第五話 うみねこ亭の裏庭で(2)
日間55位!!
ありがとうございますm(__)m
「……どうして……どうして勝てないんだ……?」
膝を落とし落ち込む弟君。
勝つ気だったの? っていうか、勝てる気だったんだ……。何でそう思えるのか分からなくて、外野も私も首を傾げてしまう。
(君、ブロンズだよね)
一応これでも、私はゴールドだ。ブロンズに負ける訳ないでしょ。それとも君は、私が君より弱いと思ってたの? ああ……思ってたんだね。
「……さっきから、ショックを受けてるようだけど、君が弱いからに決まってるでしょ」
呆れながら突き放すように言うと、サス君が現実を突き付けた。
「ハンターになったばかりのブロンズが、ゴールドに勝てる訳ないだろうに。我が儘を聞いて貰えただけでも感謝するのが普通だろ? なのに、お礼一つないのか、小僧?」
いつもの言葉遣いじゃない。脅しパターンの物言いだ。サス君は場所と相手によって上手く使い分けている。器用だよね。とはいえ、言葉の端々に憤りを感じてるのは、私だけかな。
ん? どうやら違うようだ。外野のプレッシャーが凄いんだけど。弟君小刻みに震えてるよ。
「それとも、君はムツキが魔力と僕たち従魔の存在だけで、ゴールドが貰えたと思ったのかい?」
ココが参戦してきた。
弟君は唇を噛み締め黙ったままだ。否定もしない。つまりはそう思ってた訳だ。
いや~責めるつもりはないよ。そう思われても仕方がないからね。翠の大陸でシオンとの手合わせを観戦したハンターたちは、考えを改めてくれたとは思うけど……。まぁ、目撃したのはシルバー以上だったし、広まっていないのは分かってたしね。中には、弟君のように思っているハンターも大勢いる事も知っていた。めんどくさいから、いちいち訂正するつもりもなかったし。
ハンターは実力の世界。実力で認めさせればいいことだ。認められないのは私の力不足だからだ。だけど……これだけは言っときたい。
「……君がどう思おうと、私には関係ないけど。ただ……これだけは違うから。私がゴールドになったのは、ギルマスの採点が甘かったからじゃない。そんな事ぐらいでゴールドになる程、この世界は甘くないよ」
(私よりも、君の方がよく知ってるよね)
ギルマス三人の名誉のために、私は完全に否定する。
「…………そんな事は思ってない」
(いや、そう思ってたでしょ)
間が空いたのはそういう意味だよね。まぁ、敢えて突っ込まないけど。
「ならよかった。もしそう思ってたなら、ギルマスたちを馬鹿にしている事になるからね」
再度念押しとく。
途端に顔色を青くする弟君。言われて初めて気付いたのか……。馬鹿にも程があるよね。こういうタイプの馬鹿は苦手だ。そして一番腹立つ。
こういう馬鹿には、現実を直に肌身に感じてもらうのが手っ取り早い。適当な場所があったよね。人手不足だし、ちょうど良かったよ。私はニヤリと笑う。つかつかと弟君に近付くと、彼の襟首を後ろから掴んだ。
「ちょっと、リードさんの所に行って来るね」
慌てる弟君を無視して、私は満面な笑みを浮かべて外野組に声を掛ける。呼ぶより先にサス君とココは直ぐ横に来ていた。弟君がビク付いている。
「行ってらっしゃいませ」
「直ぐに戻って来いよ」
「晩はご馳走用意しとくからね」
誰一人止めない。皆、いい笑顔だね。当然か。
やって来ました。黒の大陸。王都の中心にあるハンターギルド前。ほんと、転移魔法は便利だね。
「…………ここは何処なんだ!?」
状況が飲み込めない弟君は、慌てふためき声を荒げる。
(まぁ、普通そうなるよね。いきなり、場所が変わってるし)
「黒の大陸だよ」
逃がす気のない私は、襟首を握ったまま答える。
「なっ!!」
「それで、目の前にあるのは、王都にあるハンターギルド。君がこれからお世話になる所だよ」
「勝手に決めるな!!!!」
「君、私より強いと思ってたんでしょ。なら、黒の大陸でも十分やってけると思うよ」
問答無用に引っ張って行く。私より背が三十センチぐらい高くて関係無い。暴れられると面倒だから、勿論動きを制限してるけどね。魔力って便利(笑)。
「「ムツキ様!?」」
扉を開けると見知った顔に出くわした。リックとクロードだ。
クロガネの件以後、二人は私の事を様付けで呼ぶようになった。呼ばないよう頼んだけど、どうしても聞き入れてくれない。リードの後押しもあって、定着してしまった。
「久し振り。二人共、怪我がなさそうで良かったよ」
見た所怪我をしてるように見えない。二人の実力をよく知ってるから大丈夫だと思ってたけど、何事もなくて良かった。ホッと胸を撫で下ろす。
「我々が無事なのはムツキ様のお陰です」
「南に足を向けて寝られませんよ」
私は大した事はしていない。ちょっとだけ、ポーションとかをゼロ経由に卸しているだけだ。
薬師じゃない私が作ってるからね。法律に触れるような事はしてないよ。ただ、一般常識化されてるんだよね……薬師しか薬が作り出せないって。そんでもって、薬師のスキルを持ってる人って少ないから、質関係なく薬が作れるだけで、誘拐されたりする事もあるそうだ。誘拐される事はないと思うけど、色々とめんどくさいから黙っている。
リックとクロードは知ってるけどね。
「そんな大した事してないよ。それで、リードさんいるかな?」
「ギルマスですか?」
「ギルマスなら部屋にいますよ。で、それは何です?」
やっと、リックが訊いてくれた。満面な笑みで答える。
「新人さんだよ。人手がないから連れて来た。かなり腕に自信があるようだから、こきつかってやって」
「勝手に決めるな!!!!」
くって掛かる弟君に、リックとクロードは笑みを深くする。目が笑ってませんよ、二人共。
「君、私より腕があると思ってたんでしょ。なら、ここでも十分やってけるんじゃない? 一時に比べて、魔物の数は減って来たけど、まだまだいるし。レベルの高い魔物もいるから遣り甲斐があるんじゃないかな。良かったね。自分の腕を試せる場が出来て。まさか、嫌とは言わないよね。魔物を狩るのを生業にしているハンターが」
逃げ道は完全に潰す。
弟君は苦虫を噛み潰したみたいに、顔を歪め黙り込む。
「……それなら、私がきっちりと面倒みますね」
リックが快く勝手出てくれた。
しかし、妙に冷めた目で弟君を見下ろしている。あんな目で見られたくないよ。もろ、刃だよね。グサグサ刺さるわ。
「勿論、僕も彼の面倒を見させてもらいますね」
クロードも面倒をみる気満々だ。
たが明らかに、馬鹿にしている感丸出しだ。勿論馬鹿にしてるのは弟君。弟君の顔が今度は赤く染まっている。ほんと、リックとクロードっていいコンビだよね。
(じゃあ、二人に任せようかな。リックとクロードなら大丈夫)
「それじゃ、二人共弟君を宜しく頼むね」
二人が見てくれるのなら、ある意味安心だ。さぞかし、立派で強くなってる事だろう。途中でポキッと折れなきゃいいけど。
「弟君、良かったね。いい先輩に面倒を見てもらって。それじゃ、早速ギルマスのいる所に行こうか」
小さく首を横に振り拒否する弟君。
反対に、私は満面な笑みだ。
(拒否しても行くよ! レッツゴー!!)
弟君に合掌。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




