第六話 副ギルマスと高級食材
「ーーという訳で、リードさん弟君を宜しくお願いします」
「お願いしますって殊勝な事を言って、置いていく気満々だろ」
バレましたか。呆れた様子のリードに笑って誤魔化す。
「本人の意思は関係無いのか!?」
「ないね」
「ないな」
「あるわけないでしょ」
「ないですね」
憤る弟君に全員が即答する。
ハンター世界は超実力主義。アンド、超縦社会だ。
当然、頂点にいるのはゴールドランクのハンター。次にシルバーランク。一番下はプロンズだ。
ブロンズの、それもなったばかりのハンターに人権なんて存在しない。
「そもそも、ゴールドランクのハンターに対して、その態度は何ですか? 口の聞き方から教育しなければなりませんね」
傍観者をきめていた副ギルマスが代わりに答える。
堅苦しい話し方だが、見た目はリックとクロードと対して変わらないように見える。二十代前半ぐらい。でも、見た目と反して、年はプラス15。リードさんより少し年下かな。彼がいるからこそリードさんは自由に動けている。
リードさんがギルマスに就任した時、一番に自分のサポート役として、シルバーランクだった彼を推挙した。
「ムツキ殿、中々骨のありそうなハンターを紹介して頂き感謝します。きちんと躾ときますからご安心を。ギルド変更の手配もこちらで行っておきますね」
にっこりと人が良い、柔らかな笑みを浮かべているけど、背中がゾクッとするのは気のせいじゃないよね。仕事増やして怒ってる?
「怒ってませんよ」
マジで。心を読まれたよ。顔に出てたかな? 表情が出にくい筈なんだけど……。でもまぁ、取り合えずひと安心だ。
それにしても、副ギルマスの笑顔って、ゼロ並みに攻撃力があるよね。普通の女の人なら、ころっと騙されるわ、絶対。実際、騙された人いるんだろうな……。
「そんなに私が気になりますか?」
妖しさ倍増の笑みを浮かべる。
「ありません! 全くありませんから!!」
子供相手に何て笑みを浮かべているんですか?!? 気になる? 滅相もありません。慌てて否定させて頂きます。それはそれで失礼だと思うけど。勘違いされるよりはずいぶんまし。たぶん、からかってるだけだと思うけどね。
「クスッ……そんなに強く否定しなくても……」
凄く楽しそうです、副ギルマス。
「あまり、子供をからかうな」
リードのお陰で、副ギルマスからの精神攻撃は無事回避出来ました。後は、きちんと礼儀を通すだけ。ちゃんと、頭を軽く下げお願いしました。
「……早速ですが、躾の第一段階として、まずは黒の大陸の状態を知ってもらった方がいいですね」
(黒の大陸の状態?)
取って付けたような言い方に首を傾げる。
「そうだな。ムツキもいることだし、ちょうどいいな」
リードには通じているようだ。リックとクロードも何かを察しているようだった。分からないのは、私たちと弟君だけだ。
(もしかして、クエストですか? あの……今、休息中なんで出来ればお断りしたいんですが……あ~無理そうですね)
「諦めが肝心ですよ」
やっぱり、副ギルマスさんは私の心読んでるよね。怖い。すっごく怖いよ。
「今回は俺も参加するぞ。リックとクロードもな」
ギルマスが自ら参加するクエストって……。
「何、簡単な食料調達ですよ」
副ギルマスの笑みが眩しい。眩し過ぎて、胡散臭いよ。
だって、食料調達にギルマスとシルバークラスが出てくるのって、普通あり得ないでしょ。そもそも、何を調達するの? 肝心な事何も言ってないよね。弟君も怪訝な顔をしているよ。
「寒い冬が来る前に、保存食を作っておきたいんですよ。太陽が昇らなかったせいで、穀物の備蓄は限りなくゼロに近いですし」
うん。それは理解出来る。で、何を調達するの? さっさと言って欲しいんだけど。前置きが長いよね、副ギルマスさん。
「それで、何を調達するんですか?」
前置きはそこまでにして、ズバリ訊く。
「ワイバーンの討伐だ」
答えたのはギルマスだった。
……ん?
…………今、何て言った?
………………うん。聞き間違いだよね。
「聞き間違いじゃないですよ。ワイバーンの討伐です」
やっぱり、聞き間違いじゃなかったよ。
「ワイバーンって、竜の亜種ですよね!? ばかでかい筈。そもそも、食べれるんですか!?」
「食べれるぞ。一応、高級食材だしな。竜の亜種っていうより、蛇の亜種の方が近いけどな」
「……蛇」
高級食材って所よりも、別の単語に、私は引っ掛かる。思わず、小さな声でポツリと呟いてしまった。
「「あっ!?」」
私の足元でサス君とココが慌て出す。
「蛇っていっても、まんまじゃないですよ!!」
「そうだよ、ムツキ。羽も生えてるし、似てるだけだから!!」
必死でフォローしてくれるのはありがたいけど、必死な分だけ、アレに近いって思うのは私だけかな?
「ムツキは蛇が苦手か?」
リードが少し表情を曇らせながら尋ねる。
「……洞窟のダンジョンで蛇に遭遇した時、魔力の制御が出来なくて、辺り一面焼き付くした程苦手な生き物だよ。ムツキにとって。泣き出すし、ほんと、あの時は吃驚したよ」
当時を思い出しながら、しみじみとココは語る。
「あの時は急に出て来たから……今は、少し慣れたよ」
「でも、現れたら固まるよね」
それは否定出来ない。苦手なものぐらいあってもいいじゃん。
「…………そうか……ムツキは蛇が苦手か……」
やけに暗い声が聞こえる。リードだ。
私が蛇が苦手な事がそんなに落ち込む事なの? ああ……そうか。
「その子は大丈夫ですよ。別に怖くはありません。鳥肌もたたないし。ただ……急に、本来の大きさになられるのは困るけど」
テイマーであるリードの手首には、装飾品に化けた蛇の姿をした妖精がいる。初めて会った時に気付いていた。魔物に区分された妖精。そういう意味でいうなら、ココの仲間になるのかな。
「注意しよう。……それで、討伐に参加してもらえるか?」
どこかホッとした様子のリード。
「それが正式な依頼ならば」
若干嫌々感は隠せないが、仕方ないよね。苦笑しながら、依頼を引き受ける事にした。
因みに弟君は、ワイバーンのあたりからずっと固まったままだ。もしかして、気絶してるの?
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




