変態との攻防戦(2)
前半、ムツキ視線。
後半、セシリア視線です。
「(全く……相変わらず、残念な様子ですね。それとも、外堀から埋めようとしてますか)ムツキ様、お帰りなさいませ。お茶になさいますか? それとも、お風呂になさいますか?」
いつものように、にこやかな笑みを浮かべてセシリアが出迎えてくれた。
う~ん、やっぱり慣れないな。居候している身分だから、そんなに気を使う必要ないのに。
何度か、普通でいいからってお願いしたけど、「これが私の普通ですから」とやんわり断られた。
セシリアさんて、メイド服を着てるとほんと軍人には見えないよね。超美人だから、何着ても似合うのかな。
「お茶にしよう(ムツキが使ったスプーンとフォークは俺のだ!!)」
「私は一緒に疲れをとりたいわ(背中を流して上げるからね!!)」
ぼんやりと考え事をしていた私に代わって、ロイとミカが答える。
台詞は至って普通だよね。なのに、何故か、ゾワッとするんだけど……。鳥肌がたつみたいな。魔物と対峙した時のような感覚に近い。無意識のうちに離れようとする。
「「どうかした? ムツキ」」
察知したロイとミカににっこりと微笑み掛けられて、より一層距離が縮まる。と同時に、ゾワッと感がより強くなる。
「引っ付き過ぎだ。離れろ」
サス君が割って入ってくれた。ロイとの距離が少し開く。ココはミカの肩に飛び乗り、鋭い爪を出す。ミカとの隙間が少し開いた。
「(スザク様とビャッコ様が里帰り中だから、ここぞとばかりに押してますね。嬉々と変態行為が出来ると思っていらっしゃるようですが……)お疲れのようですね、ムツキ様。お部屋でお休みになられますか?」
「(中々やるな)そうした方がいいです。睦月さん」
「(ここは乗らないとね)ムツキ、顔色が少し悪いよ」
「……そうだね。少し疲れたかも」
セシリアとサス君、ココに畳み掛けるように言われて、私は部屋で休む事にした。
ロイとミカの激しいスキンシップから解放されるのならいいかな。正直気が休まる。獣人って皆そうなのかな。こんなに良くしてくれてるのに、こんな事を思うなんて、凄く悪いと思うんだけど……。あまり近過ぎるのは、どう反応したらいいのか困る。慣れてないから。
「それは大変だ。俺が運ぼう」
「ゆっくり休んで。しっかり看病するから」
折角開いた隙間が埋まる。
「看病なんてしなくていいから。大丈夫」
慌てて拒否る。
「「遠慮しなくていいよ」」
「遠慮じゃなくて、本当に大丈夫。ロイもミカも近過ぎ。少し離れてもらうと助かる」
そう告げると、サス君とココと一緒に部屋に戻った。ロイとミカは追い掛けて来ない。少しは分かってもらえたかな。
「(顔を真っ赤にして)…………可愛い。可愛過ぎる!!」
「(あの上目目線はおかずになるわ)もう、食べちゃいたい!!」
後に残った私は、悶絶しているロイ様とミカ様を見ながら盛大な溜め息を吐いた。
台詞も少し痛いですが、何を考えているのか想像出来るのが非常に悲しいです。変態に思考が侵されているようで。
それにしても、分かっておいでなのでしょうか?
この危ない台詞はムツキ様には聞こえていないと思いますが、間違いなく、サスケ殿とココ殿には聞こえていると考えていいでしょう。シロタマ殿は理解出来ているか分かりませんが。
馬鹿ですか。馬鹿なんですね。
ムツキ様のお付きの方々は皆、ムツキ様に対して過保護というより、溺愛されていらっしゃるのに。敵認定はされていませんが、虫認定は間違いなくされているでしょう。
普段が優秀なのに、ほんとムツキ様が関わると極端に残念になられる。この落差が激し過ぎるのが、目下の心配事です。獣王陛下は好きにするようにと仰有られたが、本当にこれで宜しいのですか?
「……(応援するかは別として)ロイ様、ミカ様。程々にしないとムツキ様から嫌われてしまいますよ」
(押すばかりで、引く事もしないと)
「「ムツキに嫌われる!?」」
何で、そんなに驚いていらっしゃるのですか? 理解に苦しみます。
「まさか、嫌われないと思っていたのですか? 完全に、ムツキ様引いてらっしゃったのに」
「えっ!? あれは引いてたの!?」
「照れてただけだろ?」
どこまで前向きなんでしょう。自分に言いように解釈してますね。またしても、溜め息が出てしまいます。
「……このままだと、間違いなくムツキ様に距離をとられますね。本能に忠実なのはいいですが、ムツキ様は獣人ではないのですよ。そこを考えないと」
「た……確かに、ムツキは獣人じゃない!?」
「馬鹿だったわ。完全に忘れてた……」
ショックで膝を付く御二方に、思わず冷めた目で見下ろす。本当に気付いていらっしゃらなかったのですか!? 姿形が違うでしょうが。本当に理解に苦しみます。
「……気付いて頂けてよかったです」
「「ありがとう!! セシリア」」
ロイ様とミカ様に感謝されました。ちっとも嬉しくはありませんが、ここはきちんとお礼を言っとかないといけませんね。
「いえ、諫言も臣下の役目ですので」
「だったら、早速、作戦を練り直さないと!」
「そうね!」
ロイ様とミカ様は作戦を練るために、一階の客間に行こうとした。
「何処に行こうとなさってますか? ロイ様、ミカ様」
背中に向かって声を掛ける。その声に、恐る恐るロイとミカは振り返る。
「丁度いい機会なので、鍛え直して上げます」
「いや、それはいい」
「私もいいわ」
(嫌われてしまいましたか。残念ですね。でも、逃がしませんよ)
「遠慮なさらずに」
にっこりと微笑む。ロイ様とミカ様は逃亡しようとするが、逃がすと思いますか。既に包囲されてますよ。気付くのが遅すぎましたね。普段なら気付いた筈ですが……全く。
「ムツキの事は大丈夫なのか!?」
「ミレイがいるので大丈夫ですよ。それに、セッカとナナもいますし。勿論、警護の面も万全ですよ。ご安心下さい。それでは参りましょうか。ロイ様、ミカ様」
それでは、このお邪魔虫は私が処理しましょう。ムツキ様、ゆっくりお休み下さいませ。
私が書く変態は変態の部類に入るのか、ちょっと不安ですが、楽しんで頂けたら嬉しいです。
それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪




