第八話 作戦会議(二)
「…………オークですか。それも、ハイオークとは……」
副団長さんは真剣な顔で考え込む。
副団長さんもギルマスも、私たちの報告を疑っている様子はないようだ。信じているのは、サス君の鼻だよね。他の騎士さんたちは半信半疑みたい。ハイオークだもんね、仕方ないか。でも、上司である副団長さんとギルマスが信じている以上、口を挟めないし、今は成り行きをみているってところかな。
果実水を飲みながら、静かに観察を続ける。
「ここ数年、目撃例はなかったからな」
ギルマスは険しい顔で答えた。
繁殖しにくい環境と、当時のハンターたちの容赦ない追撃により、オークの数は極端に減ったと考えられていた。魔物図鑑(手引き書)にも、確かにそうはっきりと書かれてあった。
ふと、思う。確かに数は減ったのかもしれない。減っただけで、絶滅したとは一行も書かれていなかった。となると、
「……目撃例がなかったからといって、大陸からいなくなったと考える理由にはならないんでは?」
少しは参加しないと。当然敬語だ。さすがの私も、最低限の礼節は守らないとね。
おそらく、オークが狙うのは旅商人か旅人。それも、町の近辺じゃなくて、かなり人里から離れた辺鄙な場所の筈。町の近辺で、目撃例がなかったからね。
ある程度の収入がある商人は、自分たちで傭兵を雇ったり、ギルドに依頼してハンターを雇ったりして、自己防衛している。旅人も然りだ。
大きな声で言えないけど、ハンター試験を受けに来る受験者も傭兵を雇っているらしい。
それでも、最低限、自分で対処出来るように鍛えているとは思うけどね。それが魔物に通用するとは限らない。
民間人を警護しながらの駆除は、素人の私でも、かなりの力量と連係が必要だって分かる。
もし私が、民間人の護衛の仕事中に、オークに限らずランクの高い魔物と遭遇したなら、、迷わず、雇い主を庇いながら退路を探す。当然、怪我するだろうね。そして血の臭いは、他の魔物を呼び寄せる。
最悪、一人でも生き残って報告出来ればいいけど、それは正直難しいかもしれない。目撃者を逃がす程、オークも馬鹿じゃないだろうし。幸いオークから逃げ切っても、他の魔物に襲われるのがおちだ。
「……確かに、ムツキの言う通りだな」
オークの危険性が高いとよく周知している分、判断に迷うところだろう。
「それで、どうしますか? ハイオークを念頭に入れて討伐するとなると、この人数では厳しいでしょう」
副団長さんの言う通りだね。
相手は単独で動いている上に、かなりの知恵がある相手。無闇やたらと人数を増やすのも、どうかと思うけど、といって、この人数じゃかなり厳しいのも事実。通常の魔物を駆除しながらでしょ。う~ん、素人でも難しいって分かるよ。でも、今マドガ村にはいないって、サス君言ってたよね……。だったら、
「……通常通り、マドガ村の駆除を最優先にすべきじゃ「どうしてそう考えた?」」
(ヤバイ!? 声に出てた?)
うっかりしてた。まさか、声に出してたとは……完全にとちったよ……。
ギルマスと副団長さんの視線が突き刺さるよ~。他の騎士さんたちは、唖然としながら私を凝視している。サス君もココもだ。
でしょうね。なんだって、プロ中のプロに意見してるんだから。それも、こんな子供が。全くそんな気はなかったのに!! あ~~どうしよう。笑って濁す事は出来ないよね、絶対に。逃げられないよね……腹を括るしかないか。
気を引き締める。
何かを説明する時や意見を言う時は、順序立てて話す方が相手に一番よく伝わる。相手が聞く気があるのなら。だとしたら、最初に言うのは、今、ハイオークが何処にいるかからだ。繰り返しになってもいい。
「……マドガ村には、今ハイオークはいません」
「しかし、近くに潜伏しているのは間違いないだろ」
「確かに。でも、何処に潜伏しているか分からない以上、闇雲に捜索の手を伸ばしたところで、徒労に終わるのでは?」
慣れない敬語に四苦八苦。
「だからといって、何もしない訳にはいかないだろ」
(そりゃぁ、そうだよね)
「しない、と言ってる訳じゃありません。マドガ村に魔物が棲み付いたから、私たちハンターがここに来てます。そして明日、魔物を一斉討伐します。一斉討伐は別として、その様子をハイオークは偵察に来た。……現に今時点で、ハンターがハイオークに襲われていない事から、ハイオークがここに現れたのは、我々の動向を探るのが目的ではないかと……」
「そこまで、ハイオークに知能があると考えているのですか?」
黙って聞いていた副団長さんが割って入った。彼は私に対しても敬語で話す。
「それは正直分かりません。ただ……本能で行動したならば、今頃、被害者が出ている筈ではありませんか? イエール副団長。ハイオークがいくら強くても、素人を庇ったり、逃がしたりする必要がない以上、何かしらの行動に移せると考えます。……ハイオークに、そこまでの知能があるかは分かりません。しかし、その可能性もあるという認識は、持っていた方がいいと思います。その上で行動した方が、闇雲に捜索するよりよっぽどマシではありませんか?」
「つまり……」
ギルマスが答えを促す。
「明日の討伐を派手にする事で、ハイオークに対しての抑止力になると考えます。それが、直接的な打開策でない事は分かります。が、現時点で、ハイオークの棲みかを認識出来ていない以上、これが一番の策だと考えます。ここで、ハイオークが我々を恐れてこの地を離れるか、それとも驚異を感じで襲ってくるか、それは分かりませんが、民を護る点で言えば、我々の勝ちではありませんか?」
最後まで言い切ったよ。こんな大人の中で、私すっごく頑張った。頑張ったよね。
ギルマスと副団長さんは一瞬驚いた表情を見せた後、おかしそうに笑いだした。今、そこ笑うとこ。
呆気にとられて、呆然としている私に、ギルマスは告げた。
  
「まさか、俺が一本とられるとはな。明日は派手にぶちかましてやろうぜ!!!!」
その声を合図に、食堂の店主が冷えたエールを持ってきた。
私とココの前には、カコアとフワフワのパンケーキ。サス君にはビーフシチューのおかわりだ。
「俺からの奢りだ。遠慮せずに食え。おい! お前ら、三杯目からは自分持ちだからな!」
前半は私たちに、後半はギルマスと騎士さんたちに声を掛けると、店主は持ち場に戻った。
「ありがとうございます!!」
「おう」
勿論、デザートは別腹です。
その後、散々飲み食いをして食堂を出たのは、どっぷりと陽が暮れていた。
ギルマスと騎士さんたちは簡易宿屋に行こうとしていたので、私はそこで皆と別れるつもりだった。だって、満室で断られたしね。
「宿屋に行かないのか?」
不思議そうな顔でギルマスが訊いてきた。
「いえ、満室で泊まれなかったので野宿です」
「「「「「「野宿!!!!」」」」」」
綺麗にハモったね。そんなに野宿が珍しいのかな? 私以外にも、結構なパーティーが野宿してたけど。
「ちょっと待て!! ムツキ、昨晩どうした!?」
ギルマスが慌てる。
「えっ? 野宿ですけど。天然毛布(サス君)もありますし、全然寒くなかったですよ。それに今は、浄化魔法も使えるようになったので、体と服の汚れは取れますし、お風呂に入れなくても全然平気です」
心配掛けないように、明るく答えた。すると、見る見る目の前の大人たちの顔色が変わっていく。
「おい!! ジェイ!! お前は、こんないたいけな子供を野宿させたのか!!!!」
副団長さん、口調変わってませんか? ギルマスの胸ぐらを締め上げてるし、それが素なの。
「いや、ギルドは間違いなく予約を入れたぞ!!!!」
ギルマスは訂正する。その時だった。
知らないおじさんが、スライング土下座をしたのはーー。
「うちの息子が宿泊拒否をしてしまい、本当に申し訳ありませんでしたーーーー!!!!!!」
土下座した人間を見たのは初めてです。どうやら満室じゃなくて、宿泊拒否をされたみたいです。
あっ! 後頭部に十円ハゲみっけ。
「ほ~~~~主を宿泊拒否とは、余程、貴様の息子は偉いようだな」
「偉いんだよ。ギルドからの予約と、シルバーランクのムツキを拒否したんだから。で、息子さんは何クラスなのか教えてよ」
サス君とココが、土下座したおじさんにゆっくりと近付く。
可哀想な程、おじさんはガタガタと震えている。
当たり前か……鼻息が掛かる距離にフェンリル(実は狛犬/戦闘モード)がいるんだから。絶対、わざとやってるよね。それって、明らかに脅してるよね。止めないけど。
「ほら、教えてよ。何クラス?」
ココが詰め寄る。
ココ……それ、どこから見ても完全に悪者だよ。サス君もわざわざ顔を近付けたままだし。まぁ、何で宿泊拒否されたのか、おおよその見当はつく。
「……別に構いませんよ。顔を上げて下さい。これ以上、下げられるのは不愉快ですから」
ホッとした顔をするおじさん。
勘違いしないで。別に許した訳じゃないから。
「あっ、それかり今から宿屋に泊まれって言われても困りますので。後、キャンセル料ですが、それはそちら側の不手際から発生したので、貴方が出して下さいね。それじゃ、ギルマス、騎士の皆さん、お休みなさい」
いくら謝られても、泊まるつもりは始めからないし、こんな茶番に付き合うつもりもなかったので、さっさとその場を後にした。後、ギルマスと騎士さんたちが宿屋の店主に何を言ったのかは知らない。
で………………何で、皆ここにいるの?
ほんの少し、ざまぁを書いてみました。
次回は、いよいよ討伐シーンです!!
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪
 




