再出発
今年最後の投稿ですm(__)m
俺は目の前で繰り広げられている光景を、瞬きもせずに、ただ……唖然と眺めているしか出来なかった。
腰を抜かさなかっただけ、まだましだ。後、一メートル、自分側にワイバーンの首や胴体が倒れてきたなら、間違いなく俺は、腰を抜かして醜態をさらしていただろうな。
そんな新米の俺が、魔物討伐の最前線にいるのには訳がある。
馬鹿なことに、ゴールドクラスに喧嘩を吹っ掛けたからだ。それも二度も。
学習能力がないって言われても仕方ない。俺自身もそう思う。兄貴と親父に会ったら、間違いなくまた殴られるだろうな。謹慎ですまないかもしれない。
勝てるなんて、始めから到底思っていなかった。さすがに、そこまで馬鹿じゃない。
ただ……一太刀でも当てる事が出来たのなら、かする事さえ出来れば、俺は……少し救われるような気がしたんだ。
家族の中で一番才能の才の字もない、努力だけでこの場に立っている自分が報われる。そんなの錯覚だと分かっていた。が、その衝動に堪えれなかった。自分勝手な思いだ。巻き込まれたムツキには、迷惑な話だと思う。
その酬いは直ぐに受けた。現に今、救われるところか、進行形で地獄に落とされている。
目の前に山積みされるワイバーンの死体を呆然と見ながら、もう自嘲気味な笑みしか浮かばない。
一見、最も危ない場所で、最も安全に護られ(結界&防御魔法)ながら。
囮といっても、立っているだけ。俺は何もしていない。
実際に仕留めているのは、俺以外の四人だ。
中でも、ギルマスはハンター界で名前を知らない者はいない超有名人だ。最強のテイマー。彼が従魔にしている魔物は、単独でSランクに近い。それらを従魔にし、単独でもその強さは広く知られている。同時に、指導者としても有名だった。
どうやら、四人は知り合いみたいだ。先日行われた、魔物討伐で知り合ったのか。
にしても、組んで間もないのに連携がとれていた。お互いに声を掛け合う事なく、それぞれが自分の仕事をする。流れるような動き。
それはまるで、呼吸をするかのようだ。
俺とは全く違う。あんな流れるような動きは、俺には絶対出来ない。次元そのものが違った。
自嘲気味な笑みが消える。正直言えば、この時俺は感動していたんだ。彼らがとても綺麗だと。そして同時に、こんな場面が近くで見られる自分は、とても幸せなんだと。
時間にして五分程。
そう……僅か五分程で全てが終わった。
ワイバーン五頭全ての首が胴体から離れていた。鋭利な刃物で一気に切り落とされたかのように、断面図が波打っていなかった。
全てのワイバーンの首を切り落としたのは、ムツキ=チバという少女だ。何をかくそう、彼女は難クエストを幾つもこなし、世界に二十人程しかいないゴールドクラスのハンターになった。
僅か十四才で最高位まで上り詰めた天才。
いや、違う。天才の枠には入りきらない、そう化け物だ。
彼女は報酬の代わりに、ワイバーンの肉の塊を貰うと、早々にグリーンメドウに戻った。
残ったのは、愚か者の俺だけ。
「さてと……君はこれから一か月間、ここで修行をしてもらう」
そう切り出したのはギルマスだった。
「こちらも暇ではないので、拒否してもらっても構いませんよ。勿論、逃げ出しても」
迷惑そうに、副ギルマスが言い放つ。
普段の俺なら、憤って睨み付けるだろう。でも不思議と、今はそんな気持ちにはならなかった。言われて当然だと思った。
「……少しは、学習出来たようですね」
「はい」
「……私は、君のお兄さんたちを知っています。まぁ、あれを見れば、君の置かれた状況や、ムツキ様に無謀にも挑んだ理由は想像出来ます。彼らは色々な意味で天才ですからね」
「…………」
何も言えなかった。事実だから。
副ギルマスの言う通り、兄たち全員、ハンターとして名を轟かせている。
特に最強と言われていた長兄は、騎士を辞め、夢であった学者の道を歩んでいるが、それでも未だに長兄を慕う者は多い。次兄も長兄までとはいかないが、今は騎士になり副団長まで出世した。その下の兄二人はシルバーになり、ハンターとして着実に道を歩んでいる。
「君は凡人だ。兄たちのような才能はない」
副ギルマスに言われなくても、それは俺自身がよく知っている。
「……でも、一つだけ、君は兄たちにひけをとらない才能がある。それが何か分かるか?」
ギルマスが訊いてきた。
(俺に才能……?)
あるわけない。俺は首を軽く横に振る。
「それは、君の手がよく知っている」
優しい声だった。
(俺の手……?)
俺は自分の手を見詰める。何にもない、只の平凡などこにでもある男の手だ。
「君が彼らに負けないのは、努力し続ける力だ。何を言われようとも、どんな目で見られようとも、君は決して剣を置かなかった。その手が物語っている。確かに、君にはムツキや兄たちのような才能はない。だが、弱いわけじゃない。その事だけは忘れるな」
ギルマスの言葉が俺の心に染み込んでいく。
兄上たちを知っている人で、そんな事言われたのは初めてだった。見下される事はあっても、認めてもらう事は今までなかった。
涙が頬を伝う。掌にボトボトと落ちる。
「……一か月で、君にはレベル20までいってもらう。必死で着いて来いよ。ここは、決して甘くないからな」
ギルマスはニヤリと笑うと、俺をリックとクロードに引き渡した。
「彼はやり遂げますかね?」
出て行ったドアを見詰めながら、副ギルマスはリードに尋ねる。その声の様子では、半々とみているようだ。
「おそらく、やり遂げるだろうな。まぁ、もし、やり遂げなかったとしても、それは俺たちの預かり知らぬ所だろ」
「確かにそうですね。で、貴方はいつ心を決めるのです?」
副ギルマスは冷めた目でリードを見詰める。
リードは副ギルマスが何を言っているのか、勿論理解していた。
「さぁな」
誤魔化すつもりはないが、今はまだ心が決まっていない。これ以上触れるな、口にしなくてもその目が語っていた。
副ギルマスは肩を竦めると部屋を出て行く。
一人残ったリードは、深い溜め息を吐いた。
束の間の休息編(2)【黒の大陸編】完結
この一年、皆様の応援のおかげで続けてこれましたm(__)m
心から感謝とお礼の気持ちを込めて。
本当にありがとうございましたm(__)m
来年も頑張りますので、宜しくお願い致しますm(__)m
皆様にとって、良い一年でありますように(〃⌒ー⌒〃)ゞ




