第十一話 刻限
魔物も動物も人間も、たいして変わんないと……今回つくづく思ったよ。
危険がさし迫ってきたら、建物に隠れてやり過ごすか、それとも最大の防御に打って出るか、その選択が同じなんだよね。
逃げるって手もあるけど、逃げられないって本能で分かってるから、二つの選択しかない。そのどちらかを選ぶ。知恵があるなら、ハンターが来ただけで逃げてるけどね。防衛本能が働いて。そこは人間と同じじゃないか。
種族が違っても、どこでにも存在するのが、強者と弱者。そこは絶対変わらない。
まぁ考えてみれば、人間を主食にしてるから討伐されるだけで、この世界に棲む生き物に代わりはないんだよね。
人間を主食にしなかったら、共存の可能性もあったかもしれない。すっごく難しいと思うけど。人は、自分と違うものを排除する生き物だからね。昔の私のように。
クエストをこなしながら、ふと……そんな考えが頭を過った。
私の考えが異端だって理解してる。だから、他のハンターたちに言うつもりはないよ。そんな事を口にしたら、アウトだって分かってるからね。
実際、魔物に大切な人を殺された人も大勢いるし、マガド村のように、住む場所を追われた人もいる。彼らの心情を思うと、絶対言える訳ないよ。もし口にしたら、仇確定に決まってる。
でも、魔物の咆哮と断絶魔の叫びを聞く度に、どうしても考えてしまうんだ。
複雑な気持ちを抱いたまま、それでも私はハンターとして魔物を討伐していく。出来るだけ苦しまないように。
サス君の提案で、残り3分の2を一気にしてしまう事にした。
副団長さんと騎士さんたちの境に土壁を作る。村の出入口には魔石で結界を張ってるから大丈夫だ。
土壁は半分だけで大丈夫そう。私が派手に壊してるからね。背後はサス君に任せている。戦闘要員じゃないココは、私の肩の上に器用に乗り欠伸をしていた。緊張感ないね……。呆れながらも、可愛いので許す。
結構な数の土壁を作り、建物の破壊と魔物の討伐。
結構魔力を消費してると思ったけど、意外に消費してなかった。多く減ってたら、一回本格的に休憩をとろうかなって、話してた
【855/1120】
うん。まだ全然大丈夫。戦闘(サス君との訓練)の時は魔力の消費が速かったのに、非戦闘の時は戦闘時の半分ぐらいですんでる。不思議だよね。そういうものかな。よく分かんないけど、良いとしとこ。
で、取り合えず減ってなかったので、このままクエストを続ける事にした。
頑張りましたよ。
コツコツと。派手な破壊音をBGMにしながらね。
割り振られた場所の討伐が終わったのは、陽が陰りだした頃だった。
「終わったか?」
「これはまた……派手に壊したね」
とうに討伐を終えたギルマスと副団長さんが声を掛けてきた。
「お疲れ様です。ギルマス、イエール副団長。なんとか、時間内に終わりました。その様子じゃ、ハイオークは出なかったんですね」
「残念たがな」
「ほんと、残念だったよ」
肩を落とすギルマスと副団長さん。
いやいや、私は会わなくてラッキーだったけど。さすがというか……。最悪捕まれば、私は妊娠させられるし、ギルマスたちは食料だよ。そんだけ、自分に自信があるって事だよね。まぁ、ギルマスはゴールドだし、副団長さんもシルバーだ。私と違って実力で獲った人たちだから当然か。
「他の騎士さんたちは?」
「そういえば、まだ戻って来てないな」
ギルマスが答える。
「一番最後があいつらか……フフ」
副団長、その笑みは何ですか。すっごく、黒くて怖いです。副団長と一緒に行動していた騎士さんが少し震えてますよ。まだクエスト中の騎士さんたちに、心からの合掌を。
「……にしても、遅すぎないか?」
ギルマスが言い出すと、副団長さんが「確かに」と答えた。
今回のクエストは急を要したが、クエスト自体は然程難しくないものだった。
ましてや、今回の討伐参加者は私を除いて、何度もクエストをこなしてきた強者たちだ。そんな彼らが、これ程時間が掛かるとは。
何か予期せぬ事が起きたのかーー。
それとも……
「ハイオークの匂いはしないが」
ギルマスと副団長の疑念に答えるように、サス君が答えた。サス君は私以外の人物に対しては、いつもこんな話し方だ。
「気配も感じないね」
サス君の言葉を後押しするように、ココが告げる。
(ここまで派手にやったんだ、知能が高いハイオークが出て来るとは考えにくいよね。いくら子孫を残したくてもさ。でも……さすがに遅いよね)
陰りだした陽は完全に暮れた。
クエストが完了しなくても、戻って来なければならない。なのに、緑担当の騎士さんたちが戻って来ない。
さすがに、ギルマスも副団長さんも心配の表情を見せ始めた。
戻って来ないのは、何かがあったからだ。
その何かが問題だった。
一応最悪の事態が起きた時に知らせる、通信手段は持っている筈だ。私も渡されている。それは筒に紐が付いた物で、空に向け紐を強く引っ張ると、色が付いた狼煙が上がる仕組みだ。
今回ギルマスは、ハイオークが出た時も打ち上げるよう指示していた。
しかし、狼煙は上がっていない。
そして、サス君もココもハイオークの気配はしないと断言していた。
また、この地域はランクが高い魔物は棲息していない。ハイオークは別として。
なのに、戦闘に熟知している騎士さんたちは戻って来ない。
じわじわと不安が押し寄せる中、誰も「大丈夫」とは発しない。それが気休めでも。皆、無責任な言葉だと分かっていたからだ。
「ムツキ、まだ行けるか?」
ギルマスが厳しい顔で尋ねる。隣には、副団長。私も自然と厳しい表情になった。小さく頷くと「行けます」と答える。当然だ。迷いはしない。
いつの間にか、サス君も戦闘モードに戻っていた。ココは軽くジャンプをすると、上手にサス君の背中に着地する。こっちも行く気満々だ。頼もしい仲間に、私は厳しい表情を緩めた。
そんな私たちを、ギルマスと副団長は温かい目で見ている。
休憩らしい休憩をとらずに、私たちはギルマスと副団長と共に再度マドガ村に入った。他のハンターたちは待機だ。
陽は完全に暮れている。
これからの時間は、彼らの時間帯だ。
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
すいませんm(__)m
【初クエスト編】もう少し続きます( ̄▽ ̄;)
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪
 




