第十話 作戦開始
「……取り合えず、入口から中心に向かって追い込む?」
見取り図を見ながら、ココとサス君に尋ねる。一応、無難な案だ。
「それだと、魔物を取り逃がすんじゃない?」
「やっぱり、ココもそう思う?」
ココの意見に賛成。
それ程大きくない村だけど、それでも任された場所は思っていたより広く感じた。そりゃあ、そうだよね。村の約4分の1だし。村としては小さくても、それなりの人数が生活していたんだ。広くて当たり前だよね。
だけど現実、これだけの広さだ。
手で酌んだ水のように、魔物はすり抜けていくに決まってる。ちゃんと作戦を組んで行動しないと、いたちごっこになるのが目に見えている。最悪、騎士さんたちの所に逃げ込む可能性も大いに考えられる。それは、出来れば避けたい。
「何か良い考えある?」
この中で一番の知恵者に聞いてみた。
「……そうだね。……思いきって、分割してみたらどうかな」
ココがそう提案してきた。
「分割?」
「そう。割り当てられた場所を三つぐらいに分けて、一か所ずつ攻めていったら?」
範囲が広いなら、範囲を区切ればいい。確かに、一つずつ攻略していけば、いたちごっこは避けられる。でも、範囲を区切れればだよね。いくら範囲を狭めても、逃げられてしまったら意味がない。逃げられないような障害物がないと……。
「それは良い考えだけど、逃げられないようにしなくちゃ、意味がないよね」
それが最前提で、一番の難関だ。思わず溜め息が漏れる。
「それなら、睦月さんの土魔法で壁を作ったらどうでしょう」
(……土壁?)
脳裏に二メートルぐらいの土壁が浮かぶ。それを隙間なく幾つも作ったら、塀が出来るんじゃない?
「それ、ナイスアイデアだよ!! サス君!!」
「サスケにしたら、中々良い考えだね」
これでも褒めてるんだよね。
「……したらは余計だ」
少し、ふてくされサス君。眼福です。
だって、私には見せないんだもん。超~~貴重なんだよ。ナイス、ココ。今度、サス君に内緒でおやつあげるね。
でも、ほんと、サス君とココって仲が良いよね。仲が悪かったら、そんな事言えないもん。私もサス君とそんな軽口を交わす仲になりたいんだけどね……。正直、難しいかな。サス君にとって、私は大事な主なんだよね。ちょっと寂しいと思うのは、私の我儘かな。
「それじゃ、作戦も決まった事だし、サクサクと土壁を作っていきますか!!」
マイナス思考を吹き飛ばすように、私は明るい声で言った。
高さは二メートルぐらいでいいかな?
地面に両手を付き、『アースウォール』と口に出さずに唱え、魔方陣を描く。ゆっくりと、少しづつ魔力を流し、高さと横幅を調節する。
「こんなものでいいか」
思ってた以上の機密な作業は、結構骨が折れた。これも、魔法の訓練になるよね。回数をこなしていくと、次第に慣れてくる。スピードも上がってきた。
途中で魔犬が襲ってきたけど、サス君の雷魔法一発で全滅。ドン!! という音がして顔を向けると、魔犬は魔石に変化してました。さすがとしか言えないよね。
二十個程作ったところで休憩をとる事にした。
食堂の店主さんが持たせてくれた水筒片手に、サンドイッチを食べる。勿論、サス君とココの分もあるよ。ボールに紅茶を入れ、皿にハムサンドを置く。アッという間に完食したよ。美味しかったんだね。分かったから、舌舐めずりしながらこっち見ないで、食べづらいよ。あげないからね。
「……ほんと、この見取り図って、細部にわたって正確に書かれてるよね」
感心する。A4程の紙だから、細部って言っても限度はあるけど、捉えなければならない場所は正確に描かれている。特に、重点的に描かれているのが道だ。次は建物。そして、死角の部分。簡素化されてるが、ここに何が建ってるか瞬時に分かった。
だから、壁を作る場所を簡単に決める事が出来た。
「それ専門のハンターもいるしね」
「へぇ~~そうなんだ」
職種以外にって事だよね。
「じゃあ。ショウたちもそれ専門のハンターなのかな?」
「それはないよ」
「あの方向音痴のチームが地図作成って、あり得ないでしょ」
ココもサス君も意外に酷い。いやぁ~、私も同意見だけどさ。
休憩の後、残り半分を作ったところで、第一段階終了。
(さて、魔物をあぶり出しますか)
てっとりやすいのって、やっぱり建物の破壊だよね。だけどさ……もう、ここには誰も住んでないけど、生活してた場所を壊すのって、嫌なもんだよね。仕方ないんだけど。
……ん? 建物の破壊? どうやって、建物を破壊したらいいの? 火薬とかあるのかな。ギルマスから何も貰ってないけど。自分で用意するのかな? 大事な事聞き忘れた事に、はたっと気付いた。
「……ムツキ?」
「睦月さん?」
固まってる私に、ココとサス君が声を掛けてくる。
「どうしよう?」
「何が?」
「どうしたんです?」
「……どうやったら、建物壊せるの?」
「魔法で壊せばいいじゃん」
「そうですよ。何、悩んでるんですか?」
意図も簡単にココとサス君は言ってくれる。いやいや……。
「ココもサス君も簡単に言うけどさ……魔法で壊せるわけないよね。どう見ても、木で出来てないよね。石造りだよね」
炎魔法で壁は焦がせる。風魔法で壁は壊せないよね。雷魔法も水魔法も、土魔法でもさぁ。壊せるのは生身だけだよね。ラノベなら簡単に主人公が壊してるけどさ……これ、現実じゃん。
「ものは試しにやってみたら?」
「睦月さんなら、簡単に壊せますよ」
「何の魔法で?」
「水魔法でやってみたら」
水魔法ね……。外しても、水なら被害は少ないか。攻撃力なら炎魔法が勝ってるけど、火事になったら困るしね。じゃ、やってみますか。
『ウォーターボール』
いつもと同じように魔方陣を描く。
流す魔力の量を多くしてみた。その方が破壊力が増すからだ。ちょっと怖かったから、昨日サス君と実地練習で流した量の三倍ぐらいの魔力を流してみた。二倍じゃ壊れそうにないからね。三倍ぐらいで、ひびが入ったら御の字だ。
で、やってみた。
………………。
……………………あ?
…………………………壊せたね……
目の前には、全壊した建物。3分の1しか残っていない。石の欠片があちこちに転がっていた。
そして、新しく出来た赤い水溜まりの中に、キラキラと光るものが何個か落ちていた。




