第二話 付加
「おう!? 嬢ちゃんか」
「久し振りぶりです。ダンさん」
軽く頭を下げてから、持って来たお土産を渡す。セシリアさんが選んでくれたお土産だ。ドワーフが最も好きな飲み物。
「気使わせて悪いな。おお!! アクア酒の十五年ものじゃないか!! 嬢ちゃん、どうやって手に入れたんだ!?」
目の色変えて詰め寄られても……。
「お酒の事はよく分かんないので、知ってる人に薦めてもらったんだけど……」
「そいつは、余程の酒好きだな。これを薦めるなんざ、中々の酒豪だぜ」
アクア酒に頬擦りしながらダンは断言する。
それ薦めてくれたのは、セシリアさんなんだけど……セシリアさんが酒豪? まさか、あのセシリアさんが……いやいや、ないでしょ。
「適当に座ってな。ワシはこれをしまってくるからな」
よほど嬉しかったのか、まだ頬擦りしている。
喜んでもらえたのは良かったけど……子供の存在忘れてない? さっきから、セッカとナナのテンション、ダダ下がりなんだけど。中々戻って来ないから、ドンドン下がっていくよ……。
「……久し振り、ムツキ」
どうしたもんかと考えていると、後ろから声を掛けられた。振り返るとそこにいたのは。
「久し振り、レン。元気してた?」
洞窟のダンジョンで会って以来だ。彼もドワーフだ。ドワーフにしては体が大きい。ダンとデンの甥っ子だ。
「ああ。ムツキも……大丈夫なのか?」
やっぱり、レンは気付いたようだね。竜脈を感じ取る能力に長けてたし、仕方ないか……。
「……レンに隠し事は出来ないね。大丈夫。これでも大分薄くなったんだよ。浄化魔法が効いてね。今も定期的に浄化魔法掛けてるから大丈夫」
「ならいいが……無理だけはするなよ。そう言っても、無理するんだろうけど」
ぶっきらぼうな言い方だけど、レンが心配してくれてる気持ちは伝わってきた。
「したくないんだけどね~~。レンはデンさんに用があって来たの?」
「……いや、俺は「何、色気付いてるんだ? レン」
デンがニヤニヤしながら戻って来た。レンは憮然とした表情で黙り込む。
「待たせたな。で、早速だが、見せてもらおうか」
私は頷くと、携帯していた二本のナイフをテーブルの上に置く。ちょっと拗ねてるね。
「ダンさ「謝る必要はないぞ、嬢ちゃん。こいつらが増長したのは嬢ちゃんのせいじゃない。ワシが注意しなかったのが原因だ。魔物の血が、こいつらにとって酒と同じだってことをよ」
セッカとナナを手に取り、厳しい目で細部まで検分しながらダンは告げる。
「…………」
ダンさんにそう言われたら、私は何も言えない。
「……嬢ちゃん。ワシは嬢ちゃんにお礼を言わなきゃいけねーな。レンに聞いたぜ。こいつらを救ってくれてありがとうよ。嬢ちゃんに託して正解だったな。今こいつらは、凄く幸せだとよ」
そんな事言われたら、泣きそうになるじゃない。
「私の方こそ、ありがとうございます。ダンさん、セッカとナナに引き合わせてくれて」
「…………おう」
目を合わせずに、ボソッと小さい声でダンは答える。
「それで、ダン。まさか、ただセッカとナナを見たいだけで、僕たちを呼んだんじゃないよね?」
ずっと黙っていたココが割り込んできた。
「ああ? セッカとナナに会いたいのが、一番に決まってるじゃねーか。まぁ、それだけじゃねーけどな。やっぱり、思った通りだ。新たな付加を付けれるぞ」
「「新たな付加?」」
ココと私は綺麗にハモる。サス君とミレイは黙って見守っている。シロタマはレンにつつかれて逃げて来た。
「ああ。例えば、毒の付加を付けたら猛毒の剣になるな」
「つまり、傷を付けた魔物が毒に侵されるって事?」
訊いてみると、ダンは一言「そうだ」と答えた。
(おお!!)
「それは、どんなものでも可能なんですか!?」
興奮してきた。
「おう。魔法を組み込む事も可能だぞ。炎の剣とか、格好いいよな」
(確かに格好いいけど。シュリナの力を使えば、炎を剣に具現化する事が出来る。なら、魔法を組み込む必要はないかも)
「それって、人化したセッカとナナも使えるの?」
ココが尋ねる。
『ナイス!! ココ。それ、すっごく大切な事だよ! ありがとう』
『当然だよね』
念話には念話で。頼りになります。
「使えるぞ。固定スキルとしてな」
「ほんとに!?」
「ああ。で、何にするんだ?」
(いきなりそう言われて、すぐに思い付かないよ。魔法は必要ないし、だとしたら……毒や麻痺が妥当かな。でも……)
「一つ質問いいですか?」
「何だ?」
「補助魔法を組み込んだ時はどうなるんですか?」
「はぁ~~!? 補助魔法をか!? こんな事言い出す奴は、嬢ちゃんが初めてだぞ」
「ムツキらしい」
心底驚いているダンとニヤリと笑うレン。
(そんなに変な事言ったかな?)
「…………そうだな……魔法を組み込む事にかわんねーから、作業自体は簡単なものですむ。効果の範囲は、おそらく……嬢ちゃんだけだと思うぞ」
「(それで充分)でも、人化した時はセッカとナナも自分に対して使えるんですよね」
「使えるぞ。固定スキルだからな」
「なら、回復魔法を組み込んでもらえませんか?」
そう希望すると、ダンは難しい顔をして私を見る。
「……嬢ちゃん。なんか、勘違いしてねーか。こいつらは人化出来るが、人じゃない。武器だ。武器に回復魔法が必要か?」
ダンさんの言う意味は分かる。
セッカとナナが人じゃないって理解しているつもりだ。
人化したセッカとナナの体が人と同じ様に柔らくても、人と同じ様な感情を持っていても。セッカとナナは人じゃない。命を奪う武器だ。
武器として考えるのなら、毒や麻痺、攻撃魔法を組み込むのが正解だし、一般的な考えだろう。だけど、私は単純に武器=攻撃とは考えられなかった。
「ダンさんが心配している意味は理解してます。そう勘違いされても仕方ないかもしれません。普通なら、攻撃系を付加するだろうし、回復魔法を付加して欲しいとは言わないと思います。……でも勘違いしないで下さい。私は攻撃の一部として、回復魔法を付加して欲しいとお願いしたんです」
「攻撃の一部として? どういう意味だ?」
「アンデット系って、絶対相手にしたくないですよね」
唐突にそんな事を話始めた私に、ダンは眉をしかめる。レンは相変わらず、にこやかな笑みを浮かべていた。
「なんでアンデットが嫌なのか、その理由は至って簡単。彼らは頭を壊さない限り、何度でも立ち上がるんですよね。炎魔法で焼く手もあるんですけど、すっごく臭いんですよ。どっちにせよ、会いたく相手ですよね。……ダンさん、疲れない相手が敵だったら、すっごく厄介じゃありませんか?」
私だったら絶対相手にしたくない。
「……つまり、物理攻撃をしている間、嬢ちゃんは自動的に回復魔法が掛かり続ける訳か……多少の危険も侵せるな」
(危険を敢えて侵すつもりはないけどね)
そう思いながら頷く。
「魔物の中には、魔法攻撃に耐性があるものもいるし。物理攻撃じゃないと倒せない魔物もいます。物理攻撃を苦手としている私にとって、多少の危険を侵してでも、魔物の懐に飛び込めるのはかなり有利だと思いませんか? それに、苦手の長期戦もこなせるようになると思うんです」
「……確かに、嬢ちゃんの言う通りだ」
(後、もう一押し)
「でしょ。苦手な物理攻撃を充分補えると思うんです」
にっこり微笑みながら、再度後押しする。決め手になったのは私の台詞じゃなく、レンの「ダンが断ったら、俺に任せてよ」という台詞だった。
レンに感謝!!
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
レンはムツキのマジックバックを作ったドワーフです。【洞窟のダンジョン編】で登場してます。セッカとナナが魔剣化仕掛けた時に救ってくれたのも、レンでした。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




