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第四話 瘴気



(何、この臭い……?)


 不意に漂ってきた不快な臭いに、私は足を止める。


 私はその臭いに覚えがあった。日本人なら一度は必ず嗅ぐ臭いだ。好き嫌いは別として。私は苦手かな。独特な臭いに顔をしかめ口元に手をやる。それでも臭い。


 私でもこうだ。サス君たちは大丈夫なの!?


 横にいたサス君に視線を移すより前に、サス君が悪臭に反応していた。


 サス君は更に体を一回り以上大きくする。


 今にも魔物に向かって飛び掛かって行きそうな勢いだ。シュリナとヒスイが凝視する方向に向かって唸り声を上げている。その大きさは、小柄な私を背中に乗せて走れるぐらいだ。今まで危険な目に幾度となく遭った事があったが、その時よりも、今のサス君は大きい。


 サス君と対照的に、ココは眉間にしわを寄せ、器用に鼻を押さえている。


(この臭いはいけないものなの……?)


 サス君のただならぬ様子に、言い様のない不安が押し寄せてくる。


 でも、この臭いって……。まさか、こんな所に温泉が湧いてる訳ないよね。私たちが居るのは樹海のド真ん中。なのに何で、こんな所で卵が腐ったような硫黄の臭いがするの? その答えは直ぐに分かった。


「…………瘴気だ」

「…………瘴気が漂っておる」


 ヒスイとシュリナが、同時に厳しい声で呆然と呟く。



「瘴気?」


 この卵が腐った臭いが?


「そうだ。この臭いが瘴気だ」


 私たちの口にした〈瘴気〉という言葉に、厳しさと困惑が混じったような複雑な表情を見せるミレイとゼロ。二人は戸惑いながらも口を開く。


「私は臭いませんが……」


「……俺も匂わないけど」


 ミレイとゼロが困惑な表情を見せていたのは、自分たちが全くその臭いを感知していなかったからだ。


「えっ!? ミレイとゼロは臭わないの!?」


 マジで!? 卵の腐った臭いだよ!? まだ、そんなにきつくはないけど。


「はい」

「ああ」


 ミレイとゼロは困惑の表情を濃くする。


 本当に臭わないみたい。どうして?


 そこまでキツくないとはいえ、それでも十分不快だと感じる程の悪臭なのに。


 ミレイとゼロ以外は、全員その臭いを感知している。その差は一体? その疑問に答えてくれたのはシュリナだった。


「臭わなくて当然だ。瘴気は通常、微力ながらも魔力を帯びておるからな。魔力を感知出来ない、魔力の低い者には臭わん。ただ……瘴気が濃くなった場合は、また別だが」


 シュリナは瘴気が流れてくる方角から視線を外さずに、私の疑問に答える。その声はとても固くて重い。


 なるほど。それで、瘴気が濃くなった時はどうなるの?


「その時は、さすがに、ミレイもゼロも気付くだろうな。まぁそうなったら、目でも確認出来ると思うぜ」


 ヒスイが陽気な声でシュリナの言葉を引き継ぐ。だが、漂う雰囲気はピーンと張り詰めたものがあった。そのアンバランスさに、私は息を飲む。


 ミレイとゼロが確認出来た時点で即アウトだよね。いや、それ以前でアウトでしょ。でも……


「……ここって、聖域の近くだよね」


「後、五分程歩いたら聖域に入る」


「それじゃ、瘴気の中を潜り抜けなければいけないって事?」


 私の声も厳しさを増す。当然だ。瘴気の濃度に関係なく、瘴気の中を突き進むのは危険だ。そんな事、訊かなくても調べなくても分かる。


 迂回した方がいいよね。瘴気を避けなから進むしかないか。


 ミレイとゼロを一旦ベースキャンプまで転移魔法で送ってから、改めて先に進む事を考えたが、サス君の結界とシュリナの結界を二重に掛ければ、瘴気に汚染される事なく、無事聖域まで行けるだろう。聖域まで行ければ大丈夫。そう考えていた。しかし、



「……だといいんだかな」


 そう考えていた私の耳に、シュリナの厳しい声が届いた。独り言のように小さい声だ。


「どういう意味?」


「最悪な見解も頭に入れとかないといけないって事だ」


 物事をズバッとオブラートに包み込むなく、平然と言い放つシュリナが、曖昧な言い方をしている。


 そしてヒスイは、前方を睨み付けたまま微動だにしない。


 いつもとは明らかに違うシュリナとヒスイの様子に、私は底知れぬ不安が押し寄せる。


 こんな時、シュリナとヒスイの心の声が聞ければいいのに……と思う。シュリナとヒスイみたいに、心の声を聞く事があまり得意じゃない。魂の契約を交わしているから、私にもシュリナとヒスイの心の声を聞く事が出来る筈だけど……。聞こえてこない。


 ただ……伝わってくるのは、胸を締め付けられるような悲しみと不安だった。そして、僅かな恐れ。


 シュリナとヒスイが、ここまで心を痛める存在は決まっている。


 シュリナとヒスイが何を考え恐れているか、朧気おぼろげながら見えてきた気がする。


 それは本当に最悪な見解だ。


 もし、シュリナとヒスイが考えている事と同じなら、絶対口にしたくはないと心から思う。


 それでも、私は心を鬼として訊かなければならない。


 自分でも酷いと思うよ。それでもここには、私以外にサス君、ココ、シロタマ、それにミレイやゼロがいる。彼らを無視出来ない。だって、仲間だから。間違ってるかな。



「……最悪な見解?」


(ごめんね……)


「「…………」」


 シュリナとヒスイは何も答えない。ただ……前方を凝視している。


 それだけで、言い様のない不安がこの場を支配していた。


 今までどんな困難な事が起きても、シュリナとヒスイがこんな風に黙り込む事はなかった。


『口にするのも嫌な事だって分かって訊いてる私は、本当に酷いよね。それでも、私は訊くよ。シュリナとヒスイの視線の先に何が見えるの? 私の声聞こえてるよね。答えてよ……』

 

 念話で呼び掛けても、シュリナとヒスイは答えない。代わりに答えたのはココだった。


「……瘴気の元凶が、ゲンブ様の可能性があるって事ですね」


 ココの言葉に、皆の視線が一斉にシュリナとヒスイに向く。


「…………そうだ」


「その可能性が高いな…………」


 やっと、シュリナとヒスイが認めた。


 可能性が高いってヒスイは言ったけど、百パーセント間違いないって思う。でもまぁ……私がするべき事は変わらないけどね。


「…………例え、瘴気の元凶がゲンブ様だったとしても、私は先に進む」


 今度は、皆の視線が一斉に私に向けられる。驚愕の表情の直ぐ後、顔を歪める皆。その胸の内は様々だと思う。


 でも、決めた事だ。



「……いいのか?」


「あいつが無事なのか分かんないんだぞ!! それに、ムツキも「でも、行くしかないでしょ、ヒスイ。ゲンブ様と巫女長が無事かどうかは行ってみないと分からない。少しの可能性があるなら、私はそれに賭ける。それに、私は諦めたくない。ここまで頑張って耐えてきたゲンブ様の事を。その気持ちは、ヒスイもシュリナも一緒でしょ。ううん。私より、その気持ちは大きいんじゃない? 私の事を心配してくれてるのは嬉しい。だけどね。私もシュリナやヒスイの事を心配している気持ちを忘れないで」」


 私を見詰めるシュリナとヒスイの目が、大きく見開く。泣きそうに見えるのは私だけ?


「……ありがとう」


「すまない……」


 シュリナとヒスイが頭を下げる。


「睦月さん……」


 戸惑いがちに、サス君が私の名前を呼ぶ。


「ごめんね、サス君。また勝手に決めたゃって」


 苦笑しながら、サス君の頭を撫でる。


「いいえ。いつもの事ですから。私は、主である睦月さんに付いて行くと決めてますから」


 ちょっとグサッとくるね。でも、そう言って応援してくれるサス君の存在に、私はどれだけ癒されて力付けられた事か。


「サス君には感謝してる。いつも私を支えてくれて」


 ほんの少しでも伝わってくれたらと願う。本当は言葉に出来ないくらい、感謝している事を。


「僕は?」


 ココが抱っこをせがむ。勿論、それを拒否しない。ココを抱き上げる。


「ココにも癒されてるよ。大切な仲間で家族だよ。……ごめんね、ココ。嫌な役回りをさせてしまって」


 ココに言わせてしまった。本来なら、私がゲンブ様の事を口にすべきだったのに。


「いいよ。ムツキは僕の大事な家族だからね。だから、勿論最後まで付き合うよ」


 ココ……。やっぱり、ココは頭がいいよね。そんな事を言われたら、何も言えないじゃない。


「ありがとう、ココ」


 私はココを抱いたまま、ミレイとゼロに視線を移した。



 察しのいい二人は、何を言われるか理解しているみたいだった。ゼロは固い表情で私を見、ミレイは悔しそうに俯く。


「ゲンブ様が瘴気の元凶である可能性が出てきた以上、ミレイやゼロをこれ以上連れて行く訳にはいかない。少し時間をロスするけど、二人をベースキャンプに連れて行ってから、再チャレンジする」


 決断する。


「……分かりました(本当は嫌です!! どこまでも、ムツキ様に付いて行きたい。でも、私の腕では、ムツキ様の足手まといになる。これ以上、ムツキ様の枷にはなりたくない)」


「分かった……(仕方ない。俺とムツキとは背負うものの大きさが違い過ぎる。これ以上は、俺がこの娘の枷になる。好きな娘を苦しめたくない)」


 ミレイもゼロも納得してくれてよかった。納得してくれなくても、強制的に連れて行くつもりだったけどね。


 私にとって、ミレイもゼロも大切な仲間だと思っている。そんな二人を、こんな場所に置き去りなんて絶対出来ない。もし、そんな事が出来る奴がいたら、そいつはグズだよ、グズ。


 転移魔法でベースキャンプに戻ってから、もう一度、ここに戻ってくればいいだけの事。ただ問題なのは、この場所を思い出せるかどうか。転移魔法は、術者の記憶が大きく影響するからだ。


 だったら、スムーズに思い出せるように、ここに目印を残しておけば、直接ここに戻って来れる筈だよね。魔力も戻ってきてるし、大丈夫。さて、どんな目印を残そうかな。出来るだけ、インパクトがある方がいいよね。


「……樹を伐採して更地にしようかな」


「目印のために更地を作るのか?」


 ゼロが顔を引きつらせながら訊いてきた。


 えっ!? 駄目?






 大変お待たせしましたm(__)m


 本当にすみませんm(__)m


 次は出来る限り早く更新出来るよう頑張ります。なので、見捨てないで下さいね。


 それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪

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