第三話 勘違い
傍迷惑な皇女たちから逃げ出した先は、一見民家のようなお店の前だった。
早速、ドアを開けて店に入る。
客はいないようだ。店内は思いの外薄暗い。
「デンさんいるーー?」
店内で騒がれる事を一番に嫌うのを知ってる。だけど、大声でデンの名前を呼んだ。躊躇ってる場合じゃない。
仕事の邪魔をしたらいけないって重々承知している。だけど、そうは言ってられない。今はまだいいけど、いつあの皇女たちが、ここにやって来るか分からないからだ。
ジュンさんに迷惑を掛けた時点で、皇女たちは私の中で敵認定している。
さすがに皇女様でも、私がグリーンメドウに来た理由を調べるまで時間が掛かるだろう。といっても、正直、彼女らがここを突き止めるのに、以て一日か二日が無難かなと思う。
それまでに、デンの作業が終わる可能性は低い。
だから、出来れば別な所に作業場を移してもらいたい。でもそれは、限りなく不可能に近いだろう。だとしたら、結界を張って直接奴等を食い止めるしかないよね。
(折角の休暇が、あいつらのせいで最悪なもんになったよ!! マジ、ムカつく!! ワイバーン退治の方が、まだマシよ!! チッ)
胸の内で悪態を吐きまくる。
「ムツキ、口が悪いぞ」
途中まで黙って聞いていたシュリナに注意された。
「悪くもなるわよ!! ったく!! ……で、デンさんいないのかな?」
毒付きながら店内を見渡す。店内は薄暗い。私たち以外に人の気配が一切ない。いつもなら、大声を上げて直ぐに怒鳴り声が返って来るのに返って来ない。
「留守なのかな?」
(帰って来るまで待つしかないか……)
「もしかしたら、作業場に籠ってるんじゃないかな?」
デンの事を古くから知っているココが答える。
「そうだよね。デンさんは、根っからの職人さんだもんね」
デンさんなら有り得る。わさと居留守を使ってる可能性も大だね。
「店を開けっぱなしにしてか?」
「そっかぁ~~ヒスイはデンさんに会った事ないんだよね。デンさんなら十分有り得るよ」
隣でココが頷いている。
「…………ムツキ、ココ。お前たちがワシをどう思ってるか、よ~~く分かったぜ」
超~~不機嫌なデンの登場に、ビクッと身をすくませる私とココ。他の皆はやけに静かだ。
居たの? 全然気付かなかったよ。
「あっ!! デンさん久し振り」
ニコッと愛想を振り撒きながら挨拶する。
「久し振りじゃねーぞ!!!! 約束の日まで、まだ日があるだろーが!! 何しに来やがった!!!!」
真っ赤な顔をして怒鳴り散らす。やっぱり、超怒ってる。それでも、出て来てくれた事に感謝。
「本当にすみません!! 作業の邪魔をしてしまって。でもどうしても、デンさんにお話しなければならない事があって……」
「何だ!?」
怒りながらも聞いてくれる。
「実は……傍迷惑な人に追い掛けられてて。うみねこ亭まで押し掛けて来たから……もしかしたら、ここまで追い掛けて来るかもしれないって思って……」
追い掛けて来た理由も、誰かも、さすがに口には出来ない。だからどうしても、曖昧な説明しか出来ない。
「はぁ~!? 何じゃそれは!? ……ムツキ、誰かに惚れられたか?」
惚れられた!? あまりにも、明後日な方向の答えに私は絶句する。それを見て、デンさんは一人納得したように頷く。完全な誤解だ。それより、どうしてそんな答えになった!?
(いやいや、違うから!! 肯定してないから!!)
反射的に訂正しようとした私に、ミレイ以外のパーティーの皆が念話で止めてきた。
『訂正するな』
『そのまま、勘違いさせとけ』
『そうだよ、ムツキ』
『複雑ですが、この場合は仕方ありません』
次々とシュリナを筆頭に指示を出してくる。
「……女性が恋愛対象って、マジあり得ないから」
同性同士の恋愛が悪いとは思わないけど、私の中でそれは全くない。だから、声を大にして言いたい。これだけは否定させて。私は健全な異性交流を望む!!
デンはチラリと私の方を見る。だけど、私じゃなくて違う人を見ているような気がした。
「…………嬢ちゃんは、ほんとに罪作りだな……」
少しの間のあと、深い溜め息を吐きながら、デンは染々と呟く。
(……デンさんが抱く、私のイメージって……そこそこ酷くない?)
少なくとも、十四歳の子供に抱くイメージじゃないよね。
「……デンさん、私、まだ十四だから」
一応、言っておこう。子供だって。普通、十四の子供に、恋愛の駆け引きや相手を翻弄する魅力なんてあるわけないでしょ。
しかし、デンさんの反応は予想もしない「それがどうした?」だった。
「どうしたって……」
口の中で呟く。そう問われたら、何も言い返せない。
デンさんの中じゃ、十四の子供が恋愛方面で、相手を翻弄する事が出来るようだ。美少年や美少女ならまだしも。でも実際にいたら、末恐ろしい十四歳だよね。実際の私は、恋愛のレの文字も知らないのに。
『……なんかさぁ……完全に私が悪役になってない?』
そんな私が完全な悪役だ。口に出来ないから、念話で文句を垂れる。
『まぁ、まぁ』
『ここはグッと堪えて下さい』
ココとサス君は私を宥める。反対にシュリナとヒスイは。
『ふむ。これも一つの有名税ってところか』
『まぁ、それだけ、モテるって事でいいじゃねーか』
物凄く軽かった。
(実際モテないのに、それって虚しいだけだよね)
『全く、シュリナもヒスイも他人事だと思って』
文句を言っても仕方ない。全然納得いかなくても、ここは折れるしかないのだ。誤解された事は私にとって好都合なのだから。
(分かってるけどさ……あーー釈然としないよ)
そもそも、私がこんな勘違いされなきゃいけないのは、白の大陸の王族の身勝手さが悪いんだ。絶対、逃げ切ってやる!! 俄然とやる気になってきた。
「フフフ」
自然と笑みが浮かぶ。
「…………ムツキ、大丈夫か?」
急に笑い出した私を訝しげに見上げるデン。
(しまった!! 笑い声が漏れてたよ)
慌てて口元を引き締める。
「大丈夫」
出来る限り、普通通りに答える。
「ならいいが……それから、ワシの事は心配しなくてもいいぞ。この店は簡単に来れないからな。ココは知ってるだろ? このお店は攪乱魔法が掛かってるからな。一定のルートを辿らないと着かない仕組みだぞ」
(一定のルート? ああだからか、あんな細い道と入り組んだ道を通って来た訳ね)
納得出来た。ってか、ココ、一言もそんな事言ってないよね。ココに視線を向けると、小さくココは、テヘっと笑った。
「それに、そもそもムツキが開けたドアは、魔法で鍵を閉めてた筈だぞ。全く、それを無効化するとは……規格外だな」
軽く溜め息を吐くと、苦笑しながら言った。
「鍵掛かってたの?」
「当たり前だろ。自分の子供が眠ってる場所を、無防備に開けっぱなし出来る奴がいるか?」
心底呆れ顔をするデン。
「確かに、ごもっともな意見です。すみませんでした」
考えてみればそうだ。私は素直に軽く頭を下げた。
取り合えず、デンさんは大丈夫そうだ。まずは、ひと安心。
「で、嬢ちゃんたちは何処に身を隠すつもりだ?」
「そうだよね。……候補地は色々あるんだけど、無難なのは、洞窟のダンジョン辺りかなぁって考えてるんだけど」
「そうだな。それが無難だな」
でしょ。まぁ、あそこなら、早々に見付からないと思うしね。それよりも、自分の足で20Fまで来れるかどうか。
「じゃ、作業の邪魔をしてごめんね」
「おう!!」
同時に、転移魔法を唱える。
勿論行き先は〈洞窟のダンジョン〉。
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




