマスの一人息子が、奴隷をかっ拐うなんてね~~。……ん? その名前……?)
「…………ギルマスの一人息子……アラン=ロックフォード……」
口の中でブツブツと呟く。
(最近、その名前をどこか見たような……)
「ムツキ、あの傍迷惑な皇女様の信者の一人よ」
「そう!! ロイとミカが書いてくれたリストの中にあった名前だよ!!」
ミカのおかげで思い出した。
リストを見た途端、ある意味感心した。まさか、ハンターまで信者として取り込んでいたなんてね~~。どこまで取り込んでるんだろ? って。
「傍迷惑な皇女様……?」
「あっ!? そうか、リードさんは知らないよね……」
という訳で、ざっとだけど、皇女様一行の事を説明した。
話が進むにつれ、段々表情が険しくなるリード。まぁ、常識を知ってる側としては、当然の反応だよね。
「……学院で、偽王とアランは級友だったって事か」
「親友だったみたいね。勿論、皇女様の取り巻きの中でも、親交が深い側の連中よ」
ミカが当時を思い出したのか、眉間に皺を寄せ深い溜め息を吐く。
私も溜め息を吐きたいよ。皇女様一行を避けるために黒の大陸に来たのにさ……まさか、間接的とはいえ、皇女様関係の事件に出くわすなんて。不運過ぎる。厄払いしようかな? って、この世界にそんな風習ないよね。
「……馬鹿者が奴隷に堕ちた親友とその妻を見て起こした犯行か、それとも、噂に聞いていて、計画的に起こした犯行かは、この際どうでもよい。……いいか、次代鬼王よ。馬鹿者が逃がしたのは、普通の犯罪奴隷ではない。多くの民を死に追いやり、我ら五聖竜が一柱、ゲンブを呪った者だと心に刻んでおけ。そして、その者を逃した者も、それ相当の罪を負わせよ。よいな」
つまり、シュリナの言葉を翻訳すれば、「絶対見付け出せ!! そして、怪我人がいないからといって、罪を減刑するのは許さん」と言い放ったのだ。
「勇王、鬼王。俺たちは見てるからな」
止めはヒスイだった。
私……? 勿論、口出さないよ。私の役目はクロガネの封印を解き、偽王と偽巫女長を断罪したところまでだと思ってる。それ以後は、そこに住む者の手に委ねるのが正しいって考えているからだ。ポーション等の援助はしても、表だってしていない。一応、ゼロを仲介しているしね。
それにしても、リードとジェイの顔色が非常に悪い。
(冷や汗まではかいてないけど、真っ青だよ。まぁ当然か……聖竜の二柱に脅されたんだからね。威圧感半端ないし。だけどね……)
「……シュリナ、ヒスイ。そこまでにしとこうよ。……で、偽王と偽巫女長とアランの居場所は推測出来てるの?」
あまりにも可哀想なので助け船を出す。
「国境には手の者を配置してるが、それらしき人はまだ通っていない」
通常の移動手段なら二日で国境に着くことは、まず不可能だ。なのに、リードが警戒しているって事は……。
「アランは転移魔法が使えるんですね」
「……ああ。使えるよ。彼は魔法が得意だった」
ずっと空気に徹していたロイが代わりに答える。見上げると、二人とも若干顔色が悪い。平気なのは、サス君とココぐらいだ。
「ロイ、ミカ、顔色悪いよ。外の空気吸ってくる?」
ロイとミカは直接関係ないからね。シュリナとヒスイは黙ってるが、威圧感を隠そうとはしていないし。近くにいるロイとミカは、諸に被ってる。結構辛いと思う。私も大概キツイしね。
「いや、大丈夫。ムツキ、ありがとう」
「私も大丈夫。ムツキは優しいね」
引き吊った笑みを浮かべながら、ロイとミカは断る。
「全く、軟弱な奴らだな」
ヒスイが呆れながら突っ込む。
「ヒスイの言う通りだな」
矛先がロイとミカに向く。それはあまりにも可哀想なので、苦笑しながら話を剃らせた。
「だとしたら、他の大陸に逃げられた可能性が高いわけですね」
いつまでも、黒の大陸にいる方がおかしい。その日のうちに、他の大陸に飛んだ筈だ。私ならそうする。としたら。
(彼らが向かう行き先は、皇女様の所ね)
目的は、偽王と偽巫女長の永久奴隷の解放ってところかな。出来る筈ないけどね。でも、彼らは信じている。皇女様が聖女だとーー。
「何を言ってる、ムツキ。アランは他の大陸に逃げれるが、偽王と偽巫女長は他の大陸には行けぬぞ」
「えっ!? 何で?」
「何でって……。ムツキ、お前がそう言ったからだぞ」
シュリナが呆れながら教えてくれる。が、見当も付かない。いつ言った!?
「確かに宣言したぜ。永久奴隷に堕とした時に」
「永久奴隷に堕とした時……?」
(そんな宣言したっけ?)
「貴方たちのせいで死んでいった者の命を、その身で一生涯償い続けなさい。この地でね。ムツキ、お前は奴らにそう宣言しただろ」
「あっ!!」
確かに言いました。ってか、一音一句覚えてるの!?
「つまり、そういう事だ」
やっと理解出来た。
「永久奴隷の紋印に場所を刻み込んだって事ね」
それからの行動は早かった。
リードは直ぐに副ギルマスとリック、そしてクロードを呼び出し指示した。
食べ物も、安心して身を置ける場所も乏しい黒の大陸で、いつまで偽王と偽巫女長は居られるだろうか?
死なない体と狂えない精神のおかげで、無事に見付かるとは思うが……とてつもない、地獄を味わう事は間違いないだろう。
その地獄は、王都に戻っても続くのだ。以前にましてーー。
自業自得とはいえ、やはり後味の悪いものでしかなかった。
そんな思いをしている私の後ろで、こんな会話が交わされていたなんて知らなかった。勿論、念話でだ。
『睦月さんなら、偽王と偽巫女長の居場所分かるんじゃあ……』(サスケ)
『サスケ。それは口に出してはならぬ』(シュリナ)
『そうだ。絶対、出すんじゃねーぞ』(ヒスイ)
『どうしてです?』(サスケ)
『決まっておるだろ? これ以上、あ奴らと関わるのは不愉快だ。勿論、ムツキもな』(シュリナ)
『…………』(サスケ)
『そうだよ、サスケ。そもそも、偽王と偽巫女長を逃がした責任はリードたちにあるんだよ。彼らが最後まで責任とらなきゃいけないんじゃない?』(ココ)
『ココの言う通りだぞ』(ヒスイ)
『……そうですね』(サスケ)
取り合えず、睦月が気付くまで黙っている事に決まったのだった。
お待たせしましたm(__)m
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