第十三話 王宮到着
「……それで、ムツキは僕に何をさせたいんだい?」
「ムツキ様。私は何でも致します。遠慮なく言って下さいませ」
突然連れて来られたゼロとミレイは怒る事なく、反対に何かを期待したキラキラした目で私を見ている。
「ありがとう。ゼロ、ミレイ。早速だけど、ゼロは私と一緒に王都に向かって欲しいの。ミレイはここに残って、クロガネと巫女長のフォローをお願い。セッカとナナもお願いね」
「分かった」
「畏まりました」
「「畏まりました」」
皆快く引き受けてくれた。ゼロには王都に行く目的さえ言ってないのに。
まぁ……ある程度予想がついてると思うけどね。頭がキレるゼロの事だ。私が彼に何を頼もうとしているのか、分かってるかもしれない。
「ムツキ。悪いが、俺はここに残るぜ」
突然、ヒスイがそう切り出した。
「えっ!?」
「ゲンブの奴、まだ目を覚ましてないからな。それに、身を護る眷族もいねーだろ。一応、念のためだ。俺が残っても何にも出来ないけどな」
突然で驚いたけど、そう言い出したヒスイの気持ちはよく分かる。私もヒスイが付いていてくれると、安心して離れられるしね。ミレイやセッカ、ナナの事は信頼してるよ。でも、聖竜が付いてくれたら、鬼に金棒だ。
「うん。分かった」
「ビャッコ。頼んだぞ」
「任しとけ。ムツキ、きっちりと止め刺してこいよ」
私とシュリナの返事に、ヒスイはニヤリと笑い力強く答える。
「勿論。任しといて。きっちりと再起不能な状態に追い込んで来るから(ヒスイも残ってくれるし、安心だね)」
私もニヤリと笑い断言する。
端で私たちのやり取りを聞いていたゼロとミレイは、「「色々な意味で死んだな(死にましたね)」」と内心思った。そう思っても、青くならないし引きつらない。一般常識から少し外れてる事に、ゼロとミレイは全く気付いていなかった。
「……それで、どうやって王都まで行くのかな? ムツキ、王都に行った事ないよね」
ゼロが訊いてくる。私が転移魔法が使えないからだ。
【転移魔法】は術者が行った場所にしか転移出来ない制約かある。当然、私は王都には行った事がない。そもそも、黒の大陸自体初めてだ。転移魔法が使えないとしたら、ここから王都までは、どんなに急いで馬をとばしても、最低一週間は掛かる。
「確か……中継地点から王都まで行けたんじゃない? そうだったよね、シュリナ?」
「そうだ。だが、迂回する必要はないぞ」
「スザク様の仰る通りです。その必要はありません。護りて様」
落ち着いたのか、巫女長がクロガネを抱き抱えながら私たちに近付いて来る。凛とした声だった。巫女長は私たちの側まで来ると、両膝を台座に付き頭を垂れた。
「申し訳ありませんでした。私が不甲斐ないばかりに、ゲンブ様を傷付け、護りて様、聖竜様の身を危険に晒してしまいました」
巫女長の潔い真摯な姿勢に、私は巫女長を責める気持ちにはなれなかった。そもそも、巫女長が悪い訳じゃない。巫女長も傷付けられたうちの一人だ。だけど、私たちは。
「あい分かった」
「二度目はねーからな」
「私も瘴気の中を歩くのは嫌かな。だから、今後気を付けてね」
謝罪をする必要がない人が謝罪する。本当は今すぐにも立たせたい。でも、巫女長の気持ちを考えるとそれは出来なかった。だから私たちは受け入れる。巫女長の気持ちを。
「それで、中継地点に行く必要がないって、どういう事?」
「神殿から王宮に直接行けるからだ」
シュリナが答える。
「そうなの?」
「あったり前じゃん。俺たちが王を選定するんだぜ。言わば、王は俺たちの手足だろ。管理するのも、俺たちの仕事。当然、繋げてるに決まってんだろ」
もうちょっとオブラートに包もうよ……ヒスイ。さすがの私も、苦笑いだ。
「じゃ、早速だけど、巫女長さん、案内してもらえるかな?」
私は巫女長を促し立たせた。
「はい。ご案内致します」
案内された場所は中継地点と同じ様な室内だった。中央にある魔方陣は光を放っている。正常に稼働している証拠だ。
やっぱりここも、実体化出来ない妖精たちが護っていた。ホタルのような光を放ちながら、私たちの側を飛んでいる。指を伸ばすと、つついてきたり、乗ったりして遊んでいる。可愛いな~。
王都に向かうのは、私とシュリナ、ココとサス君。そしてゼロ。シロタマも一緒だよ。
私たちは魔方陣の上に立つ。
後ろに控えていたセッカとナナと目が合った。凄く、何か言いたそうにしてる。
「セッカもナナもお願いね」
「はい。……主様。もし何かあれば私たちの名を呼んで下さい。何処にいようとも、瞬時に駆け付けます」
「必ず、駆け付けます」
「何かとは何だ?」
サス君の低い声に、セッカとナナはビクッと身をすくませる。まだ、サス君はご立腹のようだ。
「ありがとう。何かあれば、絶対、セッカとナナを呼ぶからね」
「「はい!!」」
『もう、そろそろ許してあげようよ。サス君』
念話でそう呼び掛けると、少し拗ねたような声で『別に怒っていませんよ』と返してきた。まだまだ、道のりは長そうだ。やれやれ。
「ミレイ。渡した薬瓶は必要に応じて遠慮なく使ってね。もし足りなくなったら、ヒスイに言ってね」
「はい。畏まりました」
ミレイなら安心して、この場を任せる事が出来る。勿論、薬瓶の管理もだ。
「それじゃ、ヒスイ行って来るね」
「おう!! こっちは気にせず暴れてこい」
「うん、分かった。ヒスイの分も暴れてくるね(勿論、クロガネと巫女長の分も)」
行く前に、私はクロガネと巫女長に近付く。寝ているクロガネの背を撫でると、もう一度、クロガネに【浄化魔法】と【治癒魔法】を掛けた。一緒に、巫女長も。
「護りて様……」
「じゃ、行ってくるね!!」
その声と同時に、魔方陣の文字が強い光を放ち出した。
「ここが王宮ね……」
華美な内装は施されてないが、置かれている調度品は素人目でも超一流品だと分かる。室内はそれ程広くない。大きな机に、中央にはソファとちょっとしたテーブルに本棚。
「執務室だな」
そうだね。似たような部屋に通された事がある。勇王に。
「誰も居ないようだね」(ココ)
「ケイさんとシオンさんは何処に居るのかな?」(私)
「静かすぎないか?」(ゼロ)
「遠吠えしてみましょうか?」(サス君)
「キュ、キュ~~」(シロタマ)
「我を待たすとは、いい度胸だ」(シュリナ)
ワイワイと言い合う私たち。そこに緊張感は全くなかった。
「睦月さん。遠吠えする必要はなくなりました。間もなく、ここに人が来ます」
サス君の立ち耳がピクピクと動く。
偽王がここを使う事はもうないから、来るのはケイさんかシオンさんのどちらかね。あっ、でも、シオンさんはここを使わないか……似合わないもんね。
そんな事を考えてると、足音が私の耳にも届いた。
ドアの前で一旦止まる。中に人がいる気配を感じたようだ。だか直ぐにドアをノックし、室内に入って来る。
「早速来たね、ムツキ」
「待たせてごめんね、ケイさん。……で、頼んでおいた件だけど」
「勿論、丁重に扱ってるよ」
柔らかな笑みを浮かべながらケイは答える。
室内に入ってきた時と表情は全く変わってないのに、明らかに黒い笑みに変化したよね。私も負けずに黒い笑みを浮かべてると思うけど。
お待たせしました。
最後まで読んで頂きありがとうございますm(__)m
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




