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第十九話 真の強さ



「俺の両親は角なしだった。知っての通り、この大陸で、角なしが生きて行くのは簡単じゃない。ましてや、子供がいたら特にな。なんせ、平民の下だ。ろくな稼ぎぶちなんてあるわけない」


 平気そうに見えても辛いのか、白蛇と熊さんが顔を寄せる。本当に、彼は従魔に愛されている。影は先程に比べたら大人しい。ボコボコしてないから。


「だから、大陸を出たのか?」


 ケイが尋ねる。


「大陸を出たのは俺一人だ。父親は貴族の些細な怒りをかって殺された。母親は魔物に喰われたよ」


「「「…………」」」


 重い過去をさらりと口にするリードに、返す言葉が浮かばない。さらりと言えるまで、リードはどんな葛藤を乗り越えてきたのだろう。私はただ黙ってリードの話を聞く。


「両親が死んで、正直俺の命はそこまでだと思ったぜ。そんな俺を拾った物好きが、ハンターの仕事で黒の大陸に来ていた人族だった。仕事が終えると、親父は俺を連れて朱の大陸に戻った。それから俺は、人族として生きて行く事になった」


「ギルマスを引き受けたのは……?」


「俺なりの謝罪かな」


 ケイの疑問にリードは少し辛そうに顔を歪める。


「リードは悪い事なんて何もしてないのに……」


 どうして、謝罪の気持ちを抱くの? リードは完全な被害者だよね。


「ここには、楽しい思い出も辛い思い出もある。いや、辛い思い出の方が多いか。……俺が人族として生きて来たのを、責める人はいないだろう。同情する人の方が多いだろうな。でもな、俺は人族じゃない。角なしの鬼人だ。故郷を捨てた奴だ。リックとクロードのようにな……」


 リックとクロードとは明らかに違う。だけど、リードの胸中を占めているのは、故郷を捨てた罪悪感。


「……それが、ゲンブの選定に答えない理由ですか?」


 私の台詞に、息を飲むケイとシオン。リードは眉間に皺を寄せ、何かを堪えているようだった。それが何か分からない。


「ギルマスをするのはいい。精一杯やっていこうと思う。だが、鬼王の件は別問題だ」


「……そうですか? それでいいんじゃないですか」


 迷いなく告げるリードに、私が言える事など何もない。


 説得? 十四の小娘が四十過ぎの大人に、それもギルマスに推薦されるような人格者に対しておこがましいよ。言えるわけないじゃん。


「反対しないのか?」


 私の返答がよほど意外だったのか、リードが吃驚した顔をしている。ケイもシオンもだ。


「何で反対しないといけないの? 大の大人が決めた事に、十四年しか生きていない私が反論出来ますか?」


「……そう言われれば、そうだが」


 どこか納得していないようだ。何故?


「選定されたとはいえ、王って、生半可な覚悟で出来るものじゃないと思います。躊躇ちゅうちょするのも当然だと。それに、生きるためとはいえ、故郷を出たのは事実。王になってからも、陰口として囁かれると思いますよ。……まぁ私も、故郷を捨てた人間なんで、リードさんに言える立場じゃないのが本音ですね」


「……ムツキも故郷を捨てたのか?」


「化け物扱いされてましたから。両親や双子の兄もいたけど、彼らの中で私はただの空気でしたね。姿は見えるけどいない存在。ご飯は主に残飯を漁ってましたし、寝るのは床や倉庫のなかでしたね。最後は、病気で高熱が出たまま雪の中に放置されました。師匠に拾って貰わなければ、私は死んでたか、今もその暮らしを続けてたと思います」


 本当は自分で逃げ出したんだけど、【界渡り】をして。その途中で私は死んだ。そして、一等の宝くじが当たる確率よりも低い確率で神獣森羅様に出会い、再び生を与えられた。


 それでも、師匠に拾われたのは事実。助けられて、居場所を与えてくれたのも事実。私にとって、師匠は大恩人だ。


「「「「ムツキ(さん)……」」」」

「キュゥ………」


 皆が体を擦り寄せてくる。


「ありがとう。でも、大丈夫。私は今幸せだから」


 心底そう思える。そう思える事が、普通に過去を話せる事が、私が幸せな証しなのだから。


「……リードさん。私は故郷を捨てた事を後悔していません。二度と故郷に戻るつもりもありません。もし、故郷の人が私に助けを求めて来たとしても、私は助けるつもりもありません。そんな私を、貴方は薄情だと思いますか?」


「いや……思わない」


「でも、思う人は大勢いると思いますよ。それが現実です。当事者でない者は何でも言える。それも好き勝手に。自分たちの都合よくにね」 


「ああ、そうだな」


「そういうのは、言わしといたらいいんですよ。気にするだけ無駄です」


「強いんだな」


 その台詞は色んな人に言われる。でも、言われる度に私は思う。私は強くないと。強くあろうとしているだけだと。大切な人たちに恥ずかしくないようにしたいと思ってるだけだ。


「強くありたいと思ってるだけです。それに、大切な人や仲間がいるので、彼らに嫌われたくないだけです」


「そうか……」


「はい。だから、命を掛ける事も出来ます。瘴気の中を進む事も、魂を結ぶ契約で呪いの一部を引き継ぐ事になっても構いません。それが気になって呼んだんですよね。……私の浄化魔法でも直ぐに消す事は出来ませんが、徐々に回復してるので大丈夫ですよ。血を吐いたのも一回だけだし。普通にクエストも出来ますから安心して下さい。勿論、クロガネ(ゲンブ)も大丈夫ですよ」


 クロガネの状態は嘘じゃない。だけど、私はあれから二度血を吐いた。一回目程じゃなかったけど。でもまぁ、無理をしなければ大丈夫だし。時間が掛かるけど、段々良くなると思う。亜神とはいえ、一応生身だからね。


 こんな事はもうないと思いたいけど、正直、亜神で良かったとつくづく思う。亜神じゃなかったら、とうに私の肉体は崩れて大地と同化していたに違いないから。


「……分かった。何か不都合があれば遠慮なく言ってくれ。何でもしよう。この命を掛けて。ゲンブ様を、この大陸を助けてくれて、心からお礼を言わせて欲しい」


 リードは深々と頭を下げる。ケイとシオンも同じ様に頭を下げた。





 リードたちと別れた私はクロガネの所に戻った。


 彼が鬼王を継ぐのかどうかは分からない。シュリナやヒスイに曰く、空位も珍しくないらしいって聞いた。問題はないらしい。


「反対しないのか」って訊かれたが、悩めるだけ悩んだらいいと思う。それだけ、王というものをより理解し、覚悟している証しだから。躊躇しない方がおかしい。怖がり、悩まない方がおかしいと思う。悩む分だけ、覚悟が生まれると思うから。


 良い王になれるかどうかなんて、どうでもいい事だ。


 評価なんて、後から付いてくるものだから。より良い評価のために王をする訳じゃないんだから。


 少なくとも、リードには大切な存在がいる。小娘に頭を下げれる度量がある。そういう人間は強い。私のような見せ掛けの強さじゃない。真の強さだ。そして、そうした強さを持つ人の周囲には、必ず人が集まる。彼のために力を尽くそうとする人が。


「クロガネ。ただいま」


 自然と笑みが浮かぶ。


 リードがギルマスのままでも、彼が黒の大陸にいる限り、明るい未来が待っているに違いない。






          

 最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m


 一応これにて、【呪われた黒竜編】完結です。後は、閑話を入れてから、蒼の大陸編に進みます。


 それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪

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