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第八話 王都の空気



 王都前までやって来た。


 ジェイの希望通り王都の周辺を見て回る。


 相変わらず乾いた大地が広がっていだが、太陽が昇るようになって、民の顔は以前より一層明るくなっていた。


 でも、人の出入りはまだまだ限られている。復興の機材と職人、商人たちとハンターたちが殆どだ。鬼人の出入りはほぼない。生き残った殆どの人が王都に集まっているせいだ。


 一番に着手した城門と城壁の修復が済み、魔物の侵入は防げそうだ。結界も調べた限り異常ないように見える。


「……取り合えず、魔物の侵入は防げそうだな」


 ジェイはホッとした様子で呟く。


「そうだね。これなら、魔物の侵入は防げるな」


「まず、そこが一番よね」


 ロイとミカも気になっていたようだ。


「皆頑張ってるからね」


 自分が誉められた訳じゃないのに、何故か自分が誉められたような気分になる。


 本当に皆頑張っていたよ。そして今も、頑張り続けている。


 城門を潜り王都内に入った。


 王都内の復興もキューピッチに進んでいた。


 今が八月の始めだから、遅くて、後三か月程で雪が降ってくるからだ。秋が殆どなくいきなり冬が訪れる。春が訪れるのは、六か月先だ。


 それまで、黒の大陸は雪と氷が支配する世界になる。


 ほんと、とても厳しい土地柄だとつくづく思う。私なら絶対耐えれない。


 そんな厳しい生活環境の中で、彼らは生きている。生きていかなければならない。


 壊すのは簡単だ。でも……造るのは、時間と労力が必要になる。鬼人たちは、それを身をもって知った筈だ。噛み締めた筈だ。今も……。


 王都を訪れる度に、いつもそんな思いが頭を過る。


(ジェイも、ロイとミカも同じかな? ううん。たぶん重みが全然違うね。だって、実際に国を背負ってるんだから)


 それとなくジェイの顔を伺い見ても、全く分からなかった。ロイとミカは目が合った途端、ニコッと笑う。これまた分からなかった。


 そんな事を考えながら、王都の中央に向かう。王都の中央に近い場所にハンターギルドがあるからだ。


 復興の進み具合は別として。以前来た時とあまり変わらない光景。その筈だ。だけど……。


(…………何?)


 何か違和感を感じる。


 光景はあまり変わらないのに。肌がピリピリする。静電気に近いかな。感覚的に。実際は痛くないけど。


 中央に進むにつれ、違和感が強くなる。


 不意に、ジェイの足が止まった。自然と私たちの足も止まる。


 隣に立つジェイを見上げると、その表情は固かった。ロイとミカもだ。尻尾が少し膨らんでいる。サス君とココの毛も若干逆立っていた。シュリナとヒスイは無言のままだ。ミレイも表情が固い。


 皆、私と同様、何かしらの異変を感じていたようだ。


「……いつも、こんな感じなのか?」


 ジェイが固い声で訊いてきた。


「ううん。全然違う。いつもは、こんなにピリピリしていません」


 和気藹々(わきあいあい)とまではいかなくても、空気はもっと和んでいた。


「そうか……してないんだな」


 再度確認する。


「はい」


「……取り合えず、ギルドに行ってからだな」


 ポツリとジェイは呟き歩き出した。その歩調は少し速かった。






 ギルド内は特にピーンと空気が張り詰めていた。


 全員の顔が厳しくなった。やっぱり何か問題が起きた事を、全員確信する。


 まず先陣を切ったのはジェイだった。


「リードはいるか?」


 受付や係員に挨拶せずに、いきなり要点を告げる。


 告げられた係員たちは、ギルマスを呼び捨てにするハンターに不快感を示した。


(もしかして、リードの顔を知らないの?)


 一瞬ならまだしも、今も不快感を示している。しかし、後ろにいた私を確認すると、係員の眉間の皺がなくなった。


「ギルマスなら、二階のギルマス室におります」


 意外にもそう答えたのは、係員の中で一番若手の少年だった。


 ジェイは軽く頷くと、頭を下げている少年の前を通り二階へと上がる。


「なっ!! 何勝手な事をしてる!!」


 反対に、少年より十歳以上の青年は少年を叱り付けた。そして、後を追うように二階へ上がろうとする。


 勿論、ジェイがハンターの総責任者である事を恐らく知っている少年は、体を張って止めようと立ち塞がる。それに腹をたてた青年は少年を殴ろうとした。


 それを、ロイが腕を掴み阻んだ。私は青年の前に立つ。


「ムツキ様!?」


 係員が苦痛に顔を歪めながら、私を咎める。


 本当に知らないようだ。思わず、溜め息が漏れた。


「貴方はギルドに就職したばかりなの?」


「俺を馬鹿にするんですかっ!!」


 青年はくって掛かる。もはや、苦笑しか浮かばない。


 青年越しに見渡せば、真っ青な顔をした係員は半分ぐらいだ。残りの半分は、少年と私たちに厳しい視線を向けている。ハンターたちは冷めたと呆れた目で、青年を見ていた。まぁ、そうなるよね。


「あんまり騒がない方がいいよ。その分、ギルドの質を下げる事になるからね」


 腕を締め付けながら、ロイは楽しそうに忠告する。


「今、二階に上がった人誰か知ってる? 貴方は知ってたみたいね」


 前半は青年に、後半は少年に問い掛ける。


「はい」


 少年は一言そう答える。


 私が庇う人だ。それなりの地位があると思ったのか、青年は少し焦り始めた。


 そろそろ種明かしをしようかと口を開き掛けた時だ。私を呼ぶ声がした。


「「「ムツキ様!!」」」


 リックとクロードはまだ分かる。でも何で弟君が!? 調教が順調に進んでるって事? もしそうなら、こわっ!


「どうかしましたか?」


 リックが眉をしかめ尋ねる。


 色んな意味で訊きたいのはこっちだ。だが、目の前のこの馬鹿の対処が先か。


「今、()()()()()()()のギルマスがリードと会ってる」 


 これで分からなかったら、完全にアウトだからね。


 青年と厳しい視線を向けてきた係員の体がビクッと強張る。ロイは青年の腕を放した。


「申し訳ありません。厳しくちょ……指導しときます」


(ちょ……? もしかして、調教って言い掛けた?)


 状況を瞬時に理解したクロードが、ニッコリと微笑みながら青年の腕を掴み他の係員に引き渡す。青年は力なく奥へと姿を消した。


 リックが少年に視線を移す。


「すみません。仕事に戻ります」


 少年は軽く私たちに頭を下げてから持ち場に戻った。


「リック、後であの子を誉めといてね」


 分かっていた事を示唆する。


「分かりました」


 笑顔が爽やかだ。反対に、クロードの笑みは黒いね。あっでも、大概リックも黒いんだけどね。


「……ムツキ、これが例の……?」

「ふ~ん」


 背後の二人が低めな声で呟く。馬鹿にしたような口調じゃない。何かを確認するような言い方だ。


 この二人も大概腹黒い。敵は躊躇ちゅうちょなく、笑いながら地獄に落とすタイプ。それも、玩具のように遊んでからね。猫科だからかな。つくづく敵に回したくないタイプだ。


 たがら、余り踏み込む事は止めよう。藪か蛇は出したくない。


「やけにピリピリしてたみたいだけど、何かあったの?」


 という訳で、話を切り替えた。ズバリ訊いてみる。元々、訊こうと思ってた事だったしね。


 途端に表情が険しくなるリックとクロード。そして、弟君。


(やっぱり、何かあったんだね)


 疑問が確信へと変わった。 


「その事を含め、ギルマス室でお話させて頂きます」


 途中まで階段を下りて来た副ギルマスが、私たちを迎えに来た。


 促されるように、何度目かのギルマス室へ。


 険しくて、難しい表情をしたギルマス二人が、無言のまま僅かに殺気を放ちながら空を睨み付けている。


 この二人が、これ程までに怒りを見せたのを見たことがなかった。


 思わず、喉が鳴る。


「…………何があったんですか?」


 勇気を出して尋ねた私に、リードは苦々しい表情で乱暴に言い放つ。


「偽王と偽巫女長が消えた」とーー。


 

 



 最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m


 リックとクロード、弟君のお話は【束の間の休息(2)】で。


 偽王と偽巫女長は睦月によって、永久奴隷に墜ちています。


 それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪

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